1話 衝撃の宣言
初めまして。山千と申します。初投稿です。
まだまだ拙い文章だと思いますが、よろしくお願いします。
「おは…」
「え~!マジで~!」
「うそ~!ショック~!」
2月にはいったばかりの寒い朝、かじかんだ手に息を吹きかけながら教室に入った私の挨拶は、複数の女子が上げる黄色い声にかき消されてしまった。何事かと思いながら、自分の席へ進む間にも、声が止むことはなく、合間にすすり泣く声も聞こえるほどだ。
来月初めの公立高校受験に向けて、朝は自習をする者も増えていた近頃で、この光景は異様だった。
「おはよ。奈恵。」
「あ、おはよう、美樹ちゃん。何の騒ぎ?」
私の席に近づいてきて挨拶をしてくれた親友の美樹ちゃんは、いつになく元気がない。私は、挨拶を返しながら、この喧騒の理由を尋ねてみた。
「…うん…。原因は沢村なんだよね……。」
「康平?」
美樹ちゃんは、俯きながら、やはり元気のない声で話し始めた。
美樹ちゃんが言うところの“原因”である、沢村 康平は、私の幼馴染だ。彼が何を仕出かしたのか?同じクラスの、私の斜め後方にある彼の席を振り返ってみると、彼の席の周りに何人かの男女が集まっている。そこから、「どうして?」とか「え?誰?誰?」とかいう声が聞こえてくる。
状況がよく分からず、もう一度美樹ちゃんの方に向き直ると、美樹ちゃんが小さな声で続きを話し出した。
「…もうすぐバレンタインじゃん?」
「…うん、そうだね。」
「で、木下たちが沢村に『いいな~、お前は。どうせ、今年もわんさか貰うんだろうな~。』みたいなことを言ったみたいなの。」
そうなのだ。康平は昔からよくモテる。大きめなのに、切れ長でシャープな目。すっと通った鼻。サラサラの髪。中学に入ってからは身長も伸び、中学3年にして175cm越え。まだまだ伸び盛り。スポーツ全般が得意な上、所属する部活のバスケット部ではエースだった。勉強も上位クラス。性格も明るく、男女問わず人気者だ。
その幼馴染が私、西崎 奈恵。顔、良くも悪くも普通。どちらかといえば地味…。身長も平均的な158cm。すでに伸び悩み。太ってはいない(はずだ)けど、お腹や二の腕は気になるところ。長所…長所…あるか?出て来い!長所!
あ!あった!!料理が得意。ご飯のおかずも、お菓子も作れる。たまに、うちでご飯を食べていく康平にも料理は好評だ。というか、康平のために料理の腕を磨いたのだ。
そこで、一呼吸置いていた美樹ちゃんが、さらに声をひそめて話を続けた。
「そしたら、沢村が『俺、今年は、好きな子以外のチョコは受け取らない。』って答えたんだって。それを、普通のトーンで話してたから、周りにも聞こえたし、さらに、木下たちが『え!好きな子できたのか?』ってでかい声で言ったもんだから、教室中に洩れなく広まってね。で、この騒ぎ。」
「……。」
瞬間、私も大きな声で「何それ!」と、叫びそうになった。でも、同時に湧き上がりそうになった涙をこらえる方が最優先で、声なんか出せなかった。
そう、幼馴染にありがちな話だが、私は康平が好きだ。物心付いた頃からずっと。でも、幼心にも、私と康平に向けられる大人たちの『かわいいね。』の言葉のニュアンスの違いは伝わったし、成長するにつれ、その違いは自ら感じるようになり、告白をする勇気も自信も持てないまま、“気の合う幼馴染”のポジションに収まって満足していた。
中学に入ってからは、康平が告白された話が、何度も耳に入るようになった。告白するのは、康平とお似合いだと自他共に認められる、恵まれた容姿の子がほとんどだった。
噂を聞くたびに、康平から「彼女が出来た。」の報告を聞かされやしないかとドキドキしていたが、康平にその気は無いようで、いつも「ごめん。誰とも付き合う気は無いから。」と断っていたようだ。
その康平に、とうとう好きな子ができたのか…。
「…奈恵、大丈夫?」
ショックで俯いたまま、何も言葉を発しない私に、美樹ちゃんが、私にだけ聞こえるくらいの声で、心配そうに尋ねてきた。美樹ちゃんは、私の恋心を打ち明けてある唯一の友人だ。
教室の片隅から聞こえているすすり泣きは、康平に想いを寄せている子のものだろう。正直、私も今すぐここで泣き出したかった。
「…大丈夫。」
あまり大丈夫そうな声は出せなかったけど、なんとか返事をした私は、もう一度、彼の席を振り返った。相変わらず、真相を追究する数人の男女に囲まれて、顔を赤くしながら「どうでもいいだろ!ほっといてくれよ!」と、ふてくされながら言っている康平が見えた。
赤くなって照れる康平なんて初めて見た。…その子のこと、本当に好きなんだな。自分で思ったことに心臓がきゅうっと絞られる感じがした。でも、ここでは泣けない。“気の合う幼馴染”の私は、康平に「頑張れよ。」と、色気も無く、笑顔で肩を叩いてあげなくてはいけないのだ。泣くのは家に帰って、自分の部屋の中でだ。
唇を噛み締めながら自分に言い聞かせていると、教室のドアが開いて、担任が入ってきた。
「こら~。席に着けよ~。」
その一言で、皆が自分の席に戻り、HRが始まった。
もう一度、チラッと斜め後ろを振り返る。康平は、まだ少し赤い顔をしていた。
このお話を読んでくださり、ありがとうございました。
誤字、脱字、気になる点がございましたら、教えてやってくださいね。
あまり長くない連載になると思いますが、またお付き合いくだされば嬉しいです。