冬のお昼寝
何故に冬の昼寝はこんなに気持ちがいいのだろうか。
寒さから解放されるからなのか。
これは論文に値する価値があるのかもしれない。
「教授…起きて下さい…教授!」
誰だ? この私の楽しみを邪魔するのは?
「おや? 君は…誰だ?」
「誰だ? じゃありませんよ。私です。助手のホダカです」
「うむ、よく見ると助手のホダカ君に似ているな。世の中には自分に似た人間が二人はいると言うからな。で、君は誰だ?」
「もう、教授! 寝ぼけないで下さい。助手のホダカです」
「それで、助手のホダカ君が私に何の用だね?」
「これを一緒に食べようとお持ちしたのです」
彼女の差し出した包みを見てみる。
優しい甘い匂いがした。
「そうか。桜餅だな」
「もう…本当に…女心には鈍感なのに、味覚には敏感なのですね」
「ん? 女心? 女心と桜餅に何の関係があるのかね?」
「何でもありません。いらないのなら、私一人で食べますよ」
「いや、いただこう。ここで食べなくては桜餅に面目が立たないからな」
「はいはい、もうそれでいいです。お茶もお持ちしましたよ」
桜餅の甘い匂いと日本茶の優しい香り。
悪くない。
「しかし、この季節に桜餅とは珍しいものだな」
「教授、知らないのですか? 二丁目の荻屋の桜餅です」
「知らん」
「29歳でこの大学の教授になり、33歳でその名を世界に知らしめた天才情報工学者の台詞がこれですか? 情報工学以外には全く疎いのですね。もう少し勉強して下さい」
怒られてしまった。
「それは宿題にさせてくれたまえ」
「はい、いいですよ。って、私に言わせるのですか?」
「いや、私はだな…その…桜餅と女心についての…」
「はい、ストップ。お茶が冷めますよ」
「いただきます」
「どうぞ。召し上がれ」
もう、私の気持ちも知らないくせに。
世界のカザマと言われる、天才情報工学者の正体をどれだけの人が知っているのだろう。
大学には海外からの留学生も多くいる。全ては世界のカザマがいてこそなのに。
当の本人はまるで他人事のようだ。
私の気持ち。大学に入った時からずっと、想って、今ここにいる。
憧れが恋愛に変わったのは…。自分でもよくわからない。
でも、大好き。
他人には見せない姿、顔を私の前だけでは見せてくれる。
年上で、教えを受ける立場なのだけど…。
愛しい。
「ご馳走様でした」
「あ、はい。お粗末様でした」
こんな関係をどれだけ続けているのかな?
でも、幸せ。
一緒にいられるだけで、それが今の私には幸せ。
「ホダカ君、宿題の答えなのだが…」
「いいですよ。別に…」
「いや、わかったよ」
「はい?」
「春になったら、桜餅を食べに行こう。一緒にだ」
「私はかまいませんよ」
「いや、まだ続きがある」
「はい…」
「毎年、一緒に食べに行こう。ずっと一緒に食べに行こう」
「はい」
「どうだね?」
「はい、…合格です」
「今までで一番難しい問題だったな」
嬉しくて泣きそう。
でも、暖かい。冬なのに、こんなに暖かいなんて。
幸せ。
「ホダカ君」
「どうかしましたか?」
「二人きりの時は、ユウゴと読んでもらえると嬉しいのだが」
「ユウゴさん」
「ふむ、悪くないな」
「もう、でも嬉しい」
幸せいっぱいの冬。
ずっとこの幸せが続きますように。
ううん、きっと大丈夫。
「ホダカ君」
「はい」
「忘れないでくえたまえよ」
「何をですか?」
「ずっと…」
「一緒です」
「よろしく頼む」
「はい」
教授への思いが通じ、私は幸せ者だ。
冬のお昼寝




