忘れ雪ほろり
同じような毎日。
同じような会話。
大学3年生の冬。
「では、今日の講義はここまで。レポートを忘れないように」
そう言うと講師は講義室を出て行ってしまった。
単位のためとはいえ、この講義は酷過ぎる。
講師という立場で、安月給なのはわかる。
しかし、そうなんだが…。
「アツヤ、帰りにラーメン食いに行こうぜ」
「何だ。シュンイチか」
「おい、何だとは何だ」
「すまん、考えごとをしていてな」
「あれか?」
「まあな」
「そろそろ忘れたらどうだ?」
「そうだな…………」
それは高校3年生の時だった。
「サヤ、忘れ物だぞ」
「アツヤ君か、ありがとう。それ、大切に持っていてね。約束だよ」
「おい、待て…」
卒業式のことである。
俺の手の中にはサヤのマフラーが残った。
それ以来、サヤには会っていない。
彼女は親の転勤もあり、県外の大学へ進んだためだ。
「アツヤ!」
俺を現実に戻したのは言うまでもない。
親友であり、悪友でもある、シュンイチ。明るく、誰とでも仲良く出来るのだが、俺と馬が合ったのは不思議だ。
「わかったよ。今度はどこのラーメン屋だ?」
「2丁目に新しく開店した店があってな」
「任せるよ」
「おう、急ごう。腹の虫がさっきからうるさいからな」
大学から電車で2駅のところにその店はあった。
店の前には10人くらいが列を成して並んでいる。
「ここに並ぶのか?」
「そうだ。美味いものを食うにはそれなりの努力が必要だからな」
シュンイチの持論である。
その食いしん坊がスマートで、大学でかなりの女子学生に好意を持たれている。
明るく、積極的な性格は言うまでも無い。
その時である。
「はい、プレゼント」
俺の首にマフラーが巻かれた。
一瞬迷ったが、その声の主がわかった。
サヤだ。
「アツヤ君…」
「サヤ……なのか?」
「そうだよ」
「これさ……」
俺は鞄の中のマフラーを取り出した。
「ありがとう。持っていてくれたのね」
サヤは俺の手からマフラーを受け取り自分の首に巻く。
「サヤ?」
「色違いだけど、お揃いだよ」
「そうか」
「ん? 他に何か言うことはないのかな?」
「いや、その…ありがとう」
「うん」
「どうしてここが?」
サヤがシュンイチの方をチラっと見る。
そうか。持つべきものは親友だな。
「良かったな、アツヤ」
そう言った、シュンイチの笑顔が今だけは天使のように見えた。
「アツヤ君、私戻って来たの。大学も一緒だよ」
「そうか」
「それだけ?」
「いや、よろしくな」
「うん、よろしくね」
いつの間にかシュンイチは姿を消していた。
「ねえ、これからだけど…」
「歩こう。一緒にだ。聞きたいことも話したいこともたくさんあるからな」
「うん、私も同じだよ。嬉しい…」
サヤは顔を赤くして俯いてしまった。
「まあ、何だ。俺も同じだ」
「何が?」
「言わせるのか?」
「うん、お願い…」
「…サヤが好きだってこと」
「うん、私もアツヤ君が好きだよ」
「そうか」
「うん」
「歩こう」
「うん、ずっと一緒だよ」
「ああ、ずっと一緒だ」
「うん」
いつの間にか雪が降っていた。
今年に初めて見る雪。
初雪だ。
雪の精霊たちが俺達を祝福してくれているようだった。
「綺麗だな」
「うん、とっても綺麗」
忘れ雪ほろり




