極秘会議 ――大人の仕事
――娘を、あそこまで悩ませてしまった。
領主は一人、執務室で深く息を吐いた。
(……父親失格だな)
守るべき存在に、世界の歪みと危険を先に見せてしまった。
だが、もう嘆いている時間はない。
ここから先は――大人の仕事だ。
机の上の呼び鈴を鳴らした。
「呼べ」
即座に扉が開く。
「命令だ。今から呼び出す者を、すぐに集めろ」
静かだが、有無を言わせぬ声だった。
⸻
最初に現れたのは――機構隊長。
(……領主直々の命令?珍しいな)
内心そう思いながらも、顔には出さず一礼する。
「お呼びでしょうか、領主殿」
次に入ってきたのは、近衛隊長だった。
(機構隊長が先に?……領境の件か?)
二人は軽く視線を交わすが、言葉は交わさない。
続いて、錬金術師ブルーと学術員二名。
「領主様!色鉛筆の件ですが――」
ブルーは上機嫌だった。だが、部屋にいる顔ぶれを見た瞬間、言葉が止まる。
(……あれ?近衛? 機構?……なんか、空気おかしくない?)
最後に入ってきたのは、鍛治士タルト。
「いやぁ、呼ばれるとは思っておらんかったが……」
軽い調子で入ってきたが、即座に異変を察する。
(……これは、新商品の話じゃないな)
全員が揃った。
六名。
この場にいる全員が、領地の中枢を担う存在だった。
――そして全員が、いつもと違う領主の雰囲気を感じ取っていた。
領主は立ち上がり、ゆっくりと全員を見渡した。
「忙しい中、集まってもらい感謝する」
その声は低く、重い。
「まず最初に言っておく。これから話す内容は――極秘事項とする」
部屋の空気が、さらに張り詰める。
「もし、ここにいる者以外から、この話が私の耳に入った場合」
一瞬の間。
「立場は問わない。領主権限をもって、ここにいる六名全員を拘束し――処刑する」
……。
一瞬、時間が止まった。
誰も言葉を発せない。
(……は?)
(処刑……?)
六名とも、心底驚いていた。
確かに、領主命令に逆らえば処刑はあり得る。だが――
・近衛隊長
・機構隊長
・錬金術師
・学術員
・鍛治士
この三機関は、厳密には別命令系統だ。
特に近衛と機構、その隊長クラスをまとめて処刑すると宣言するなど――
それは、それを宣言した領主自身も、覚悟がなければ出来ない。
(……これは)
(とんでもない事が起きている)
沈黙を破ったのは、機構隊長だった。
「あのぅ……」
喉を鳴らしながら、慎重に口を開く。
「一体……何が起きているんですか?」
領主は、冷ややかに視線を向けた。
「……ここから先を聞くという事は理解しておるな?他の者も、同様だ」
全員、無言で頷いた。
覚悟を決めた合図だった。
机の引き出しから、束ねられた書面を取り出す。
「これを見ろ」
それは――メイヤが書いた書面だった。
一枚、また一枚。
読み進めるにつれ、全員の顔色が変わっていく。
「……これは……」
ブルーの声が、かすれた。
「本当……なんですか?」
領主は、正直に答える。
「まだ分からん。だが、理論上は可能だ」
重い沈黙。
「ここに呼んだ理由を説明する」
一人一人を指差すように視線を向けた。
「まず――原料の精製、性質の確認、配合。これは錬金術師と、学術員の役目だ」
ブルーと学術員が、思わず背筋を伸ばす。
「次にそれを形にする。鍛治士タルト、お前の仕事だ」
「……ほぉ」
タルトは、無意識に息を吐いた。
「そして完成した物を、どう使い、どう守り、どう抑止するか」
近衛隊長と機構隊長を見る。
「それは――軍の仕事だ」
部屋の空気が、完全に変わった。
これは新商品ではない。研究でもない。
――戦争に繋がりかねない話だ。
「これは、まだ仮説の段階だ。だがもし実現すれば、この領地だけでなく、王国全体の力の均衡が変わる」
領主は、はっきりと言い切った。
「だからこそ。娘は、前に出さない。この件の責任は――私が全て負う」
六名は、ようやく理解した。
これは、メイヤを守るために敷かれた線なのだと。
父として。
領主として。
「――以上だ。質問は、ここでしろ!覚悟の無い者は、今すぐ席を立て」
背中は、揺るがなかった。
そして六名は、誰一人として席を立たなかった。
――物語は、
確実に“次の段階”へ進んだ。




