約束の日
広い背中。
学校への長い上り坂。
彼の背中をこんなに大きく感じたのは初めてだ。
「アカネ、しっかりつかまっていろよ」
「うん、離さない」
「く、苦しいって」
「あはは」
「笑っていると落ちるぞ」
今日は高校の卒業式。
私たちは3年生。
二人一緒に卒業することになる。
自転車のブレーキが鳴る。
「アカネ、着いたぞ」
「うん、ありがとう」
ちょっと胸がドキドキする。
「どうした?」
「…ううん、何でもないよ」
「大丈夫か? 朝からいつもと違うぞ」
「何でもないよ。急ごう」
「そうか? 卒業式に遅刻はまずいからな。急ごう」
「うん」
私はある決心をしていた。
彼に伝えなければいけないことがある。
私のこの想い。
終わった卒業式。
いつもの待ち合わせ。
自転車置き場。
彼を見つけた。
私の方が先だと思っていたが違った。
吐く息が白い。
もしかして、走ってここに?
「ア、アカネ…」
彼は肩で息をしていた。
今日こそ伝えなければ。私のこの想い。
「ショウちゃん、私……」
「うん?」
「私ね」
「アカネ、待ってくれ」
拒否された?
彼が制服のポケットから何かを取り出す。
「これをもらって欲しい」
「ショウちゃん?」
「もらってくれ」
「…ショウちゃん、これは?」
「婚約指輪だ」
「ショウちゃん?」
「ばあちゃんにもらった指輪だ」
「そんな大切なものを私がもらっていいの?」
「ああ、アカネじゃなきゃダメなんだ」
指輪を受け取り、左手の薬指にはめた。サイズぴったり。
「ありがとう。でも、反則だよ。だってね」
「うん?」
「私ね」
「アカネ、俺と結婚してくれ」
「…はい」
予想外だった。
私が彼に言おうとしていたのに。
彼のお嫁さんにして下さいって。
「ショウちゃん、反則だよ」
「……………………」
「ショウちゃん、私をショウちゃんのお嫁さんにして下さい」
「ああ、アカネ。俺と結婚しよう」
「うん、ありがとう」
「約束する。絶対に幸せにするからな」
「うん。でも、反則だよ。私、泣いちゃった」
「アカネ…」
「大好きだよ」
「俺もアカネが大好きだ」
「うん」
温かい彼の両腕が私を優しく包む。
彼の広い背中に手を回す。
「ショウちゃん、しばらくこのままにしてね」
「ああ、これからずっと一緒だ」
「うん」
約束の日
自転車の二人乗りは法律で禁止されています。
交通ルールを守りましょう。




