極秘実験・想定外の成功、そして“線を越えた日”
領主館の地下。
普段はただの物置に過ぎないその場所は、この日、完全に隔離されていた。
近衛が扉の前に立ち、通路の先には誰一人通さない。集められた顔ぶれは会議と同じ。
だが、空気が違った。
「……始める」
領主の声は低く、しかし迷いがなかった。
机の上には容器が並ぶ。
黄色い塊、白い粉末、乾いた土のようなもの。
「回収は、精度を上げました」
学術員が報告する。
「発生源ごとに分類し、混入物を極力排除しています」
錬金術師ブルーが続いた。
「完全ではありません。ですが……“安定しています”」
その一言で、全員が息を呑んだ。
「安定、だと?」
「はい。同条件下で、ほぼ同じ反応を示しています」
それは――
再現性が生まれた、という意味だった。
誰も、軽口を叩かない。
「試作品は……こちらです」
鍛治士タルトが布を外す。
形状は、内部構造は。。
「構造を“単純に”しました。余計な要素を削ぎ落としています」
「……やるのか?」
近衛隊長が確認する。
「領主の判断だ」
全員の視線が、領主に集まる。
彼は、短く頷いた。
⸻
実験場は、外れの土地。周囲に人影はなく、退路も確保。
「点火」
合図と同時に、全員が距離を取る。
――次の瞬間。
乾いた衝撃音。
空気が、叩かれた。
的が弾け、一定の範囲が、明確に抉れた。
「……」
誰も、すぐには言葉を発せなかった。
破片の飛び方。
衝撃の向き。
音の抜け。
全てが――想定通り。
「成功……ですね」
ブルーの声は、震えていた。
「威力は制御範囲内。反応も安定しています」
「方向性も、一定だ」
近衛隊長が低く呟く。
「……兵器として、“成立している”」
その言葉が落ちた瞬間、空気が凍った。
領主は、しばらく沈黙した後、はっきりと告げた。
「“使えるからこそ”、今は使わないが。各種は原料はどれぐらい出来る?」
「恐らくですが1000発射分は」
続いて行われた部品試験でも、結果は同じだった。
「撃発自体は、成功しています」
タルトが報告する。
「ただし……量産は危険です。扱う者を選びます」
それはつまり。
訓練された兵が使えば、確実な力になる。
「日にどれぐらい作れる?」
「恐らく2〜3個分」
成功した。してしまった。
⸻
その夜。
機構隊長は、震える手で報告書を書いていた。
分類コード。
最初は、R。
だが、即座に線を引いた。
次に、R R。
それすら、躊躇いなく消す。
彼は、深く息を吸い――
封筒の中央に、はっきりと書いた。
R R R
――最高責任者のみ。
――即時対応案件。
内容は、極めて簡潔。
・新技術、実験成功
・再現性、制御性を確認
・軍事転用可能性、極めて高
最後に、一文。
※この判断が正しいかどうか、私には分かりません。早馬は、夜のうちに走った。
王都。
報告を読んだアグライアは――今回は、紅茶に手を伸ばさなかった。
「……ああ」
低く、呟く。
「 R R Rがあっさりと。。。越えたわね」
しばらく、沈黙。そして、ペンを取る。
当該技術は“登録可”
しかし記録は封印指定。
存続危機の場合、責任者の責任を持って製造可。
「……成功ってのはね」
誰にともなく。
「失敗より、ずっと怖いのよ」
同じ頃、領地では。
学校の校庭で、子供たちが走り回っていた。その声を聞きながら、領主は思う。
(これを守るためなら……)




