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 6話 鳴り響くファンファーレ (康平視点:2)



 木下と岡田の声を聞きつけて、他の奴らまで俺の席に寄ってきた。


「え?沢村、好きな子いたんだ!誰?誰?」

「うそでしょ!本気?うわ〜、ショック!」


 質問攻めに合っている俺の視界の片隅に、教室に入って来る奈恵が写った。今朝は特に冷えてたから、奈恵のほっぺたと鼻の頭が赤く染まっている。子供みたいだ。チクショウ、可愛いな〜。


 奈恵のあどけなさに、つい顔を赤らめながら、人垣の合間から様子を伺っていると、奈恵は、教室を見渡して、何だか不思議そうな顔をしている。

 奈恵の席に、新井が近寄っていく。新井美樹は、奈恵の親友らしい。何話してんだろ。いいなぁ、俺もあっちに混ざりたい…って、もしかして俺か!俺のネタか!待て、新井。“沢村に好きな子ができたらしい”とか中途半端なネタを奈恵に聞かせるな!!


 何を話しているか聞き耳を立てたいけど、とにかく俺の周りに人が集まりすぎてる。壁のようだ。いっそ壁なら静かでいいのに、どいつもこいつもやかましい。


 奈恵はどう思うだろう?少しは気にしてくれるのか?「ほんとなの?康平?わたし、康平のこと好きだからショックだよ…」とか目をうるうるさせて言ってくれないかな?……いや、それはないな。奈恵、そういう感じのキャラでもないし…


「もしかして、もう付き合っちゃってたりして。」


 壁軍団の中の誰かが、からかうような調子で聞いてきた。うるさい、今、大事なイメージトレーニングしてんだよ! 


「どうでもいいだろ!ほっといてくれよ!」


 今度は怒りで顔を赤くして、少し強めの口調で壁軍団に抗議した。が、俺の抗議は聞き届けられることはなく、まだ何だかんだと聞いてくる。いっそ塗り固めて『ぬりかべ』にしてやりたい。


「こら~。席に着けよ~。」


 担任が教室に入ってきて、やっと壁軍団は崩壊した。今日ばかりは、担任が救いの神に見えた。








 休み時間のたびに、奈恵のところに行って、朝の騒ぎを聞いたかどうか確かめようとするけど、チャイムとともにまた壁軍団に行く手を塞がれてしまう。


「2組の鈴木さん?」

「いや、4組の春香ちゃんじゃない?」

「ブッブー。あの子は去年、すでに断られてまーす。」

「じゃ、2年か?意外と年下好みで1年とか?」

「1年か。大穴かも。」


 何だか犯人探しゲームのようになってきた…。大体、大穴ってなんだよ?まさか賭けたりしてねえだろうな?

 それにしても、色々挙げられる名前の中に、奈恵の名前が出てこない。何でだ?頻繁に、というほどではないけど、俺と奈恵は学校でも割と普通に話をする。登下校のときも、会えば一緒に歩いてたりするのに。

 周りの奴らは、俺たちを“単なる幼馴染”としてしか認識してないってことか。何で?俺ら、けっこうお似合だと思うんだけど(←根拠はない)。 


 こんな休み時間を繰り返し、奈恵に話を聞きに行けないまま、時間はどんどん過ぎて放課後になった。


 その日の授業は、まったく聞いてなかった。






 待ちに待った下校時間。また壁に囲まれないうちに教室をダッシュで出た俺は、奈恵を下駄箱で待ち伏せしようとした。一緒に帰りながら話したかった。が、下駄箱を見てがっかりした。奈恵の靴はすでになかった…。奈恵、早すぎ。


 まあいいや。家に帰ってからゆっくり話そう。慌てて靴を履き替えていると、カバンの中の携帯が震えだした。少ししたら止まったのでメールだと分かる。たぶん母さんからだろう。


 本当は、学校に携帯を持ってきてはいけないが、うちの両親は忙しく、帰宅が夜の10時、11時になるのはよくあることだった。そういう時は、夕食を奈恵の家でごちそうになりなさい、とメールで連絡してくる。俺的にはとても嬉しい。その連絡を確実に伝えるために母さんから「マナーにして、こっそりカバンに突っ込んでおきなさい。授業中にはメールしないから。」と親共犯で携帯を持たされている。


 そのくせ、「ヘマして見つかって没収されたりしたら、あんたのお小遣いから弁償してもらうからね。」と脅された。母さん、オニだ。


 学校の門の外に出てから携帯を開く。やっぱり母さんからのメールだった。


  題名:ご飯は西崎家

  本文:


 ……母さん、本文打てよ……。






 いつもなら、カバンを置いて着替えてから奈恵の家におじゃまする。でも、今日はすぐに奈恵に会いたかった。第2の我が家とも言える西崎家にまっすぐ向かって、いきおいよく玄関のドアを開けた。


 一応、断っておくが、“よそのお宅におじゃまするときは、まずチャイムを鳴らす”という人として最低のマナーを知らないわけではない。昔は、訪れるたびにチャイムを鳴らしていたが、ある日おばさんに「いちいち面倒だから、勝手に入ってきなさい。家族みたいなもんなんだから。」と言われたので、それ以来自分の家に帰るのと同じように入っていってる。

 さすがに「ただいま」というのは、照れくさくて言えないけど。


「こんにちは~。またお世話になりま~す。」


 おばさんに声をかけながら、靴を脱いでいると、階段にいた奈恵が


「じゃ、お母さん、私、部屋に行くね。」


 と言っているのが聞こえた。待ってくれ、奈恵!俺はお前に会うために走ってきたんだぞ!


「お、奈恵、随分早い帰りだな。俺、うるさい奴らから逃げたくて速攻帰ってきたのに。」


 俺を置いて帰りやがって、と、逆恨みとしか言いようのない思いをこめて奈恵に声をかけた。

 もう逃がしてなるものか!部屋に行くなら俺も行く。 


 「まあね…」とか、よく分からない返事をしながら、奈恵はそそくさと階段を上がる。


「奈恵。今日寒いから、俺、煮込みハンバーグが食いたいなぁ。」

 

 ぜってー逃がさねえ。当たり障りのない会話をしながら、さりげなく奈恵について行こうとする俺に、おばさんが教えてくれた。

 

「ごめんね、康平君。奈恵、調子が悪いみたいで…。今日のご飯はおばさんが作るの。」


 俺の奈恵が!?調子が悪いだってええええ!!!!!

 医者か?病院か?救急車か?落ち着け、まずはどこが悪いか聞かないと。


「調子悪いって…熱でもあんの?」

「少しお腹が痛いだけ。冷えたっぽいから、たぶん寝てれば治ると思う。」


 少しか。良かった。確かに今日は寒かった。


「どうせ、腹出して寝てたんだろ。奈恵は昔から寝相悪いからな~。」


 ホッとしてからかってみる。いつもの奈恵ならここで赤い顔して「大きなお世話よっ!」と返してくるはずだ。その顔はとてもかわいい。


 が、奈恵は俺の言葉に返事をせず、くるりと背を向け部屋に入り、ドアを思い切りバタンと閉めた。

少しとか言いつつ、ほんとはけっこう痛いんじゃないのか?心配で部屋のドアを見つめていると、おばさんが俺の肩をポンっと叩いた。


「大丈夫よ。あの子、気分が落ち込むとお腹が痛くなることがたまにあるの。

 学校で美樹ちゃんとケンカでもしたのかもね。しばらくそっとしておいてあげて。」


 今日1日、壁に囲まれていた俺には、奈恵の様子がすべて見えていたわけではないけど、新井とケンカをした感じはなかった。休み時間のたびに一緒にいて、俺はうらやましかったのだから。

 じゃあ、奈恵が落ち込んでいる理由は何だ?………もしかして……………俺!?

 奈恵ってば、俺のあの騒ぎのせいで落ち込んでんじゃないのか?だとしたら……奈恵も俺のことを!?


 急に目の前が明るくなった気がした。どこかからファンファーレの音さえ聞こえる。

 よし!奈恵!心配するな!ちゃんと俺の気持ちを伝えるからな!!


 すぐに奈恵の部屋に飛び込んで行きたかったけど、おばさんから「そっとしておいてあげて」と言われたばかりでそれはマズイか。そうだ、ご飯のあとで奈恵の部屋に行ってみよう。


 そう決めた俺は、心の中で“カッコいい告白の仕方”のイメージトレーニングを始めた。










ますます崩壊していく康平のイメージ…

そろそろこのお話も折り返し地点です。

もうしばらくお付き合いくださると嬉しいです。

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