【プロローグ】勝てる気しないけど!
二作目です!
更新速度は二日に一度ほどになると思われますっ!
タイミングとして、現在は授業の開始前。
教師が到着するまでの僅かな間を縫って、教壇に立った一人の長身。有村要也。
教卓の両端を掴み体重をかけている。席に座る全員を軽く見渡し、彼は発言した。
「お前たち、モテたいだろう」
第一声が、ソレである。
「俺はずっと、嘆いていたんだ。女子が男子に蔑まれ続ける現状をな」
奴の話に聞き入るクラスの全員は、漏れなく全てが男であった。
「男子の復権、目指したいだろう? だから俺は、今期の生徒会長に立候補した」
僕は、転化性の無い日常に対してだけ、構えていた。
だから彼の申し出は、そんな僕にとって唐突すぎる事実だった。
何を言い出すんだ奴は、と。選挙をするつもりなのか。あれだけの女子達を相手にして。
「多少勝手で無茶な真似をしてるのは重々承知だ」
手を振りかざしながら語る有村に対し、教室中から挙手も無く、雑に質問が飛んでいく。
『男子のお前が選挙で勝てる見込みはあるのか?』
質問の声に、しっかりとした意志は感じられなかった。
「勝てるかどうかじゃない。勝たなければならないんだ。ここで勝たなければ俺達男子は延々と寂しく辛い日々を過ごすことになる」
木々がさざめくようにして、教室に声が湧き立つ。皆、戸惑うのは当然の事だ。
「お前ら、どうする?」
時間に比例して、当惑のざわめきは沈静化していった。一人、また一人。
その内全てが、楽しげで自信めいた決意の声へと入れ替わっていく。
「……女子棟の澤田ソラ、玉垣奈乃沙。どちらを生徒会長にしてやるわけにもいかない」
有村は視線を尖らせながら、横眼でチラリと僕を見やってくる。僕にも参戦の意思表示を求めているのだろう。だから視線で意志を返した、やってやる、という言葉を込めて。
即決だが、それでも身に付けた覚悟は十分に高まっている。しかし有村の奴、選挙に対して、勝利の算段があるのだろうか。無鉄砲な奴だよなぁ……こんな様子で、勝てるのか?
「お前たちも知っているだろう? 特に……矢琴を狙っている勢力もある。矢琴は俺達の仲間だぞ、当たり前のことだな。だからこそ、命をかけて守ってみせる!」
驚いた。
『ほぉ、なかなか男を見せたじゃないか、有村』
矢琴とはつまり、いや、つまらなくても、僕の事である。
だから、素直に気持ちを言葉にするならば、嬉しかった。
クラスメイト達がそれぞれ自由に騒ぎ始める。連中の言葉はどれもこれも、ぎこちなく、そして楽しげに、有村の心意気を称賛するものだった。
「男子の復権は欠かせない目標だ。ならばと、俺は自ら立候補する他に道が無かった」
『あぁ、俺はお前を支持するさ』
『ソラさんに勝利を譲ったら、貴重な女子が一人……この教室からいなくなるのか』
僕は女子ではないのだが。
「ここで今一度、問わせてもらうぞ」
有村は大げさに腕を開き、僕を含めた全員を見渡す。
クラスメイトたちもまた、有村を見つめ返す。眼には、気概しか宿っていなかった。
「女子に、勝ちたいか?」
一時の、精寂。そして――
『うおぉぉぉおぉおおお!』
瞬間、耳の奥が痒くなるような雄叫びが、教室を震わせる。腕を振り上げる男子たちがいた。心臓の中に暖かい、綿毛でも咲いたのかと思った。びっくりするような心地だ。
戦って、そして勝つんだ。絶対に勝つんだ。そう、決めた。