5話 バレンタインといえば (康平視点:1)
ここから、3話ほど康平視点が続きます。
康平のイメージが…ビミョーかもしれません…
「いいなぁ~、お前らは。」
友達の木下が呟いた。
HRが始まる前の教室。前の席の木下と、通路を挟んで右隣に座っている岡田と雑談をしているときだった。上の空だったつもりはないが、うらやましがられる様な話の流れが何かあっただろうか?確か、「2月に入って、受験まであと少しだな。」というような会話をしていたはずだ。
「だから、2月だろ?受験の前に1つ、ビッグなイベントがあるじゃないか!」
2月と言えば…あ、明後日の節分?願掛けに恵方巻きを食べるってアレか?
恵方巻きと言えば、去年は西崎家で、奈恵が作った恵方巻きをごちそうになったっけ。うまかったなぁ、あれ。
奈恵はどんどん料理が上手になる。西崎のおばさんが料理上手なので、師匠が良いというのもあるだろうが、奈恵はネットで検索した、おばさんとは一味違った料理も作ってくれたりする。
おそらく、仕事が忙しくて、なかなか台所にゆっくり立てない俺の母さんより、奈恵の料理の方がうまい気がする。
「バレンタインのことか?」
奈恵のおいしい料理の数々に思いを馳せていた俺の耳に、岡田の声が飛び込んできて現実に戻る。
岡田の問いに、木下が頷きながら答える。
「そ、バレンタインのこと。どうせ、今年も沢村と岡田はたくさん貰うだろ?
俺なんてチョコ大好きなのに、毎年1個か2個の義理チョコしか貰えないんだぜ?」
ああ、バレンタインね…。今年もくるのか。アレが。
俺は、バレンタインが嫌いだ。自慢をするわけじゃないが、俺はそこそこモテるようだ。ちなみに、岡田も割とモテる奴だ。
だから、バレンタインには小学生の頃から、毎年いくつかのチョコをもらっていた。 学年が上がるにつれ、年々渡されるチョコの数は増えていく。去年は義理と本命合わせて、最高記録の17個だった。
基本、告白されてもその場で断るようにしているし、バレンタインのときも本命のチョコはできるだけ「ごめん、受け取れない。」と伝えているのだが、「一生懸命作ったので、せめて受け取ってください。」と言われると無碍にできない…。
机にこっそり入れていく子もいて、そうなると返却不可能だ。メッセージカードに名前は書いてあるけど、わざわざ呼び出して返すなんて、申し訳なくてできない。
そうして、毎年もらったチョコの処分に困るハメになるんだ。
毎年、バレンタイン当日に食べるのは奈恵のチョコだけだ。そういや、去年のチョコのチーズケーキは絶品だったなぁ。今年も作ってくれるんだろうか?
他の人からもらったチョコは、次の日から、日持ちしなさそうな物を優先して、ひたすら食べる。父さんや母さんも手伝ってはくれるけど、俺に作ってくれた物だから、可能な限り自分で食べる。
幸い、ニキビも鼻血もでないけど、食べつくす頃には軽くチョコ恐怖症だ。元々は好きなのに。
さらに、もう1つ憂鬱になる理由がある。ホワイトデーだ。
貰いっぱなしというのは気が引けるため、くれた子には全員お返しをする。と言っても、スーパーの特設コーナーで売ってる、かわいらしい缶に入った500円程度のクッキーぐらいしか返せないけど。
貰ったチョコに対して、いささか金額がみみっちい気もするけど、500円程度の品物だって、10個以上買えば、5千円を超える!中学生には大金だ。当然、こづかいじゃ足りないから、お正月にもらったせっかくのお年玉の中からいくらか取り崩す。
一度、母さんにカンパをお願いしてみたが、「自分へのプレゼントのお返しくらい、自分で買いなさい。」と、冷たく突き放された。俺からのおすそ分けを「おいしい~。」と喜んで食べてるくせに何だかズルい。
第一、俺が本当に欲しいのは奈恵のチョコだけなんだ!さらに言えば、奈恵からの“本命チョコ”が欲しいんだ!!
俺は、昔から奈恵が好きだ。奈恵は、特別目立つ訳ではないけど、彼女の裏表のない性格、何にでも一生懸命取り組むところ、からかうとムキになるところ。他愛のないことばかりだけど、俺から見ると可愛くてしょうがない。
が、あまりに距離が近すぎて、一歩踏み出すことができない。情けないけど、振られてギクシャクするのが怖いんだ。
大体、奈恵は俺のことを男としてみてくれてるのか?まさか、兄弟みたく思ってるとか言わないよな?いや、あいつ、恋愛とか疎そうだし、ありえない話じゃないよな…。
俺たちももうすぐ高校生。新しい出会いがある。その中に、奈恵のことを好きになる奴が現れたら?奈恵がそいつのことを好きになったりしたら!?
自分で考えたことに、一人で青くなる横で、岡田が呟いたのが聞こえた。
「う~ん…、でも、俺あんまり甘いもの得意じゃないから、チョコは1つで十分なんだけど…」
そうだよ!チョコは1つでいいんだ!
よし、今年は奈恵からのチョコしか受け取らないぞ!そして「これ、本命チョコにしてくれよ。」って渋めに言ってみよう。なんかカッコいいかも!
「俺、今年は、好きな子以外のチョコは受け取らない!!」
気が付くと、決意が声に出ていた。しかも割りとデカい声で。やべっ!俺、名前とか口走ってないよな?こんな形で告白とか恥ずかしすぎるし。
「「え!好きな子できたのか?」」
俺より数段デカい声で、木下と岡田が聞いてきた。勘弁してくれ…。
いかがでしたか?康平、けっこうヘタレな感じです。
受け入れていただけるかとても心配です。
意図した方向と違うキャラになりつつあります。
小説情報に“コメディ”のタグを追加することにします…。