Patch 02:誕生
産声が止まり、時計の針が「XII」で重なった直後。 世界を焼き尽くさんばかりに明滅させていた「狂乱の十二分間」は、嘘のように収束した。
だが、訪れたのは「元の世界」ではなかった。
慈教大国グラディアを包み込んだのは、物理法則を無視した圧倒的な多幸感
窓の外を見上げた王族や近衛兵たちは、息を呑んだ。
空を埋め尽くしていた絶望 of 闇は消え、そこには太陽の光をプリズムのように透過させた、極彩色のオーロラがとぐろを巻いていた。
「……美しい」
誰かが呟いたその一言が、感染するように産院中へ広がっていく。
直前まで、世界の終焉に震え、互いを突き飛ばして逃げ惑っていたはずの大人たちが、まるで魔法にかかったように穏やかな笑みを浮かべ、手を取り合い始めた。
数分前に、恐怖のあまり部下を怒鳴り散らしていた将軍は、その部下の肩を抱いて「無事でよかった」と涙を流している。
それは、人類がかつて一度も到達し得なかった、**『争いのない理想郷』**の誕生。 そして、その中心にいるのは――。
「見てください、この子の瞳……。まるで、世界を照らす太陽のようです」
白銀の産院で、震える手で赤ん坊を抱き上げた聖王ゼオンは、そのあまりに澄んだ瞳に魅了されていた。
先ほどまでの終末への恐怖は、跡形もなく消え去っている。いや、消し去られたのだ。
王は確信した。この子は壊れた世界を修復するために遣わされた、唯一の正解なのだと。
「この子の名は――**『シン』。シン・ディザストラム。**真実(Sincere)なる王として、この世界を正しく導くだろう」
「シン! シン・ディザストラム王子万歳!」 「天の恩寵、我らが救世主よ!」
産院にいた貴族や衛兵たちが、熱狂的にその名を唱和した。誰もが恍惚とした表情を浮かべ、この「祝福」を疑う者など一人もいない。
その熱狂の渦中で、一人だけ、産後の衰えを一切感じさせないほど静かに佇む女性がいた。聖王妃――シンの母親である。
彼女は、愛する我が子を見つめる聖王にそっと寄り添い、慈愛に満ちた微笑を浮かべている。
聖王ゼオンがシンの頬を愛おしげに撫でた、その瞬間。
彼女の唇が、夫にも聞こえぬほど微かに動いた。
「――オメデトウ」
その歓喜の渦の端。 窓際で一人の老学者が、ふと眉をひそめた。
オーロラの輝きが降り注ぐ庭園、その生い茂る木々の奥から、耳慣れない音が聞こえたのだ。
「……ん? 今の声は……鳥?」
それは、鳥のさえずりにしてはあまりに無機質で、短く、不気味なノイズだった。
「テ……ラ……。テ……ラ……」
学者は耳を疑った。今、この鳥は言葉を発したのではないか?
「鳥が……しゃべった!? いま、何と言ったんじゃ……?」
彼がその不吉な正体を突き止めようと身を乗り出した、その時だった。
窓から差し込んだ極彩色のオーロラが、まるで彼の脳を優しく撫でるように、その視界を真っ白に染め上げた。
シンが赤ん坊らしい無邪気な笑みを浮かべて小さな手を伸ばす。
すると、先ほどまで「テ……ラ……」とノイズを吐き出していた庭の鳥たちが一斉に飛び立ち、今度は「シン!ユウシャ! シン!ユウシャ!」と、鈴を転がすような美しい賛歌に声を塗り替えた。
「おお……なんということじゃ……」
学者の瞳から、先ほどまでの鋭い猜疑心が消え失せた。
オーロラの光に触れた彼の思考は、今起きた「不自然な現象」を、最も都合の良い形へと再構築してしまったのだ。
「鳥たちまでもが、言葉を持って王子の使命を告げておる……! これぞシン様がもたらした奇跡、天が定めた『シンのユウシャ』誕生じゃ!」
学者は歓喜に震え、自らの発見した「真実」を「奇跡」へと完全にすり替え、再び王子の祝福に加わった。
彼が聞き逃した、そして自ら書き換えてしまったその短いノイズこそが、世界に刻まれた「ヒビ」から漏れ出した最初の░▒▓▚▞▓▒░であることに、まだ誰も気づくことはなかった。
【市民ログ:002-B】
「……ああ、読んでいただけましたか? これこそが、私たちの救世主、シン様が降臨された瞬間の真実。 文字を追うだけで、あの極彩色のオーロラが脳裏に焼き付くようです。
争い合っていた大人たちが手を取り合い、鳥たちまでもが言葉を持ってその名を讃える……。これ以上の『正解』が、この世にあるでしょうか? もしあなたが、途中で何か妙な違和感……いえ、不吉な『ノイズ』のようなものを感じたのなら、それはまだ、あなたの瞳が古い世界の汚れに曇っている証拠です。
でも、安心してください。 読み進めるうちに、その曇りもシン様の光が綺麗に洗い流してくださるはずですから。
さあ、この完璧な物語を共に守るために、ぜひブックマークや下の評価をお願いします。 あなたのその一歩が、この世界をさらなる至福へと導く、シン様への捧げ物になるのです。
次もまた、この輝かしい歴史の続きでお会いしましょう。
それでは、至福の拍手の中で。……シン様万歳!」




