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シンのユウシャ  作者: ねむ


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8/8

Patch08:伝説の始まり

「ガド、こっちの方向で合っているんだよね? 景色がだんだん茶色くなってきた気がするけど……」


 馬車の窓から身を乗り出し、シンが尋ねます。王宮の完璧な緑に見慣れた彼にとって、外の世界の「くすみ」は新鮮であると同時に、少しだけ不完全に見えていました。


「ええ。この先、南西に位置する聖域に『黄金の盾』が安置されています。まずはそこを目指しましょう、シン様」


 ガドは揺れる車内で地図を広げ、穏やかに、かつ確実な足取りで案内を続けます。

その隣では、ニアがシンの腕をぎゅっと掴んだまま、安堵の溜息を漏らしていました。 (……やっと、あの冷たいお城から離れられた。お兄様がいれば、もう誰も私を『バグ』なんて呼ばない。怖い侍女さんも、あの暗い部屋も、もうここにはないんだわ)

 ニアにとって、この旅は「救済の巡礼」などではなく、唯一の居場所を守るための「脱出」でした。


 一方、ガドは常に思考を巡らせていました。シンの無垢な笑顔の裏で、周辺地域の土壌汚染、水源の枯渇、そして「魔王」の痕跡がないか。シンの目に「汚れ」が映る前に、どう処理すべきか。彼の脳内は常に、世界の仕様を書き換えるための数式で満たされています。


 一行が立ち寄ったのは、聖域の手前にある小さな農村でした。  しかし、そこに活気はありません。出迎えた村人たちの頬はこけ、目は落ち窪み、まるで生きた亡霊のような姿で馬車を仰ぎ見ていました。


「……何年もお天道様に見放され、土は死に、水は涸れました。蓄えも底をつき、もう、村の子供たちも動けぬほどで……」


 村の長が震える声で窮状を訴えます。シンはその言葉に、胸を痛めたように眉を下げました。


「そんなの、悲しすぎるよ。ガド、僕、この村を助けてあげたい! 畑をピカピカにして、みんなでお腹いっぱいご飯を食べられるようにしてあげてもいいかな?」


 純粋な善意。ガドは一瞬、合理的な「移動時間」を計算しましたが、すぐにシンの「伝説」を補強する絶好の機会だと判断しました。


「素晴らしいお考えです。これこそ、ユウシャ様が歩まれるべき『正解』の道。私が村の者たちに、貴方の慈悲を伝えましょう」


 ガドは馬車を降りるなり、村人たちの懐に飛び込むような親しみやすい笑顔と、有無を言わせぬ貴族の威厳を使い分け、シンの降臨を演出しました。



 案内された畑は惨泓たるものでした。亀裂の入った土には栄養の気配がなく、わずかに芽吹いた作物も茶色く枯れ果てています。周囲には、必死に食べ物を探した野生動物が土を掘り返した無残な跡が点在していました。


「……かわいそうに。でも、もう大丈夫だよ」


 村人たちが息を呑んで見守る中、シンが畑の真ん中で両手を広げました。  その瞳が黄金色に輝いた瞬間、暴力的なまでの「光」が大地を包み込みました。


「――再定義リマスタ。ここは『黄金の収穫が約束された地』」


 ノイズをかき消すような清らかな旋律が響き、さっきまでの枯れ果てた景色が、まるで映像を上書きするように塗り替えられていきました。  ひび割れた土は黒々と肥え、茶色の茎は一瞬で太く瑞々しく成長し、色鮮やかな花を咲かせ、重そうな実をつけます。時間は圧縮され、数ヶ月の成長が数秒に凝縮される「理外の奇跡」。


「おお……! なんてことだ、神様、ユウシャ様!」 「村が救われた! 本物のユウシャ様だ!」


 泣き崩れ、シンを崇拝の目で見つめる村人たち。ガドはその熱狂を満足げに眺め、朗々たる声で告げました。


「これこそがシンのユウシャ様の御力。不完全なことわりを、あの方は正解へと導くのです!」


 沸き立つ群衆の傍らで、ニアは畑の状態を冷静に観察していました。

(……お兄様の力は凄い。でも、土だけを直しても、中身はどうなのかしら)

 ニアは自頭の良さと鋭い観察眼で、作物を支える根本を見に行きました。そこで彼女は気づきます。畑の表面は潤っていますが、そこへ流れ込む水路の底は依然として乾き、澱んでいることに。


「お兄様。お水……お水の状態も良くないみたい。今のままじゃ、このお野菜たちはまたすぐに枯れちゃうかもしれないわ。お水も直してあげたら?」


 ニアの進言に、シンは収穫されたばかりの瑞々しいトマトを手に取り、不思議そうに首を傾げました。


「お水? 大丈夫だよニア。見てよ、こんなに立派な実がなったんだから。今はみんな笑ってる。それが一番の『正解』じゃないか。細かいことは、リマスタされたこの大地が解決してくれるよ」


 シンにとって、今この瞬間に「幸福な絵面」が完成していることがすべてでした。その先の維持管理という地味な「現実」は、彼の全能感の中では取るに足らないノイズに過ぎません。


「……そう、ね。お兄様がそう言うなら、きっと大丈夫よね」


 ニアは、言い知れぬ不安を飲み込み、肯定することしかできませんでした。


一方、奇跡を目の当たりにした村長は、泥にまみれた手でガドの衣を掴むようにして縋り付きました。


「ユウシャ様、ガド様! お願いです、どうか……どうか作物が無事に収穫できるまで、この村に留まってはいただけないでしょうか。あの方の『祝福』がこの地に根付くのを、その目で見守っていただきたいのです!」


 その必死な訴えに、シンはガドが答えるよりも早く、顔を輝かせて身を乗り出しました。


「もちろんだよ! みんなが安心してこのトマトや小麦を食べられるようになるまで、僕、ここにいるよ。ガド、いいよね? せっかく仲良くなれたんだから、みんなの笑顔が本物になるのを最後まで見ていたいんだ!」


 シンの曇りなき瞳に見つめられ、ガドは一瞬だけ思案するように目を細めました。


(……村側からの自発的な要望、そしてシン様ご自身の強い意志か。悪くない。ここで数日足止めを食う形になれば、魔王側の不穏な情報を精査する時間が十分に稼げる。シン様には『民の心に寄り添う慈悲』として説明がつくし、聖王陛下への報告書にも体裁がいい)


「――もちろんです、シン様。貴方の慈悲を形にすることこそ、私の役目ですから。……村長、シンのユウシャ様のお言葉通りです。貴方たちの不安が消えるまで、私たちはこの村に留まり、寄り添うことを約束しましょう」


 ガドが完璧な微笑みで賛同の意を示すと、村人たちは地鳴りのような歓声を上げ、救世主の名を連呼しました。



 その日の夕暮れ時。シンの力で実った作物を食べ、ようやく生気を取り戻した村の子供たちが、一人の少女の周りに集まっていました。


 シンは村の男たちに囲まれ「救世主」として崇められ、ガドは村の幹部たちと「未来の正解」を語り合っています。そんな眩しい光の輪から少し離れた場所で、ニアは泥を落とす間もなく、水路の泥を掻き出し、土を整えていました。


「ねえ、おねえちゃん。いかないで?ずっとこの村にいて?」 「これ、あげる。おねえちゃんがいちばん頑張ってたの、ぼく見てたよ」


 一人の少年が、小さな手で摘んだばかりの野花をニアに差し出しました。他の子供たちも、ニアの汚れたスカートの裾をぎゅっと握りしめて離そうとしません。  子供たちは本能で理解していました。

空から降ってきたようなシンの「奇跡」よりも、自分たちのために膝をつき、必死に水を運ぼうとしていたニアの「体温」こそが、信じられるものだと。


「……え? 私に……?」


 ニアは戸惑いました。差し出された小さな野花と、自分を見上げる子供たちの真っ直ぐな瞳。城では「不純物」として石を投げられ、食事さえ奪われていた自分が、ここでは一人の「人間」として求められている。


 ふと、ニアの脳裏に、かつての自分が重なりました。  お兄様がいない時、侍女たちに冷たい床へ突き飛ばされ、泥の混じった残飯すら取り上げられて、空腹で震えていた夜。あの時、自分が誰よりも欲しかったのは、奇跡のような光ではなく、ただ「大丈夫だよ」と隣に座ってくれる誰かの体温でした。


「……ありがとう。でも、私はいかなきゃいけないの」


 ニアは膝をつき、子供たちの目線に合わせて優しく、けれど静かに首を振りました。彼女の手はまだ泥で汚れていましたが、子供たちの小さな手を包み込むその感触は、驚くほど温かなものでした。


「私がいなくなっても、このお花にお水をあげるのを忘れないでね? ……お腹が空くのは、とっても苦しいことだから。みんなには、もうあんな思いをしてほしくないの」


 いじめられ、飢えていた自分を救ってくれる人はいなかった。だからこそ、彼女は本能的に知っていたのです。お兄様が上書きした「一瞬の奇跡」よりも、毎日水を運び、土を撫でる「継続」こそが、この子たちの命を繋ぐのだと。


「おねえちゃん……」


「いい子ね。……約束よ」


 ニアは子供の頭をそっと撫で、自分に言い聞かせるように微笑みました。

 シンやガドの浴びる「崇拝」という名の光の影で、ニアは生まれて初めて、自分と同じ痛みを知る子供たちの心に、消えない「人間としての足跡」を刻みつけていたのです。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


滞在中の数日間、この村には二つの異なる「救済」が流れていました。


 一つは、シンとガドが中心となった**「神の奇跡」**です。シンが村中の荒れ果てた畑を巡り、手をかざしては緑を蘇らせ、ガドがその横で「これぞユウシャの慈悲である」と説法を説く。大人たちは跪き、神話の再現のような光景に酔いしれていました。


 そしてもう一つは、ニアと子供たちが泥にまみれて作り上げた**「人間の足跡」**でした。


 シンの「再生」は土壌の表面を劇的に変えましたが、ニアの懸念通り、水源の詰まりや害虫の卵といった「根本的なノイズ」までは取り除けていませんでした。


ニアは一人で水路を浚い、石を積んで補強していましたが、その背中を追うように、あの日野花をくれた少年たちが集まり始めたのです。


「おねえちゃん、これ、どこに運べばいい?」 「こっちの土、ぼくたちが踏んで固めておくね!」


 ニアの行動は、子供たちから、さらにその兄や姉である若者たちへと伝播していきました。シンの眩しすぎる光に気後れしていた若者たちにとって、自分たちと同じ目線で土を掻くニアの姿は、何よりも確かな「希望の指針」となったのです。


 ある日の作業の合間、水路の脇に座り込んで息をつくニアのもとへ、一人の小さな女の子が駆け寄ってきました。


「……ねえ、おねえちゃん。これ、食べてみて」


 差し出された掌の上にあったのは、どこからどう見てもただの「石ころ」でした。ニアが首を傾げると、女の子は内緒話をするように声を潜めました。


「おとなたちはね、ユウシャさまの真っ赤なトマトに夢中だけど……これ、ひみつの石。すっごく甘いんだよ。お腹が空いて泣いてた時、いつもこれをかじって我慢してたの」


ニアがそっと口に含んで噛みしめると、土の香りの後に、どこか懐かしい、けれど胸が締め付けられるような甘みが広がりました。


「……本当ね。……甘い、とっても」


 それは、シンの魔法で作られた完璧な糖度を持つ果実よりも、ずっと重く、切ない味がしました。城で「バグ」として飢えていた頃のニアが、もしこの「石」を誰かからもらっていたら、どれほど救われただろう。  ニアは溢れそうになる涙を堪え、汚れを拭うことも忘れて、その甘い塊を噛みしめました。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


旅立ちの前夜、村全体が収穫を祝う安堵感に包まれる中で、ガド・レギオンだけは独り、届けられた小さな魔導通信機を手に取っていました。


ガドの手元に浮かび上がったのは、四大執行機関の一つ「パッチノート(正史編纂省)」から送られてきた、非公式かつ極秘の緊急報告。そこには、数日前に「掃き溜めの村」で起きた凄惨な「修正」の記録が記されていました。


(……来たか。あの村の処理結果が)


ガドは冷徹な眼差しで、空中に投影された報告書をなぞりました。 かつて聖王を守る最高峰の騎士でありながら、魔王の子を匿うという「世界のバグ」となった裏切り者、バルト・ヴォルフラム。執行官たちはその抹殺に向かったはずでした。


「……バルト・ヴォルフラム。元・聖騎士団最高総帥。かつての『聖王の盾』が、これほどまでの裏切りを演じていたとはな」


ガドの口元が、わずかに歪みました。伝説の英雄が、泥にまみれて「マオウの子ども」――すなわち、この完璧な世界を終わらせる負の概念を宿した少年、アークを育てていた。その事実は、管理者を自負するガドにとって、吐き気を催すほどの不快な「仕様ミス」でした。 しかし、次の行に目を移した瞬間、その完璧な仮面に初めて微かな亀裂が走ります。


「――執行官を撃退し、対象二名は逃亡。現在、行方不明……?」


報告書によれば、バルトと妻のソフィアが自らを犠牲にして時間を稼ぐ間に、魔王の力を継ぐ少年アークと、その親友でありバルトの息子であるロイの二人が、追手の網を潜り抜けて未知の荒野へと消えたというのです。


(バルトほどの男が、自分の命を投げ打ってまで逃がした『ノイズ』……。ただの子供が、リマスタ(修正)の手を逃れるはずがない。あのアークという個体、僕の計算を超えた何かを宿しているのか?)


ガドの脳内を、嫌な予感がよぎります。マオウの子どもはリマスタ(聖和改修省)が作り上げたこの「正解の世界」にとって、存在するだけで全てを破壊しかねない究極の「毒」なのです。


もしアークが、シンの「光の巡礼」のルート上に現れたら。 もしシンが、自分が「救ってあげたい」と言った少年が、実は世界を根底から否定するほどの憎悪を抱いた「復讐者」に変貌していると知ったら。


(……シン様の光を、あのような濁った泥で汚させるわけにはいかない。あの子は、あくまで『救われるべき哀れな不純物』として死ぬべきだ。シン様という偶像を完成させるための、最後の一ピースとして)


 ガドが暗闇の中で冷徹な思考を完結させた、その時でした。「ギィ……」と重厚な扉が開く音が室内に響きました。


「――やっと見つけた! ガド、一人でこんなところで何してたの?」


 弾んだ声とともに、シンの黄金色の髪が扉の隙間から覗きました。  その瞬間、ガドの顔から氷のような冷酷さが霧散しました。数秒前まで「抹殺」を考えていた男とは思えない、いつもの柔らかく人懐っこい笑顔が、まるで熟練の役者のようにその顔に貼り付きます。


「……あ、シン様。すみません、少し考え事をしていたただけですよ」


「本当? なんだか、遠くから見てたらすごく怖い顔をしてるみたいに見えたから……何かあったの?」


 シンは心配そうにガドの顔を覗き込みました。純粋すぎるその瞳に、ガドは一瞬だけたじろぎましたが、すぐに滑らかな口調で言い訳を紡ぎ出します。


「いえ、何でもありません。これからの巡礼のルートを頭の中で整理していただけですよ。……少し、熱が入りすぎてしまったかもしれませんね」


「なーんだ、そうだったんだ! さすがガドだね、僕たちのためにそんなに一生懸命になってくれて。でも、今はお祝いだよ! 村のみんなが、ガドにも一緒に食べてほしいって呼んでるんだ。さあ、行こう?」


 シンが差し出した迷いのない手。ガドはその手を一瞬見つめ、それからにっこりと、完璧な親友の笑みを返しました。


「はい。すぐに行きます、シン様」


 シンが満足げに廊下へ駆け出していくのを見送り、ガドは背後で通信機を握り潰すようにして閉じました。


「……アーク。君がどこへ逃げようと、世界という『正解』からは逃げられない。君が歩く道は、私が先回りしてすべて書き換えてあげるよ」


 ガドの瞳に、月光よりも冷たい青い火が灯りました。  アークの行方不明。それはガドにとって、初めて自分の「管理下」から外れたイレギュラーな数値――不気味なバグの予兆でした。


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翌朝、黄金の馬車がゆっくりと動き出し、村の外門を抜けようとしていました。


「みんな、元気でねー! またいつか、もっともっとピカピカな世界にして会いに来るからね!」


 シンの声が晴れやかに響き、村の大人たちは涙を流しながら「ユウシャ様、万歳!」と、見えなくなるまで手を振り続けています。彼らにとってシンは、飢えから救ってくれた「正解そのもの」でした。

 馬車の揺れに身を任せながら、シンは満足げにガドに微笑みかけました。


「やっぱり、来てよかった。みんなあんなに喜んでくれて……ガド、僕、もっと頑張るよ。世界中の悲しい子を、あんな風に笑顔にしてあげなきゃ」

「ええ。貴方が歩けば、そこが世界の『正解』になります。誇りに思ってください、シン様」


ガドの言葉に、シンが「うん!」と力強く頷く隣で、窓の外を見つめていたニアが、ポツリと、けれど確かな熱を込めて言いました。


「……私も、お兄様のお手伝いをもっと頑張るわ。お兄様が作った『正解』が、ずっとずっと、あの子たちのところで枯れないように」


 その言葉は、シンの耳には「健気な妹の協力」として響きましたが、ニアの胸のうちは少し違っていました。彼女が守りたいのは、お兄様が塗り替えたピカピカの景色ではなく、その泥の下で必死に生きようとする子供たちの「体温」だったのです。


 ガドはそんなニアの横顔を、値踏みするような冷たい一瞥で捉えましたが、すぐに柔和な表情を作りました。 (……不純物の分際で、世界の維持を語るか。まあいい、シン様を心地よくさせる装置としては、今のところ機能しているようだ)


 大人たちの歓声が遠ざかる村の出口、そこにはシンの光の届かない影に隠れるようにして、あの子供たちと若者たちが立ち尽くしていました。


 彼らは叫ばず、ただ自分たちがニアと一緒に泥にまみれて浚った「水路」の傍に立ち、去り行く馬車をじっと見つめていました。一人の少年が、ニアにしか見えないように、泥で汚れた拳を小さく、けれど強く握って胸に当てました。  ――「絶対に、枯らさない」という、沈黙の誓い。


(……サヨナラ。あのお花と、甘い石のこと、忘れないわ)


 ニアはそっと、懐の石の欠片に触れました。  お兄様の光で「白く」塗り替えられた村の中で、そこだけが唯一、ニアが残した「人間臭い泥の記憶」として脈打っているようでした。

 黄金の馬車は速度を上げ、未知なる南西の地へとひた走ります。

 第一の神器、『黄金の盾』。  傷つくことを拒絶した「完璧な静止」が待つ聖域へ、彼らは残酷なほどの希望を抱いて踏み出していきました。


「……行っちゃったね、おねえちゃん」

村の外れの、新しく整備された水路のそば。小さな影たちが集まって、遠ざかる黄金の馬車の土煙を見つめていました。

「ユウシャさまは凄かったなぁ。手をかざすだけで、畑を全部ピカピカにしちゃうんだもん。……でも、ボクはあのおねえちゃんの方が好きだ。だっておねえちゃん、ボクたちと一緒に泥だらけになって、この水路を浚ってくれたんだよ」

「ねえ、おねえちゃんが言ってたよ。『絶対に枯らさないで』って。……あ、そうだ! みんなも、おねえちゃんやお兄ちゃんたちの旅が、どこかで消えちゃわないように、おまじないをしてくれないかな?」

一人の少女が、泥のついた手で空を指差しました。

「このお話を**【ブックマーク】っていう鎖で繋ぎ止めておいてほしいの。そうすれば、おねえちゃんがどこへ行っても、ボクたちはまた会える気がするから。それから、お兄ちゃんたちを応援する【評価の星(☆☆☆☆☆)】**を贈ってくれたら、この村の畑も、もっとずっと元気に育つと思うんだ!」

「……約束だよ? おねえちゃんたちが、無事に『黄金の盾』にたどり着けるように。みんなの応援という名の『パッチ』で、この物語を支えてほしいんだ。ボクたちも、ここでこの水を守りながら待ってるから!」

子供たちは顔を見合わせ、自分たちの小さな拳をぎゅっと握りしめました。 シンの眩しすぎる光に塗り潰されない、彼らだけの「本物の未来」を信じて。



「ねえ、おねえちゃんたちの旅をいっしょに応援して!」


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