好きだという言葉じゃ足りないと思うから
設定としてはこの季節ごろの感じです。
読書の秋ということでお楽しみいただけたらと思います。
「え?うそ?マジかよ……」
一瞬だった。本当にほんの一瞬だった。いつも当たり前のようにいる存在の横顔が美しく、そしてキレイだって思ってしまった。
ああ、これが恋してしまったってやつだな。まさかこいつにそんな感情抱くなんて思っても——考えてもみなかった。
「ん?どうかした?」
「い、いや何でもねえよ」
ヤバい……、めっちゃ動揺してんじゃん……。うわあ……、めっちゃ好きって気持ちが溢れ出てくる……。思わず「好きだ!」って口に出してしまいそうになる。
「どうせまたしょうもないこと考えてるんでしょ?」
呆れた感じでそう言う彼女は俺の幼馴染、神崎真凛。どうやら俺のこの気持ちがバレたということはなさそうだ。
でもこいつのこの感じは俺がさっきまでそうだった——当たり前のようにいて当然のような恋愛感情とかがない状態だ。
長年一緒にいるんだ。それくらい分かるさ。だから今このままの勢いで「好きだ!」なんて言っても「はいはい」とか「あっそ」で終わる。
一緒に居過ぎたせいで家族みたいな感じになっているから多分通じない。さっきまでの俺がそうだったからな。くそっ!こっちはもう好きで好きで堪らなくなってる。
どうすればいい?ああ!めっちゃ苦しいじゃん!好きだって言っても通じないし、最悪嫌われて疎遠になる可能性だってある。
世の中の恋してるやつらはどうやってこの感情を処理してんだよ……。無理矢理心の中に押し込めて耐えているのか?俺には無理だ!
真凛が髪を耳にかける。普段意識なんてしてなかったけど、こいつの耳、こんな形だったんだ……。いやいや、何を思ってるんだ俺は!意味が分かんねえ!
「そういえばさ、さっき中村に告られたんだよねー」
何!?中村だって!?中村と言えばこの前の総体で活躍したバスケ部の次期キャプテンになるやつじゃないか!
真凛はモテる。とにかくモテる。ルックスだけを言うならアイドルにも匹敵するくらいに整った顔立ちをしている。
性格だって俺には素でいてくれるからワガママとか愚痴とか言ったりするけど、人当たりはいいし、誰とでも分け隔てなく接しているから好印象を持たれている。
ただ真凛は告白されてもお断りをしている。それはいつも聞かされているから知っている。だから中村の件も断ったんだろうと思う。
でも今の俺からしたらどうなったのか気になる!たとえ断っていたとしても本人の口から聞かないと安心できない!
「へ、へえー。相変わらずだな。それで返答はどうしたんだ?」
「え?それ聞く?いつも断ってるんだから分かるじゃん」
「それは断ったってことでいいんだな?」
「うん」
よしっ!中村には申し訳ないが心の中でガッツポーズだ。
と同時に中村をはじめとする真凛に告白をした勇者達の行動がすげえと思った。俺は……、告白するなんて勇気が出ねえよ……。
今までは対岸の火事って感じで「よくやるわ」って思って見てたけど、覚悟が決まらないとそんなことできない。
俺、すげえチキンじゃん……。
「じゃあ、あとで部屋行くね!」
え?もう家?体感2分くらいじゃん。一瞬で終わった……。何これ、何か俺バグってる!?
真凛と俺の家は隣同士。だからほぼ毎日夜になると遊びに来て駄弁ったりゲームしたりしてる。よくよく考えたらお家デートみたいなもんじゃん!
玄関で靴を脱ぎそのまま自分の部屋のある2階に上がる。ドアを開ければ……。すっげえ汚ねえ。
こんな部屋によくあげていたな……。まあ俺の事全然気にしていないってことになるんだけど、それはそれで凹むな……。とりあえず部屋をキレイにしよう!
※
とりあえず2時間近くかけて部屋を徹底的にキレイにした。途中で母ちゃんが入ってきて「気でも狂ったか?」と言われたのにはムカッときたけど、それよりもこれから真凛が家に来るんだ。
俺にとってはそっちの方が何よりも優先事項だ!でも待てよ?入ってきていきなりこんなにキレイになったことを問われたらどうしよう?
変に勘繰られるのもなあ……。今の俺はとにかく自分の感情が処理できない。
「やっほー!ってうわっ!めっちゃキレイになってんじゃん!」
振り替えると真凛がいつのまにか部屋の入口にいた。びっくりしたー!
「ちょっと気合い入れて部屋キレイにした。こっちの方がいいだろ?」
「まあ汚いよりかはね。でも別に前のは前で雑でいい味出てたけどね」
あー、どうでもいいって感じだな。結構張り切ったんだけどな……。
「それで今日はどうするんだ?」
「ん?何かあった?ちょっと変だよ泰志」
「え?な、何がだよ?」
「いつもは言わなくても流れでゲームとかマンガとかじゃん?なんで今日は何するのか聞いたのかなと思ってさ」
いかん!変に意識しているからいつもみたいな感じができない。っていうかいつもの感じって何だ?俺は普段どうしてたんだ?
うわー、このままじゃボロが出る。絶対に出る。確実に分かることは俺が今こいつのことを好きだとバレるわけにはいかない。今じゃ絶対に成功しない。
だからって距離を取るのはなあ……。それで疎遠になるのも嫌だしむしろ今は好きなんだからもっと一緒にいたいって思うし……。
ビシッ!
「痛ったー!何すんだよ!」
「いや、質問に答えないで無視してるからでしょ!」
「無視したわけじゃない」
「いや、5分も黙られてたら無視って思っても仕方ないでしょ?ていうか5分も待った私を褒めてほしいよ」
5分!?体感10秒くらいだぞ!?恋すると体感時間がバグるようだ。
「とりあえず新刊出たでしょ?読ませてよ?」
「あ、ああ!もちろん読んでいいぞ!俺は……、勉強でもしてるわ」
各々やりたいことをやる。そうだ!これが俺達のスタイルだ。意見が一致すればゲームも一緒にするし、映画を見たりだってする。とりあえず勉強ってことにして自分の感情を処理しよう。
※
あれから3週間ほどが経った。俺の「好きだ!ゲージ」はやばいことになっている。ずっと一緒にいることがこんなに幸せなことだったのかとか、真凛の一つ一つの動作に釘付けになったりとか、とにかくもう好きだ!と言いたくて仕方ないくらいにゲージがMAXになっている。
と同時に真凛を失うかもしれないという喪失感を考えるようになった。俺はただの幼馴染だ。あいつはこの3週間で10人以上から告られている。いつか誰かの恋人になるかもしれない。告白される度に焦ってしまう。
結局全部断ったみたいだからセーフ!って感じではあるけどもうビクビクしている。
本当に俺、チキンだよ……。この3週間何もできないで、ただ幼馴染という関係に甘えてしまっている。
だったら好きにさせてみろよと言われてもあいつの態度や行動は今まで通りで俺をそういう恋愛感情で見てる感じは一切ない。
自分がそうだったから分かる。恋愛感情がない状態で好きだと言われても「だから?」で終わる。
俺は一体どうしたらいいんだ?恋ってこんなにもどうしたらいいのか分からなくなるんだな。
「じゃ、またあとでねー!」
毎日下校は体感2分。あっという間に過ぎる。いつも通り真凛は自分の家へ入っていった。
こっちはこんなに苦しんでいるのにあいつってやつは……。俺はあいつの部屋の明かりが付くのを確認するまで家の前で立ち尽くしていた。
「なんか最近ずっと勉強してるよね泰志は。行きたい大学でも見つかった?」
あいつに俺の気持ちを悟らせないためこの3週間は勉強をやっている。と言っても真凛のことを意識してしまって全然勉強どころじゃないんだけどな……。
「ほら、同じ高校がいいからって真凛は高校のレベル落として俺に合わせただろ?だから大学は真凛のレベルに合わせて同じ大学がいいなって思ってんだよ」
真凛はめちゃくちゃ勉強ができる。つまりは才色兼備の才女ってやつだ。高校は二人して同じところがいいって話になって、勉強のできない俺の高校に合わせてくれたんだ。
だからあいつは常に学校の成績はトップだ。こうやって遊びに来るくせに勉強はしっかりやってるんだから頭の構造が完全に違うのは分かってる。
そんな真凛がこんなバカでチキンな俺とつるんでくれるだけでも本当だったらあり得ない。幼馴染だからという理由だけで一緒にいてくれるんだからな。せめて大学は真凛に合わせて一緒に通いたいっていうのは気持ちの中にはちゃんとある。
「ほー、泰志がそんなこと考えてるなんてね。まあそろそろいいかな?」
「ん?何がだ?」
「まあまあ。今から大事なこと言うからさ、これには本音で答えてほしい」
急に部屋の空気が変わった。真凛が真剣なことや大事なことを言う時は本音で答えることにしている。
「いつものことだろ。ちゃんと本音で答えるよ」
「じゃあ……、私とキスしたい?」
「は?」
ビシッ!俺の頭に真凛のチョップが刺さる。
「ほら!本音!」
「……、したい」
「はーっ!やっとこの時が来たか!」
一人ガッツポーズで喜ぶ真凛。何があったんだ?
「私の見立てでは多分3週間くらい前かな?兆候はあったのは分かってたんだけど、ちょっと意地悪しちゃった。ごめんね!」
なんだなんだ?一体何の話をしてるんだ?
「意地悪って何かしたのか?」
「うん、分からない?」
「さっぱり」
「やっぱり待っててよかった。泰志さ、3週間くらい前に私のこと、好きになったでしょ?」
「な!?」
「その反応は図星だね。まさかバレてないと思ってた?」
一体どういうことだよ!?なんで真凛にバレてんの!?しかもあいつ分かってたのに全然そんな素振りもなかったじゃねえか!
「普通に考えて部屋がキレイになったり私のことジロジロ見てくるようになったんだから変化があったことくらいは分かるよ。でも本当に好きかどうかの確信は持てなかった」
真凛がテーブルの向こう側に座る。俺も真凛に向き合って反対側に座り直した。
「それもあったのと、私が今までどういう気持ちでいたか知ってもらいたかったのもあってちょっと泳がせてたの」
「泳がせてた?」
「泰志、恋って苦しくない?」
また当てられた。もう俺のこと全部お見通しって感じだ。
「なんで分かるんだ?」
「私はその苦しさ、もうずっと前から持ってんの!」
なんだって!?てことはこいつ、俺のこと……。
「いつからなんだ?」
「小学4年から。もうちょっとで7年経つよ。泰志も思ったでしょ?多分好きだって言っても伝わらないって」
「ああ、思ってた。お前のこと好きだって自覚してなかったら多分『あっそ』で終わってた」
「でしょ?だから私は待つことにしたの。泰志がいつか私のことを好きになってくれるまで」
ああ……、俺はこいつには勝てないわ。こいつの覚悟ってもんは相当なもんだ。
「すまん、7年も待たせることになってしまって。でもいいのか?こんな何の取り柄もない俺なんかで」
「それを決めるのは私。私には泰志が必要。自分のいたい自分でいれるのは泰志のおかげ。それだけで十分なんだよ」
心の中がぽかぽかと温かくなってくる。すごい、何かすごく安心する……。
「俺はこの3週間でめっちゃ苦しかったのに7年かあ……。お前すげえな」
「その道を選んだのは私だから。苦しかったのはそうだし、そういう素振りを見せないようにしてたのも辛かったよ。でも一緒にいれるから乗り越えられた。それにやっと念願叶うしね!」
「なんで『キスしたい?』だったんだ?」
「好きだけど好きって言葉は通じないってずっと思ってたから。泰志を一発で仕留めるにはキスしかないでしょ」
「はは、確かにそうだな。俺も好きは通じないって思ってどうしたらいいのか分からんくなってた」
「だからちょっとは私の気持ち分かってねってことが私の意地悪。ごめんね」
「いや、謝るのは俺の方だ。待たせてごめん」
「謝らなくていいから、私の今もらいたい言葉が欲しいな」
俺達は好きでは伝わらない。なら答えはこうだ!
「真凛、俺とキスしたいか?」
ビシッ!
「そこは好きです!付き合ってくださいでしょうがー!」
こうして夜は更けていくのであった。
ブワッと駆け抜けるような感じかつシンプルに恋愛を書きたいという衝動に駆られて作りました。
感想をいただけると幸いです。




