【第十一話後】皆にたまものマニフェスト
同時投稿になります、後半部分です!
お楽しみいただければ幸いです。
ソラも振り切って、通人も振り切って。僕たちはどこに向かっている。
敵の姿がやたらと少ない。
遭遇するとしても、僕と鈴音子さんだけでも十分にやり過ごせるレベルだ。
恐らくは、有村が付近にまで来ている。有村を打ち取るためにこの近辺の女子は駆り出されたんだ。
『男子の集団が向こうで暴れてるって……! 早く行かなきゃここまで来ちゃう!』
進む廊下の突き当たり向こうから、そんな声が聞こえてきた。
ここまで、来ちゃう? 『ここ』とやらに、守るべき何かがあるという事か。
それはつまり……。
疲れ切った体に、活力が。血のような何かが体中にみなぎりそうだった。
突き当たり向こうに居るであろう声の主が去りゆく足音を聞き遂げて、鈴音子さんと顔を見合わせる。
「行ってみましょう!」
「あぁ!」
それは、わー、なんて叫びたくなるくらいの、抱きつきたくなるくらいの、希望だった。
誰も居ないのを確認して、慎重に進む。角を曲がれば、見えたのは三年の教室。恐らくここだ。
戸の覗きガラスから、恐る恐る、角度をつけて覗きこむ。
「……?」
中の光景に眉をひそめ、少し大胆に覗いて見た。
「あれ、鈴音子さん、これって……」
想定の範囲外だ。目の前の光景は一枚絵か何かか、夢幻想の類か。
状況は簡素だった。窓辺で外を見つめながら、パイプ椅子に座る人が、一人。確かに奈乃沙先輩だ。
教室内の机という机は、一つの例外も無く部屋内の尻に下げられている。
部屋にあるのは、それだけ。
彼女を守る人間は誰も……。事情は分からない、だが敵の作戦とも思えない。
「行くぞ鈴音子さん!」
「や、矢琴君!」
それでも慎重を期そうとしているらしい鈴音子さんの声を振りきり、僕は教室の戸を開ききった。
部屋の中で、風が吹く。髪先がなびく。
「……来た」
先輩が気づいた。妙にシリアス気のある表情で、顔を振りかえらせて来る。表情の右半面だけが見えた。
僕が足を踏み入れても、彼女が焦った様子はない。罠がある様子も見受けられなかった。
唯一の例外があるとすれば……。まさか、と思い当たる節がある。
彼女は、ただ一人だけで石を守り切るつもりなのか。
「矢琴君油断しないでください! 奈乃沙は……」
「鈴音子? ……?」
この二人、挨拶もまだだったらしい。
奈乃沙先輩にとって、鈴音子さんの存在がこの学校にあること自体、予想外であったはずだ。
珍しく、明らかな動揺が奈乃沙先輩に見て取れた。
勝機だ、今だ!
彼女が僕に背を向けたこの隙が……!
思う前に僕の体は駈け出し、飛びだし、頭から彼女に向かって滑空した。
「奈乃沙は本当に凄いんです……!」
鈴音子さんの声。宙を滑り止まらぬ僕の体は、奈乃沙先輩の背中に向けて飛んで行く。
ぶつかった。
見苦しいガチャリとした音、僕の両腕そして顔に伝わるのはパイプ椅子の細く冷たい感触だけだった。
危うく壁に頭をぶつけるところだったと、ヒヤリ。先輩が消えた? どこへ。
右、いない。
左、いない。
「上です!」
上とかあるわけないだろ(笑)
でも、とっさに見上げれば、靴の足裏らしきものが視界にちらついた。
降って……。
本当に上だ!
体を横に転がす。それでも僕に向かって伸びてくる足に、パイプ椅子を抱えて身構えた。顔面の前に突き出した座板がぐっと重くなり、軽くなる。僕はすぐに椅子を投げ出して、立ちあがった。椅子が立てた騒音に気を取られる。すぐに奈乃沙先輩を見た。
何なんだ彼女、ギャグみたいな動きだ。それでも清楚に整った制服、妙に惚けた無表情。
奈乃沙先輩は用心深いと、鈴音子は言っていた。その奈乃沙先輩は、たった一人で僕達を待っていた。
石を奪われない自信が、絶対の自信があるとでもいうのかこの人は。鈴音子さんが迂闊に手を出せない理由が、理解できた。
場には与えられたのは一息分の沈黙。
「逆に、キミから奪えばいいのね」
「……」
「キミは石を、持っている? それとも、持っていないの?」
じり、と詰め寄られた。彼女にとっては、全てが計算づくめであるような気がした。僕達が突撃を仕掛けてくることも、僕達がここまで辿り着くことも。ただ一つ彼女に誤算があるとすれば、初葉と、鈴音子さんの存在程度では。
「容赦はできないから。覚悟しましょう?」
「くっ!」
バトル漫画のようなセリフを吐くにふさわしいだけの動きを、彼女はしてみせた。走ってくる。右に、左に、経過上の線に幾つもの角が浮かぶ走り、彼女は僕の視線で遊んでいるような気すらした。……何だよこの動きは……! 目を瞑り、開けば彼女の姿は目前。
「うわっ!?」
僕に腕が伸ばされた。威圧館の塊みたいな手だった。辛うじて、反射のままに鷲掴んだ。
「そう。先に謝っておくけれど」
彼女を捕えた僕の腕。あえて、更に、彼女はその腕を掴んできた。
「!?」
「少し痛いかも」
軸足ごと、彼女は体を宙に投げ出していた。僕の腕に彼女の全体重が、一瞬。投げ出された彼女の足は壁を踏み台に蹴り、飛びあがる。彼女の体も僕の腕を逃れ、飛翔し、蜻蛉返って。
視認来たのはそこまでだった。
遠慮を感じ取れる痛みだった。靴裏で、踏み飛ばされた。彼女の力、重さに抗いきれぬ僕の体が、前のめりに吹き飛んだ。
本当にあり得ないだろ。これは本当に現実世界かと。漫画家どこかの世界じゃないかと疑えてならない。体を起こして振り返れば、教室の尻に固められた勉強机の上に、彼女は慄然と立ち続けていた。ゆっくりとした動きで、机の上から降りてみせる。もう、破れかぶれだ。
「うあぁあああ!!」
彼女に向けて、突っ込んだ。彼女も僕に向けて、再び走り出した。組み合う。彼女の手が延ばされる。僕の胸ポケットに向けてだ。
まずい、奪われ……。
「奈乃沙! 猫です!」
「え?」
鈴音子さんの声で、彼女の手が止まった。明らかに、鈴音子さんに気を取られていた。僕は隙を突く、彼女の体に体からぶつかり、引き、倒した。
「チッ……」
それでも動こうとする彼女に、覆いかぶさる。引き攣らせたように息を吸って、彼女が顔を赤らめた。動きを止めた。
「僕は女じゃない! 男だ! 僕は男なんだ!!」
叫んだ。
「え、ゃ。ちょっ……っはっくち!」
彼女は石をどこに持っている、悩んでいる暇はない。無我夢中だった、腕を伸ばした。
石を奪ってやる。
そして、これで、勝てるんだ!
「……引き分け?」
先輩が一言。僕に馬乗られた状態だというのに、恥らった様子も無く、尋ねてくる。
お互いの手はお互いのポケットに伸びて、触れる直前で止まっていた。
動いても、どちらが先に奪えるかの保証はない。
「あ、あ、あの!」
今さら実感した。これって凄く、あれだ。エッチな姿勢だ。思わずとも飛び退いた。
視線を逸らし、駆けよって来る鈴音子さんのいたわりを受けつつ、咳払いを一つ。
「決着、どうします? もうあんまり暴力的な手段は嫌です」
「……そうね」
どちらかが、負けを認めるわけにはいかないだろう。勝負は明らかな引き分けだ。
勝負を最初から仕切り直すか、なにか対等な条件で別の勝負をしなければ……。
「大丈夫ですか?」
鈴音子さんの白い肌を見て、思いついた。
「先輩」
息をついて、一つ。問題は休み時間が終わるまでに勝負が終わるかどうか、という点。
まぁいいだろう。先輩が承諾してくれるなら。そう思って、僕は尋ねた。
「この部屋に……」
「えぇ」
「オセロは、置いてありますか?」
教室の真ん中に合わせた机二つ。更にその中央には見慣れた卓上ゲームが一つ。
ギャラリーには青腕章の女子が、たくさんだ。教室の内回りに取り囲んでいる。
その中で僕は、女子の一人に縛られている。違反を出来ないようにと、女子達の計らいだ。
僕も抵抗はしなかった。されるがままに縛られ、教壇に座らされている。口にテープまで、
「久しぶり、鈴音子」
教室の中央で奈乃沙先輩は、これまでに見たことが無いくらいの、笑顔で。
今の今まで抑揚の深さを感じられなかった声のトーンも、よく弾んでいる。
「そ、そんなこと言わずにちゃんとやってください!」
鈴音子さんは怒っていた。先輩は気にもしないで、ニコやかに笑うばかり。
そんな二人が、向かい合った机に座っていた。
二人が交互に石を盤面に差し出して、そして石を返している。二人のゲームに僕が介入する術は無い。僕はもう信じるだけの存在だ。
「鈴音子、すっごく、可愛いよ」
「が、がが柄にもないこと言わないでください! 何で昔から私を可愛がるんですか!」
「えへへ」
「えへへじゃありません!」
会話しながらも、滞りなくゲームは進んでいく。まだ序盤だ、どちらの勝利も見えない。
ギャラリーの喧騒は大したものだった。奈乃沙先輩と鈴音子さんの関係について論議する女子、何故鈴音子さんが僕たちの仲間であるのか、などなど。時折、僕に優しげに語りかけてくる女子もいた。少しだけ思う事がある、女子と僕、こんなに親しかったっけ、と。
『でもあの……鈴音子ちゃん、だっけ? 奈乃沙先輩に挑むなんて無謀だよ』
『そうね……。そもそもどうして男子の味方なんか……あんな変態チックな公約が実現されるなんて絶対にイヤよ』
とある女子の会話を聞き拾った。
直感的に意味を理解するには、無理な言葉だ。どういうことだ。
そんな疑念も頭の中で、すなーっ、と流され、ただ僕は勝負を見つめることに注目した。
「鈴音子、強くなった?」
「アナタは私とオセロしたことなんてありませんよ! イメージだけで前までは弱かっただなんて決めないでください!」
「違うの?」
「……違う訳じゃ、ないですけど」
語尾にパチリという音が加わる。
雑談を挟みながらも、両者の動きと、盤を見つめた時の眼差しは、真剣そのものだった。
勝負は見る限り、現在は先手後手を考えなければ互角と言ったところか。
チャイムが鳴り響いた。
学校中を支配するその響きも、ゲームの止め処には成り得なかった。
鳴り終わった。
ギャラリーの誰も、勝負をしてる張本人も、動きはしない。
見れば、教室に入ろうとした教師を、女子達が押し返していた。その間に、新たなギャラリーがたくさん教室に流れてくる。
「……矢琴、何やってるの……?」
中には、ソラの姿も見えた。明らかに先ほどと変わらぬ疲労感を身に漂わせ、まさか、また僕を探して走っていたのか。
明らかに、疲れ果てているはずなのに足取りだけは確かに。僕の元まで歩み寄って、崩れ込んで来る。
「……?」
口にテープが貼られているから、言葉を発すことができない。
何を言い出すのか、予想した。
確か、先ほど彼女が言っていた分には、どうしても負けて欲しい。と、それだけだ。
もちろんそんな言うことは、何があったとしても聞けないが……この姿勢では、彼女の話を聞かざるを得ない。
「矢琴、話を聞いて」
負けろ、という話をか。
「何でもするから……今年の選挙は諦めて!」
やはりだ。
眉をしかめて、クエスチョンだけでも彼女に伝えて見せた。それは何故だ、と。
「な、ななんでって……! 選挙がどうこう以前に、その……倫理的な意味で許せるわけないの、こんなの!」
分からない。
「確かに男子がそういう欲求を持ってるのは分かるけど……」
彼女が僕に語りかける間も、オセロは進んでいた。鈴音子さんは、決して圧倒されてはいない。
勝ちの可能性は十分に見える。周囲の女子達も、危機に煽られたざわめきを発していた。
「矢琴」
ぴしゃり、とソラに呼びとめられる。
「一つ聞きたいんだけど……本当に……よーくんの公約、ちゃんと知ってるの?」
何を言い出すかと言えば、そんなこと。先ほどの女子からも、同じ点で気になる発言を聞いた。
冗談だろう。僕達は、男子の復権の為に、純粋にそれだけの思いで戦い続けてきたんだ。
有村は確かに、そう言っていた。ちゃんと僕の前で、語っていたんだ。
「あいつ、よーくん、肝心なところだけ語って無いなんてこと……ないよね?」
仮説程度に心の中で留めていた点を、突かれた。グサリと、不信という穴を広げられた。
公約なんてものは、学校公式な物じゃない。公約の発表はあくまで生徒達が勝手に作った規則であり、 掲示板にでかでかと貼り出されるわけでも、選挙演説等でしっかりと表明しなければ、などという学校からの決まりごとは無い。
まさか、まさかとは思うが。僕が悪夢を頭に浮かべる間にも、オセロは進行していた。
「矢琴まさか、本当に知らないの? やっぱり……! 分かった!? 今教えるから、よく聞いて!」
「……!」
ソラが、僕に真実を告げようとしている。
「よーくんは……私に、言ったの。選挙に勝ったら、創るものがあるって」
「……?
「その名も、変態王国」
!?
「へ、変態王国を創るんだって、言ってたの!」
それは本当なのか。本当なのか。信じ切ることができない自分に
「全部、本当の話」
とどめをさされる。
両肩にアフリカ象でも降ってきたような衝撃に、心が突かれた。折られた。
え? 何? 変態王国? 変態キングダム?
何だよそれは!! 僕たちは、そんな意味の分からない王国を作るために今まで!!
「これ! その時によーくんが渡してきた紙!」
彼女が提示してきたそれを、目をで流す程度に読みあげる。
【棟に隔たれない、真の男女共学を目指すこと】
【女子のスカート丈を引き上げさせる。辛うじて常時パンチラにならない程度が好ましい】
この時点で既におかしい。
【体育祭の競技に、女子大水泳大会を加えること。競技名は必ず『ドキッ! 女だらけの』から始まること】
【予算を分割して保険教育推進委員会を発足する】
その他、読むに堪えない項目がズラズラと、並ぶ。力が抜けた。
最後まで読み飛ばすと、こんな項目が。
【男子復権とかも狙ってみる】
オマケ程度だ。
「~~!!」
テープを貼られた口で、とにかく喚く。こんな事実があってたまるか、負けてたまるかと。
声にならない声に、誰もが僕を振り向いた。誰か、このテープを外して、鈴音子さんを止めてくれ。
『騒がないでください!!』
しかし、抑えつけられる。転がされて、縛られたままの体では何もしようが無かった。
「矢琴!」
声を張り上げたソラもまた、ギャラリーに組み伏せられた。数の暴力だ。
頬を床につけて、歯を食いしばった顔で僕を見つめてくる。
「誰かこの勝負を止めてください!」
一所懸命に叫ぶソラの声は、誰の耳にも一切届かなかった。
盤面は確認できないが、二人の様子を見る限り……奈乃沙先輩が優勢か。
このまま、鈴音子さん負けてくれることを祈るしか……!
「奈乃沙、これで……私の勝ちです!」
「ッしまった……!?」
なんか鈴音子さん逆転してる……!
このままでは、勝負が決する。僕たちの勝利で、変態王国の創設が確定する。
「鈴音子さん! 勝たないでください! もし勝っちゃったら――」
ソラの口が、一人に塞がれた。動けない。
僕も彼女も、どう足掻いてたところで動けるような状況じゃない。
……これで終わりか。
二人のゲームは進む、鈴音子さん有利のまま。
二人の会話を聞く限り、恐らく回順はこれで……最後。鈴音子さんの一手で終わる。
「奈乃沙……」
鈴音子さんは止まらない。もちろん僕とソラが引き起こした騒ぎには当然気付いているだろうが、その事情には気付けるはずもない。
彼女は石を、指でつまんでみせた。
勝負を終わらせようと、ただひたすらに頑張るその手は……止まらない。
「これで終わ――「ぐぁおぉおおああっ!!」
外の廊下に通人が転がってきた。
辺りが騒然とする。女子達は僕の拘束を緩め、全員が廊下側に走って行く。
何だ、何が起こったんだ。通人が転がってきた、それはつまり、通人が何者かに攻撃されたということか。
……有村だ! 男子の連中が攻めてきた! 有村が来たんだ!
「矢琴っ!」
ソラも動けるようになったが早く、僕の口からテープを剥がす。
鈴音子さんは多少の戸惑いを見せたが、何よりもゲームの終了を優先しているらしい。ついに最後の石を、盤面に置――
「止まってくれ!!」
ありったけの叫びだった。全てが静かになった。
キンと、残響が最後に寂しく鳴って、後に残るのは攻め上がって来る男子の怒号のみ。
鈴音子さんは目をパチリと見開いて、僕を見ていた。
「……良かった間に合った、鈴音子さん、この勝負は負けにする!」
「ど、どうしたんですか矢琴さん!」
「事情が……変わったんだ」
迷わずに懐から石を取り出した。奈乃沙さんはこんな状況でもうろたえることなく、ただ無言。
一つ、頷く。こんな終わり方でいいのかな、とは思った。
まぁこんなもんか。とも思った。結果は残せた、色々と。だから僕は。
「先輩、受け取ってください」
琥珀色の球体を、彼女に向けて下投げで優しく渡して見せたのだ。
「……これって」
両手で胸に抑え込むようにして、先輩が受け取る。しばらく、彼女でも事情が把握できないようだった。
しばらく石を見つめて、僕と石を交互に見つめて、首をほんの少し横に傾けた。
「僕たちの、負けです」
「……そう」
更に騒然とする教室内。
混乱が混乱を呼び、ギャラリーの女子達も驚いたり、廊下に攻め寄ってくる男子を対処しようと動きまわったり。忙しい。
「矢琴ぉお!! いるんだろ! 助けに来た!!」
廊下の女子達を力任せにかき分けかき分け、何も事情を知らぬ彼、有村の姿が見えた。
女子達が制するも、力と身のこなしだけは相変わらず圧倒的。というか女子は彼に触れたがらない。危険だから。
「……矢琴! 助けに来たぞ!」
あっという間に、教室の中にまで踏み入ってきた。誰も有村を止める人間はいない。
訝しげに表情をゆがめつつも、彼は僕の縄を解いて、立ちあがらせてくれた。
「ありがとう、有村」
「あぁ、たまには俺も役に立つものだろう?」
心境が和やか、とは言い難かった。穏やかを気取って、有村の顔を見上げてみる。
何コイツの澄まし顔。
一度彼には、反省してもらわないといけない。仲間として、幼馴染として。
「しかしあれだな、縛られてるお前に、初めてそそられるものを感じ――」
「黙れ!!」
「え?」
思い切り有村を殴り飛ばすのであった。追いうちを仕掛けるのであった。
皆、僕に協力してくれるのであった。
こうして、今年の生徒会総選挙は終わるのだろう。奈乃沙先輩の一人勝ちだ。
明日からは学校も、普通の日常生活という姿を見せてくれるだろう。
次は最後に、エピローグです!