Patch 04:ギフト
私は、世界で最も幸福な「目」を持っております。 一分一秒も欠かさず、シン様という地上に降りた太陽を見守り続けてきたのですから。
シン様は何不自由なく、それはそれは健やかに、完璧に成長されました。 あの方がふっと慈悲深く微笑まれるだけで、たとえ真昼であっても王宮の空には極彩色のオーロラが幾重にも重なり、たなびくのです。 その光は、まるでシン様の感情をそのまま映し出したかのように輝き、浴びる者すべての心を強制的な幸福感で満たしてしまいます。
「ねえ、見て。お空がとっても綺麗だよ」
そう言って空を指差すシン様の瞳は、オーロラよりもずっと澄んでおられました。 夜になれば、あの日世界を飲み込んだあの不吉な暗闇が、窓の向こうで蠢いているようにも見えますが……いいえ、きっと気のせいですわ。あまりに強すぎるシン様の光が、私の網膜に焼き付いているだけのこと。
シン様の誕生から2年後、この国にまた一つニュースが舞い込みました。 妹君、ニア・ルミナリー様の誕生です。
なぜ苗字が違うのか、ですって? あの方は、聖王様が外でつくられた「愛人の子」なのです。卑しい、実に卑しい血。 当然、シン様と同じ王の名「ディザストラム」を継ぐ資格など万に一つもありません。
シン様が生まれてからというもの、聖王ゼオン様の女遊びは一際激しくなった気がします。……いや、もう少し前からだったかしら? それも致し方ないことでしょう。これほど素晴らしい息子をお持ちなのですから、聖王様が自らの種をより多く残そうとされるのは、王としての責務ですもの。
正直、私たち使用人は、あの妹君を疎んでおりました。 ですが、シン様だけは違った。あの方はニア様の小さな手を取り、眩いばかりの笑顔でこう仰ったのです。
「僕に妹ができるなんて、最高のプレゼントだね。ニア、ずっと一緒にいようね」
ああ、なんと慈悲深いお言葉……。 それゆえ、ニア様はシン様に毒されたように懐き、常にその背中を追い回しております。 その光景を見るたび、私たちは胸が焼けるような不快感を覚えますが……それもまたシン様が望まれるのであれば「正解」なのですわ。
シン様は、まさに天賦の才の塊でした。 生後1年で言葉の概念を掴み、2歳になる頃には聖典を独自の視点で解釈し、大人たちを絶句させました。 その知性は冷徹なものではなく、人一倍優しく、純粋な心に裏打ちされたもの。 あの方は4歳にして、国の基盤である「四大執行機関」の官僚たちを、たった一言の助言で心服させてしまわれたのです。
「パッチノート(正史編纂省)の皆さん、過去を消すのは悲しいけれど、みんなが笑える『今日』を作るためなら、それはきっと優しいお仕事だね」
四大執行機関というのはですね、聖王ゼオン様が「シンのユウシャ」となられるシン様のために、この世界を最も美しい形に整えようと用意された、慈愛に満ちた執行機関のこと。
**聖和改修省**通称リマスタは、ユウシャ様の仕様に合わせて、不完全な人々を正しい方向へ導き、作り替えてくださる機関。
**正史編纂省**通称パッチノートは、輝かしい歴史を後世へ語り継ぐため管理してくださる機関。
**聖物監理省**通称プロバイダーは、聖なる物を正しく管理し、あまねく人民の幸せのために使ってくださる機関。
そして**景観保全省**通称テクスチャは、見苦しいものを覆い隠し、この国をどこを切り取っても絵画のように美しく保ってくださる機関。
そんな素晴らしい組織の重鎮たちが、幼きシン様を「現世の神」として仰ぎ見たのは、当然のことですね。
そして――本日。 5歳の誕生日を祝う祝宴で、決定的な「奇跡」が起きました。
王宮の庭園は、世界中から集められた希少な大輪の花々と、シン様に送る様々な贈り物で埋め尽くされていました。 その華やかな熱狂の中で、聖王ゼオン様が一人の少年をシン様に紹介されました。
「シン、紹介しよう。我が古き友の息子、ガド・レギオンだ。彼もまた、あの奇跡の日に生まれた特別な子だ」
ガド様は、シン様と同い年とは思えぬほど聡明で、そして恐ろしいほど社交的だった。 人懐っこい笑みを浮かべ、大人たちの顔色を完璧に読み取るその仕草は、どこか詐欺師のような危うささえ感じさせる。
ガド様は優雅に一礼し、完璧な作り笑いで口を開きました。
「お初にお目にかかります、シン様。お噂はかねがね。今日から貴方様の最も忠実な遊び相手になれるよう、努力いたしますよ」
シン様は嬉しそうにその手を取り、無邪気に笑いかけました。
「よろしくね、ガド! 同じ日に生まれたなんて、僕たち運命の友達になれる気がするんだ」
「光栄です、シン様。貴方様のような特別な方の『運命』に、僕のような者が混ざることを許されるのであれば……これ以上の幸運はございません。ええ、きっと僕たちは、最高の友達になれるはずです」
そう答えるガド様の声は、歌うように滑らかでした。
ですが、その時のガド様の瞳は、まだシン様を見てはいなかった。 あの方が視線を向けていたのは、シン様の背後に立つ聖王様や、自分の一挙手一投足を値踏みする大人たちの影。
ガド様にとって、この時のシン様はまだ、親から「仲良くしろ」と命じられただけの、価値ある『記号』に過ぎなかったのです。
祝宴の最中、シン様がふと花壇の一角に目を留められました。 そこには、一輪だけ枯れ果てた花がありました。
「……かわいそうに。今日はこんなに素敵な日なのに、君だけ元気がないんだね」
シン様がそう呟き、その萎れた花びらに指を触れた、その瞬間。 ――世界が、書き換えられたのです。
枯れていた花が瞬時に時間を巻き戻したように色彩を取り戻し、さらにはその周囲に、同じ花が爆発するように増殖して埋め尽くした。
「……っ!」
間近で見ていたガド様の顔から、貼り付けたような笑みが剥がれ落ちました。 かつて父から「王子の機嫌を損ねるな、それが一族の生き残る道だ」と汚い裏側を教え込まれてきた。世界なんて全部、大人の嘘でできている。
そう信じていた少年は、目の前の「理屈を超えた奇跡」に、初めて、理屈を超えた本物の信仰が宿ったのです。
ガド様はその場に震えながら跪き、自らの意志で、震える声で誓いを立てました。
「……今の今まで、この世に奇跡なんてないと思っていました。ですが、今決めました。シン様……僕の命も、魂も、今日この時から全て貴方様のものです。」
「見たか! これぞ我が血を引きし、シンのユウシャという神の化身が振るう奇跡の片鱗! もはや万象の理すら、この子の意志ひとつで書き換えることができるのだ!」
聖王ゼオン様が、あたかも自分の功績であるかのように高らかに謳われると、その場にいた使用人、招待客、全ての者がガド様に続くように一斉に跪きました。 数百人の人間が頭を垂れる、不気味なほどの静寂と熱狂。
シン様は、自らの指先を見つめたまま、凍りついたように立ち尽くしておられました。 脳内では異常な現象への困惑が渦巻いているはず。けれど、目の前で自分を神と仰ぐ群衆の波が、その不安を全能感へと塗り替えていく。
(ああ……そうだ。やっぱり、僕なんだ。僕にしか、この世界を救うことはできないんだ……!)
シン様の表情は、得体の知れない力への「恐怖」と、選ばれた者だけが味わう絶頂の「歓喜」が入り混じり、歪なまでの輝きを放っていました。
「……みんな, ありがとう。分かったよ。僕が、みんなを救う『ユウシャ』になるね」
それは、一人の子供が、自らを『偶像』として完全に受け入れた、歴史的な瞬間。
その背後で、兄様に触れようとしたニア様の小さな手が、人々の熱狂の中土に汚れ、使用人の足に踏みにじられていることなど、誰も気づいてはおりませんでした。
皆様、シンのユウシャ様のあまりに眩い「奇跡」、ご覧いただけましたか? 枯れた花が、あの方の指先一つで命を吹き返される……。ああ、これこそがこの世界の「正解」なのです。
ひざまずくガド様の潔い誓い、そしてあまねく民を照らすオーロラの光。 この完璧な光景に、皆様もきっと魂が震えたことでしょう。 ええ、ええ、分かっておりますとも。シンのユウシャ様こそが、この狂った……おっと、この「修復された世界」の唯一の救いなのです。
もし、皆様の心にもシン様の光が届きましたら、ぜひその証を刻んでいってくださいませ。
画面下の**【☆☆☆☆☆】を、シン様のオーロラのように黄金色(★★★★★)に染めて**、この物語を応援してくださると嬉しいです。 そして**【ブックマーク】**という名の忠誠を誓っていただければ、私も、そしてシン様も、皆様を「正しい幸せ」へと導いて差し上げましょう。
感想もお待ちしておりますわ。 「シン様万歳!」という祝福の言葉なら、喜んでお受けいたします。
……あ、そうそう。あまりにシン様が神々しいので、最近私、シン様が歩かれた後の土を小瓶に詰めて持ち歩いているんです。 たまにその土から、勝手に高級なバラがニョキニョキ生えてきて小瓶を突き破ってしまうのが悩みどころなのですが……ふふ、シン様の慈愛が溢れ出している証拠ですわね!(掃除が大変なので景観保全局の方には内緒ですわよ)
それでは、次のお話でお会いいたしましょう。




