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シンのユウシャ  作者: ねむ


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5/8

Patch05:ユウシャの力

「これより先、一部に『不快なノイズ(残酷な描写)』が含まれます。美しき世界にそぐわぬ方は、ここで目を閉じられることを推奨いたします。」

 我が主、聖なるシン様へ捧げる日誌を認める時間ですね。


 シン様が五歳の誕生日にあのような素晴らしい奇跡を起こされてから、はや数年。あの方は今、聖王様直属の四大執行機関の一つ、**リマスタ(聖和改修省)**の訓練機関にて、まさに神の如き速度で研鑽を積んでおられます。


 リマスタでの訓練風景は、もはや「指導」ではなく、神への「奉納」に近いものでございました。教官を務めるのは、数多の戦場を潜り抜けてきた歴戦の騎士たち。そのなかでも、剣聖と謳われる老教官が、シン様に基本の型を披露した時のことでございます。


「シン様、剣とは魂の重み。この一撃を体得するには、最低でも十年の――」


 老教官が言い終わらぬうちに、シン様は小首を傾げ、あどけない手で訓練用の木剣を握られました。その瞳は、まるで面白い玩具を見つけた子供のように澄み渡っております。


「……こうかな? なんだか、空気が『ここを通って』って言ってるみたいだよ」


 シン様がふわりと踏み込んだ、その瞬間でした。教官が数十年かけて辿り着いた「流麗な踏み込み」と「空気を裂く刺突」。

 あの方はそれを、一度見ただけで――いいえ、まるでもとから自分の持ち物であったかのように、完璧に再現してしまわれたのです。

 木剣が空気を震わせ、黄金の残光が走る。それは泥臭い鍛錬の結果ではなく、世界がシン様に「正解」を差し出したかのような、あまりに残酷なまでに美しい演舞。


「なっ……馬鹿な。私の、私の人生は何だったのだ……」


 老教官は持っていた剣を落とし、その場に力なく崩れ落ちました。自分の人生を捧げて積み上げてきた絶技を、わずか数秒で「コピー」され、さらに上位の「輝き」へと書き換えられた絶望。彼はそのまま、虚空を見つめたまま二度と立ち上がることはございませんでした。

 ……まあ、情けない。シン様の輝きの前で、自分の小ささに気づけたのですから、本望でしょうに。ほほほ!


 さらに、近衛兵たちとの対人訓練でも、シン様のギフトは冴え渡ります。死線を潜り抜けた精鋭たちが放つ、肌を刺すような重苦しい「殺気」。それを向けられたシン様は、ちっとも怖がる様子もなく、楽しそうに笑いかけました。


「おじさん、そんなに怖い顔しなくていいよ。ほら、もっとキラキラさせてあげる」


 シン様が剣を振るうたび、兵士たちの殺気は光の粒へと分解され、殺し合いの場は「黄金の演舞」へと変質してしまいます。対峙していた兵士は、戦う意志さえも強制的に「幸福」へと書き換えられ、ボロボロと涙を流しながら膝を突きました。


「……ああ、美しい。もう、剣を振るう理由が見つからない……」


 教官たちは次々と、「教えることはもう何もない」と震える手で隠居届を書かれました。中には「私の積み上げた時間は、シン様の一瞬にも満たなかった」と、自分の存在そのものを否定されたショックで、魂がどこかへ行ってしまった方も数名いらっしゃいますが……。

 いいのです。シン様が完璧であれば、それ以外の人間の努力など、ただのノイズに過ぎないのですから!



 シン様が「現世の神」として君臨される傍らで、その影に寄り添うガド・レギオン様。

 あの方の変貌ぶりには、私共使用人でさえ背筋が凍る思いがいたします。あの方はまさに、人の心の隙間を縫うようにして歩まれる、完成された天才でございます。


 例えば、四大執行機関の官僚たちが集う高度な政務学の講義でのこと。シン様は持ち前の直感で「正解」を導き出されますが、ガド様はさらにその先――「相手が今、最も言ってほしい正解」を差し出すのです。


「財務官殿。先ほど仰った予算案の不備ですが……。実は私も昨晩、父の書庫で似たような事案を調べておりまして。貴方様のような慧眼をお持ちの方なら、この『隠された特例』にすでにお気づきかと思っておりました。私に少しだけ、貴方様の意図を補足させていただけませんか?」


 そう言って、完璧に計算されたタイミングで官僚に花を持たせ、恥をかかせることなく自分の意図を刷り込んでしまう。財務官は顔を赤らめて、嬉しそうに頷きましたわ。


「おお、ガド様。左様、まさに私の言いたかったのはその特例のことです。いやはや、この若さで私の思考を読み解くとは、貴方こそ将来の王国を背負う賢童だ!」


「滅相もございません。私はただ、財務官殿から学びたいだけなのです。ねえ、この書類の『裏帳簿』の項目についても、後でこっそり教えていただけますか? 僕、もっと貴方のお役に立ちたいんです」


 ガド様の人懐っこい笑みと嘘の謙虚さに絆され、傲慢な大人たちは機密をぽろぽろと漏らしてしまう。ガド様は、誰一人として「自分が管理されている」と気づかせぬまま、大人たちの喉元に静かに指先を添えておられるのです。


 そして何より、私たちが絶句いたしましたのは、ある学問の定期試験での出来事。


 シン様は、その全能に近い直感を持ってしても、人間が作った複雑な試験では九十点台。

 十分に素晴らしいのですが、満点にはあと一歩届きません。対してガド様は、いつも完璧な満点を取られます。

 ですが、あの方はその結果を誰にも、たとえシン様にすら、見せることはありません。


「ガド、試験どうだった? 僕は92点だったよ。あともう少しだったのになぁ。やっぱり人間の作った問題は、時々ノイズが混じってて難しいね」


 そう残念そうに笑うシン様へ、ガド様は自分の『100』と書かれた答案用紙を素早く丸めて隠し、穏やかに微笑みかけるのです。


「僕は89点でした。……ああ、悔しいな。あと少しで、シン様の背中が見えるところだったのに。やっぱりシン様には敵いませんね。貴方様の導き出す答えは、いつも僕よりずっと清らかで、迷いがない」


「えへへ、そうかな? でもガドも頑張ったよ! 次は一緒に満点取ろうね!」


「はい。次はきっと。……でも、シン様。僕は貴方様が見る必要のない『濁った知識』を引き受けます。歴史の裏側や、法律の隙間、そんな暗い場所は僕が覚えておきますから。貴方様はただ、太陽のように美しい正解だけを指し示してください。……それが、僕の役割ですから」


 そう語るガド様の瞳は、私には少し悲しそうに見えました。

 ガド様は、この王宮の誰もが気づかない「世界の歪み」を、ただ一人客観的に見つめておられるのでしょう。シン様が「善意」で振りまく光が、どれほど残酷に、不都合な現実を消し去っているかも。


 最近では、聖王ゼオン様がガド様を呼びつけ、二人きりで密談されているのをよくお見かけしますわ。


  「ガド、お前なら理解できるはずだ。この『光』を維持するために、何が必要か……」


 聖王様がそう仰りながら、ガド様の肩を抱いてどこかへ消えていくお姿。戻ってきたガド様の笑顔は、どこか以前よりも「深い」ものになっている気がいたします。



 もちろん、シン様はそんな「汚れ」など露知らず、純粋にユウシャとしての御力を鍛えておいでです。あの方が毎日、祈りを捧げるように植物を生き返らせるたび、その範囲は広がり、生命の輝きは増していきます。

 五歳の誕生日に生き返らせたあの花は、今も庭園で咲き誇っておりますわ。枝から手折っても枯れることなく、瑞々しいまま。……ええ、不自然なほどに色が濃く、風もないのに微かに震えているようにも見えますが、それこそが「永遠の命」という奇跡なのですわ。


 聖王ゼオン様は、シン様の「書き換える力」をさらなる高みへと導くため、最近では特別な『演習』を課しておられます。場所は王宮の地下、一般の者には決して開かれぬ**リマスタ(聖和改修省)**の深部。


「いいかい、シン。この者たちは『間違い』を犯して傷ついた。君の力で、彼らをあるべき『正解』に戻してあげるんだ。それが王としての慈悲だよ」

「うん、わかったよお父様。僕がみんなを直してあげる。……えいっ!」


 シン様が小さな両手をかざすと、地下室を黄金の濁流のような光が埋め尽くしました。

 喉を切り裂かれた鹿が、バキバキと不気味な音を立てて骨を繋ぎ合わせ、虚ろな目のまま立ち上がり、罪人の傷口が瞬時に塞がり、新しい肉が「増殖」するように生え揃っていきます。


「あ……あが、が……ッ!!」


 罪人は魂を直接削り取るような悲鳴を漏らして震えておいででした。その時でございます。一人の罪人が、立ち上がったまま笑顔の仮面を貼り付けたような顔で、指先からドロドロと黒い泥のように崩れ始めました。


「……? ガド、あのおじさん、なんだか溶けてるみたいだよ? 僕、失敗しちゃったのかな。何か変だよ……」


 シン様が不安げに瞳を揺らし、その崩れゆく「泥」に駆け寄ろうとした瞬間。ガド様が誰よりも速く、シン様の視界を遮るようにその前に立ちました。


「いいえ、シン様。何も心配はいりません。……ほら、見てください。あのおじさんは、あまりの幸福に体が追いつかず、光の粒子になって『卒業』しただけですよ。リマスタの工程は、いつも美しく終わるものです」


 ガド様は優しくシンの肩を抱き寄せ、視線を「泥」から誘導されました。その背後で、ガド様はもう片方の手を背に回し、控えていた処理班へ冷徹な合図を送りました。――「即座に、一粒残さず消せ」と。


「卒業……? そうなんだ。びっくりしたぁ。ねえ、ガド。あのおじさん、次はもっと幸せな場所に行けるかな?」


「もちろんです、シン様。貴方様に救われたのですから。……さあ、あちらの鹿を見てあげてください。あんなに元気に走り回っていますよ」


「よかったぁ……! 僕、もっと練習して、世界中の悲しいものを全部ピカピカに直してあげるね!」

 純粋な喜びで頬を染めるシン様。  その足元で、ガド様が器用にマントの裾で隠した「罪人だった泥」が、音もなく床の溝へと掃き出されていく……。


 ああ、なんと素晴らしい役割分担!  シン様は「救い」だけを見つめ、ガド様はその裏で「救い損ねたゴミ」を、シン様が瞬きする間に消し去ってしまう。  聖王ゼオン様は、その様子を満足げに眺めながら、ガド様と視線を交わされました。


「ガド、後処理は任せたぞ」 「御意に、陛下。シン様の御心のままに」


 これこそが、完成された王国の「正解」。  シン様が笑えば世界は救われ、その陰で何が崩れ去ろうとも、それは「なかったこと」になるのです。


 ああ、なんと素晴らしい世界かしら。  シン様が望まれるままに、世界が書き換わっていく。  その指先が、いずれ「命そのものの理」を完全に支配する日が来るのを、私は心待ちにしておりますわ。


【市民ログ:005-B】

「……あ、ここまで読んでくださってありがとうございます。

あ、申し遅れましたね。僕はガド・レギオン。シン様の唯一無二の親友として、あの方の隣でお仕えしています。

シン様の輝きは、眩しすぎませんでしたか?

あの方は太陽そのもの。あの方の御力によって、枯れた花は永遠に咲き、傷ついた者は幸せな『正解』へと作り替えられる。それこそがこの世界の正しい仕様であり、唯一の救いなんです。


……おや、何か言いたげな顔をしていますね。 地下室の『泥』のことですか? それとも、シン様の見ている風景の歪みのことでしょうか?


ふふ、あまり深く考えないでください。


シン様が『みんなを救いたい』と笑っているのなら、その過程で何が塵になろうと、それはすべて幸福な『卒業』。僕がそう決めたんです。あの方の目に、不都合なノイズを見せるわけにはいかないですからね。


光が強まれば強まるほど、その裏側に溜まる『影』を掃除するのは僕の仕事……。 貴方たちはただ、シン様が創り出すピカピカな世界だけを、その目に焼き付けていればいい。


……おっと、忘れるところでした! もしシン様の『救い』を応援してくださるなら、下の【☆☆☆☆☆】をピカピカに光らせていただけませんか? あ、ついでに……えへへ、僕のことも応援してくれると嬉しいな! 僕、シン様のためにすっごく頑張ってるから、皆さんに褒めてもらえると、もっともっとお掃除頑張れちゃう気がするんです!


もちろん、ブックマークも。 僕たちの物語を『修正』させないために……皆さんの評価が必要なんです。 皆さんは、僕たちの味方……ですよね?

それでは、また次の物語でお会いしましょう」


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