表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/12

 1話 衝撃の宣言

初めまして。山千と申します。初投稿です。

まだまだ拙い文章だと思いますが、よろしくお願いします。



「おは…」


「え~!マジで~!」

「うそ~!ショック~!」


 2月にはいったばかりの寒い朝、かじかんだ手に息を吹きかけながら教室に入った私の挨拶は、複数の女子が上げる黄色い声にかき消されてしまった。何事かと思いながら、自分の席へ進む間にも、声が止むことはなく、合間にすすり泣く声も聞こえるほどだ。

 来月初めの公立高校受験に向けて、朝は自習をする者も増えていた近頃で、この光景は異様だった。


「おはよ。奈恵。」

「あ、おはよう、美樹ちゃん。何の騒ぎ?」


 私の席に近づいてきて挨拶をしてくれた親友の美樹ちゃんは、いつになく元気がない。私は、挨拶を返しながら、この喧騒の理由を尋ねてみた。


「…うん…。原因は沢村なんだよね……。」

「康平?」


 美樹ちゃんは、俯きながら、やはり元気のない声で話し始めた。 

 美樹ちゃんが言うところの“原因”である、沢村 康平は、私の幼馴染だ。彼が何を仕出かしたのか?同じクラスの、私の斜め後方にある彼の席を振り返ってみると、彼の席の周りに何人かの男女が集まっている。そこから、「どうして?」とか「え?誰?誰?」とかいう声が聞こえてくる。

 状況がよく分からず、もう一度美樹ちゃんの方に向き直ると、美樹ちゃんが小さな声で続きを話し出した。


「…もうすぐバレンタインじゃん?」

「…うん、そうだね。」

「で、木下たちが沢村に『いいな~、お前は。どうせ、今年もわんさか貰うんだろうな~。』みたいなことを言ったみたいなの。」


 そうなのだ。康平は昔からよくモテる。大きめなのに、切れ長でシャープな目。すっと通った鼻。サラサラの髪。中学に入ってからは身長も伸び、中学3年にして175cm越え。まだまだ伸び盛り。スポーツ全般が得意な上、所属する部活のバスケット部ではエースだった。勉強も上位クラス。性格も明るく、男女問わず人気者だ。


 その幼馴染が私、西崎 奈恵。顔、良くも悪くも普通。どちらかといえば地味…。身長も平均的な158cm。すでに伸び悩み。太ってはいない(はずだ)けど、お腹や二の腕は気になるところ。長所…長所…あるか?出て来い!長所!

 あ!あった!!料理が得意。ご飯のおかずも、お菓子も作れる。たまに、うちでご飯を食べていく康平にも料理は好評だ。というか、康平のために料理の腕を磨いたのだ。


 そこで、一呼吸置いていた美樹ちゃんが、さらに声をひそめて話を続けた。


「そしたら、沢村が『俺、今年は、好きな子以外のチョコは受け取らない。』って答えたんだって。それを、普通のトーンで話してたから、周りにも聞こえたし、さらに、木下たちが『え!好きな子できたのか?』ってでかい声で言ったもんだから、教室中に洩れなく広まってね。で、この騒ぎ。」

「……。」


 瞬間、私も大きな声で「何それ!」と、叫びそうになった。でも、同時に湧き上がりそうになった涙をこらえる方が最優先で、声なんか出せなかった。

 そう、幼馴染にありがちな話だが、私は康平が好きだ。物心付いた頃からずっと。でも、幼心にも、私と康平に向けられる大人たちの『かわいいね。』の言葉のニュアンスの違いは伝わったし、成長するにつれ、その違いは自ら感じるようになり、告白をする勇気も自信も持てないまま、“気の合う幼馴染”のポジションに収まって満足していた。

 中学に入ってからは、康平が告白された話が、何度も耳に入るようになった。告白するのは、康平とお似合いだと自他共に認められる、恵まれた容姿の子がほとんどだった。

 噂を聞くたびに、康平から「彼女が出来た。」の報告を聞かされやしないかとドキドキしていたが、康平にその気は無いようで、いつも「ごめん。誰とも付き合う気は無いから。」と断っていたようだ。

 その康平に、とうとう好きな子ができたのか…。


「…奈恵、大丈夫?」


 ショックで俯いたまま、何も言葉を発しない私に、美樹ちゃんが、私にだけ聞こえるくらいの声で、心配そうに尋ねてきた。美樹ちゃんは、私の恋心を打ち明けてある唯一の友人だ。

 教室の片隅から聞こえているすすり泣きは、康平に想いを寄せている子のものだろう。正直、私も今すぐここで泣き出したかった。


「…大丈夫。」


 あまり大丈夫そうな声は出せなかったけど、なんとか返事をした私は、もう一度、彼の席を振り返った。相変わらず、真相を追究する数人の男女に囲まれて、顔を赤くしながら「どうでもいいだろ!ほっといてくれよ!」と、ふてくされながら言っている康平が見えた。

 赤くなって照れる康平なんて初めて見た。…その子のこと、本当に好きなんだな。自分で思ったことに心臓がきゅうっと絞られる感じがした。でも、ここでは泣けない。“気の合う幼馴染”の私は、康平に「頑張れよ。」と、色気も無く、笑顔で肩を叩いてあげなくてはいけないのだ。泣くのは家に帰って、自分の部屋の中でだ。


 唇を噛み締めながら自分に言い聞かせていると、教室のドアが開いて、担任が入ってきた。


「こら~。席に着けよ~。」


 その一言で、皆が自分の席に戻り、HRが始まった。

 もう一度、チラッと斜め後ろを振り返る。康平は、まだ少し赤い顔をしていた。


 






このお話を読んでくださり、ありがとうございました。

誤字、脱字、気になる点がございましたら、教えてやってくださいね。

あまり長くない連載になると思いますが、またお付き合いくだされば嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ