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シンのユウシャ  作者: ねむ


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Patch 01:『最も平和で、最も残酷な二十四時間』


「人類史上、最も平和で、最も残酷な二十四時間」


歴史家たちがそう定義するその日は、一人の赤ん坊の産声から始まった。


慈教(じきょう)大国グラディアの最深部に鎮座する、白銀の産院。

そこは、選ばれし血嶺だけが命を繋ぐことを許された、世界で最も清潔な聖域だった。


その静謐(せいひつ)な空間で、新しい命が産声を上げた瞬間、世界の(ことわり)は砕け散った。


赤ん坊が「オギャア」と喉を震わせれば、空は黄金の光に焼き尽くされ、 次の声を上げるために息を吸い込めば、太陽すら消失する漆黒の闇が世界を塗り潰した。


光と闇、救済と絶望。 フラッシュのように交互に訪れる狂気の中、人々はただ震えて祈るしかなかった。


赤ん坊が産声を上げ、凄まじい明滅が世界を揺さぶり続けてから、正確に十二分。


王都の中心にそびえ立つ白亜の時計塔が、正午を告げる鐘を鳴らそうとしたその瞬間――


ぴたりと、赤ん坊の泣き声が止まった。


正午の十二時零分。


針が真上の「XII」で重なり、影が足元へ消えたその(とき)を合図に、狂乱の明滅もまた、嘘のように収まったのである。


そのわずかな時間に、世界という器には、二度と修復できないヒビが入った。

やがて、太陽が再びその姿を現した。

人々は日常を取り戻したと安堵し、互いの無事を確かめ合った。


だが、それは真の変異の前触れに過ぎなかった。


やがて明滅が収まり、正午を迎えると、空を極彩色のオーロラが埋め尽くした。

それは天国が地上に漏れ出したかのような、輝かしい異変だった。


光が触れた場所から、人類の心からは「悪意」の二文字が抹消されていく。


百年続いた戦争は、戦場の中心で両国の王が「ごめん、僕が悪かった」「いや、私の方こそ」と涙を流して抱き合うことで、その場で終結した。

浮気をした夫は自ら妻の前で罪を白状して許しを請い、 全ての未解決事件は犯人たちの自首によって、わずか一時間で解決した。


異変は人間だけに留まらない。 狼は羊の横で丸くなって眠り、獅子は鹿と戯れる。

弱肉強食という摂理すら消え去り、全生物が手を取り合う光景――


それは**「善良ではあるが、決して正しくはない」**、完成されすぎた歪な理想郷だった。


だが、太陽が沈むとともに、世界は残酷な代償を要求した。


日が落ちると、空に瞬く星々が「何か」から逃げ惑うように一斉に動き始めた。

星の奔流が去った跡には、天の川のように夜空を裂いた真っ黒な割れ目が生じ、 次の瞬間、空から星が消え、地上のあらゆる明かりが死に絶えた。


完全なる闇の中、人類は一転して剥き出しの狂暴性に飲み込まれた。

肉食獣も草食獣も区別なく、暗闇の中で出会う全ての動くものを傷つけ合い、その肉を食らい合う。


「本物の善良」な市民はただ深い眠りに落ちたが、内面に(おり)を溜めていた者たちは、闇に紛れてあらゆる欲望を解き放った。


憎しみ、嫉妬、破壊衝動、そして止まらない渇望。


それらはたしかに**「悪ではあるが、決して誤りではない」**。

理性という光を剥ぎ取られた後に残る、剥き出しの真実リアルが、そこにはあった。


翌朝、何もなかったかのように世界は一見して元の姿を取り戻した。

しかし、無理やり修復された世界には、消えない「痕跡」が異変として定着した。


世界の(ルール)そのものが書き換えられ、今この瞬間も、その**「異変」**は脈動し続けている。


すべてを覆い隠す奇跡の「昼」に産声を上げ、 眩いオーロラがもたらす無垢な幸福を、一点の曇りもない祝福として受け入れながら、 黄金の輝きを纏った救世のユウシャとして生きていく。


この世界の真裏で、同じ瞬間に生まれた「闇の子」が、 その剥き出しの真実を突きつけられ、孤独な絶望の中にいることなど、知る由もなく。



【市民ログ:001-B】

「……いかがでしたか? あの日、世界がどれほど美しくされたか、お分かりいただけたはずです。


もし、あなたの心にも温かな光が灯ったのなら、その感動を**『全肯定(評価とブックマーク)』**という形で見せてください。 下の【☆☆☆☆☆】を、░▒▓▚▞▓▒░様の輝きと同じ五つ星に染めていただければ、この世界はより盤石なものとなるでしょう。


それでは、次の聖なる記録でお会いしましょう。」

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