表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/12

 3話 今年のチョコは 

今、書き溜めてある文は、確認が終わり次第随時アップしていきます。




 やっと、自室にたどり着いた私は、着替えてすぐベッドに入った。そして、頭からすっぽり布団をかぶり、できるだけ声を殺して泣いた。階下にいる康平に気づかれないように…。

 

 どんな人なんだろう?康平は自分から告白するんだろうか?付き合っちゃったりするんだろうか?

 

 次から次へと疑問が浮かぶ。いつかはこんな日が来ると思っていた。康平に好きな人が出来るとき…。たぶん、康平ならうまくいくだろう。見た目だけではなく、中身もいい奴だもの。

 「奈恵、彼女は○○さん。俺たち、付き合うことになったんだ。」とか、紹介されたりするだろうか?大丈夫か、私?笑える?「良かったね。よろしく、○○さん。」なんて言える?いや、言わなきゃ。だって、私は康平の恋の応援団になるって決めたんだもの。


 もんもんと考え、考えては泣きを繰り返していると、階段を上がる足音が聞こえてきた。

 この足音は…康平だ。ベッド脇に置いてある携帯電話で時間を確認すると午後8時。康平がそろそろ自宅に戻る時間だ。きっと、帰る前に私の様子を見に来たのだろう。


 案の定、コンコン、と私の部屋のドアがノックされた。でも、“今日は泣かせてデー”真っ最中の私は、寝たふりを決め込むことにした。

 もう1度ドアがノックされた。「寝てます。」と心の中で返事をして、私はまた布団をかぶった。

 

 すると、予想外のことが起きた。部屋のドアがゆっくり開き始めた気配がするのだ。


「…奈恵?」


 小さな声で、康平が私の名を呼んだ。いつもと違う、ささやくような声にドキっとしてしまった。


「…奈恵、寝てるのか?」


 「寝てます。」心の中でもう1度返事をして、布団の中でギュッと目を瞑った。康平が早く帰ってくれますように…。

 願いむなしく、康平が忍び足で私の方へ近づいてきた。私の心臓はドキドキとうるさいくらい鳴って、布団の外まで聞こえてしまうんじゃないかと心配になるくらいだった。

 

 (早く帰ってよ~!)心の中で抗議をしてみるが、康平はベッドの脇に立ったまま動く気配がない。たぬき寝入りがバレてるのか!?どうしよう、いびきでもかいてみる?いや、ムリムリ!そんな演技力ないし!


 康平は、まだ私の傍らに立っている。…お腹鳴ったりしないかな?静まりかえった部屋の中、なんだか随分時間が長く感じる。




「…早く治せよ。」


 不意にそう呟くと、ポンポン、と私の頭辺りの布団を優しく叩いて康平は部屋を出て行った。その、あまりに優しい声音に、私はまた、声を殺して涙を流した。


 







「う~……。喉渇いた……。」

 

 携帯電話の時刻を再度確認する。午前0時10分。どうやら、泣き疲れた私は、3時間ほど眠っていたらしい。布団から出て、ベッドに腰掛け、ふぅっと小さく息を吐いた。うん、泣くだけ泣いたら随分すっきりした。

 

 10年以上抱き続けた恋心が、これっぽっちの涙で洗い流せたわけではないし、康平の好きな人のことを思うと、まだまだ胸は痛いが、明日(すでに今日か?)、康平の前で泣くという失態は回避できそうだ。

 

 とりあえず、この重たくて半分ほどしか開かないまぶたを冷やしてあげなければ。お世辞にも大きいとは言えない目が半分では、あまりにも不憫だ。


 「よっこいしょっ。」


 15歳の乙女とは言いがたい掛け声で立ち上がった私は、アイスノンと目薬と水を求めて階下に下りることにした。

 部屋を出るとき、ガサっと音がして、何かを蹴飛ばしてしまったようだ。ちょうどドアの横にスイッチがあるので、電気をつけてみた。


 足元には、小さな紙袋が転がっていた。その中身は、この前の週末に買ってきた、チョコブラウニーに使うクルミやラッピング用品だ。


 私は、毎年、康平にチョコを渡していた。あくまで義理チョコとしてだけれど。康平は甘党で、普段から私が作るお菓子を喜んで食べてくれていた。

 最初は、チョコを溶かして、型に流しいれるだけのチョコだったが、年々腕を上げた私は、凝ったものを作れるようになっていた。

 去年のバレンタインで渡した『ショコラチーズケーキ』は、康平の大好きなガトーショコラとチーズケーキがコラボした感じの逸品で、康平の大好評を博したのだった。クルミも大好きな康平のために、今年はチョコブラウニーを焼く予定だったんだけど…。


 だめ。渡せない。“本命の子のチョコ以外、受け付けません!”と宣言した康平に、本命心たっぷりのチョコを「幼馴染だから。」と、偽装義理チョコにして受け取ってもらうなんて、姑息な手は使いたくない。


 「…せっかくそろえた材料、もったいないな……。」


 一人で呟いたとき、また涙が頬に一筋伝った……。









朝、制服に着替えていると、階下から母の声が聞こえてきた。


「奈恵~。起きてる~?調子どう~?」


 返事をする前に、鏡を見る。アイスノンのおかげで、まぶたの腫れは“寝すぎ”でごまかせるくらいには引いていた。アイスノン、いい仕事するね~。


「大丈夫!今、ご飯食べに降りるね。」


 母に答えて部屋を出た。うん、お腹の虫が大合唱してるね。昨日は、給食以降、何も口に入れなかったので、ものすごくお腹が空いていた。私ってタフだなぁ。

 

 しっかり和食の朝ご飯を食べて、身支度を整えて、いつも通りの時間に家を出た。


「いってきます。」


 キッチンで洗い物をしてくれている母に向かって声を掛け、玄関のドアを開けた。


 開けたところで、門の前に立っている人物を見て、驚いて一瞬足を止める。

 そこには康平が立っていた。

 

 




アクセスのカウント数や、お気に入りの登録数を見るたびにパワーをいただいています。本当に感謝しております。ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ