メモ魔、復活!そして新たな“土の問題”
ゴアゴア紙の試作成功から数日後。
工房では、鉛筆組と紙組が交互に作業を進め、手の空いた者が少しずつ在庫を積み上げていた。
「ふぅ……今日もいい出来ですね、メイヤ様」
「うん! みんなのおかげだよ!」
ミュネが笑顔で汗を拭う横で、メイヤは胸を張って頷く。
鉛筆は1日に数十本。
ゴアゴア紙は乾燥工程のせいで時間はかかるものの、確実に増えている。
◆
その日の午後。
メイヤは父の執務室へ呼び出しを受けていた。
「鉛筆とゴアゴア紙の試用品だが……領主として正式に使用を許可する」
「ほんと!? お父様ありがとう!」
許可を得た瞬間、メイヤの瞳がキラキラと輝く。
――メモ魔、完全復活である。
◆
「メイヤ様、首にかけているそれは……?」
「これ? 木工師さんが作ってくれたの!」
胸元には、薄い木板を二枚合わせて作った“簡易バインダー”がぶら下がっている。
紙を挟めるように小さな木の留め具までついていて、思わず職人技を感じる出来だ。
(お嬢が持ち運ぶなら、軽くして……丈夫で……売れるかもしれん)
木工師はその場で領主に相談し、新商品の可能性として提出していた。
メイヤが知らぬところで、領内の産業はまたひとつ増えようとしている。
◆
「ミュネ、今日は畑のほうを見にいきたいの!」
「畑、ですか? ええ、もちろんご案内します」
ふたりは領内の散策へと出かけた。
昼下がりの陽光が麦畑を照らし、風に揺れる黄金色の波が広がる。
近くでは豆畑の農夫たちが黙々と作業している。
メイヤは土をしゃがんで掴む。
「……うーん、やっぱり」
「何かお気づきになられましたか?」
「土、痩せてる。作物が疲れてるみたい」
農夫に話を聞くと、毎年作る品目はローテーションしているが、肥料が足りないため連作の影響が抜けきらないという。
「この領地、鶏を育ててるよね?」
「ええ、少しですが……」
「もっと増やせないかな? 鶏が増えたら、肥料も増えるはずだよ!」
ミュネはぱちぱちと瞬きをした。
「……それは、確かに理にかなっていますね。ただし鶏を買うにはお金が……」
「うーん……どうしよう……」
メイヤは首のバインダーを押さえながら歩いた。
肥料大量生産――畑改革の第一歩なのは確か。
だが資金だけは、どうにもならない。
そんな時だった。
◆
「メイヤ様っ! ミュネ殿っ!」
遠くから砂煙を上げて、犬族ハーフの商人――ロウガが駆けてくる。
「ロ、ロウガさん? ど、どうしたの?」
ぜぇぜぇ息を切らしながら、ロウガは朗報を告げた。
「エドラン領との――鉛筆取引が成立しましたっ!!」
「えっ!? 本当に!?」
「はい! そして……向こうの領主様が“ゴアゴア紙もぜひ見たい”と!そのための前金として……金貨二十枚、預かってきました!」
彼は腰の袋から重たい革袋を持ち上げた。
中から金貨がぎっしりと光る。
ミュネが驚きのあまり声を失う。
「こ、こんなに……!」
メイヤは思わず拳を握った。
(これで……鶏、買える!)
◆
その日の夕方。
領主館の会議室で、メイヤは父に頭を下げた。
「お父様! この前金の一部で鶏を増やしたいの!」
「鶏を? 理由は?」
「畑の土が痩せてきてるの。肥料をもっと作るために鶏を増やすべきだと思う!」
領主はガルドと目を合わせた。
執事は頷く。
「……確かに合理的です。少しずつ畜産数を増やせば、畑の収穫量も上がるでしょう」
「鉛筆の取引が始まる以上、この臨時収入を使って領内の基盤を整えるべきですな」
父は深く考え――そして、笑った。
「メイヤ、お前はまた面白いことを言い出すな。よし、任せる。鶏の購入を許可しよう!」
「やった!!」
こうして、メイヤの“土づくり計画”は第一歩を踏み出した。
鉛筆が、紙が、領地を動かし始め……
そして今度は“農地改革”までも。
フェルナード領の未来は、幼い少女の手で静かに、しかし確実に変わり続けていくのだった――。




