休みを持て余す隊長たちと王都で動き出す影
領都は今日も平和だった。
……平和すぎて、やることがない。
「…………」
「…………」
通りの真ん中で、二人の男がバッタリと出会った。
「……はぁ〜……」
先に大きくため息を吐いたのは、世界商品登録機構・機構隊長だった。
「なんで仕事場でも顔合わせて、休みの日まで会わなきゃいけねぇんだよ……」
「俺だって好き好んで会いたいわけじゃない……」
対する近衛隊長も、腕を組んで不機嫌そうに返す。
「休みってのは、もっとこう……気分良く始まるもんじゃないのか?」
「知らん。俺も初めてだ」
二人の会話は、完全に“休みに慣れていない人間”のそれだった。
■ 休めと言われても困る隊長たち
「……そもそもだな」
機構隊長が歩きながら言う。
「この休み、あのちっこいの――メイヤの発案だろ?」
「そうだな」
「隊長の俺たちが休まないと、部下も休めないから“強制的に休め”って……」
「理屈は正しい」
「正しいがなぁ……」
機構隊長は頭を掻いた。
「休みって、何すりゃいいんだ?」
「……それを俺に聞くな」
近衛隊長も困った顔だ。
「訓練も無し、巡回も無し、書類も無し……」
「剣も持つな、制服も着るな、って言われてな」
「私服が落ち着かん」
二人揃って、深いため息。
「遊技場が出来てればまだマシだったんだが……」
「建設中だな」
「酒場で昼から飲むのも違うし……」
「部下に見られたら示しがつかん」
結局、二人は目的もなく領都をフラフラ歩いていた。
完全に――
休みを持て余す中年上司の図である。
■ 王都・ババア、ニヤつく
一方その頃。
遠く離れた王都では、まったく別の空気が流れていた。
「ほぅ……」
世界商品登録機構・総責任者
アグライア=ホルンベルグ――通称ババア。
彼女は報告書を読みながら、口角をつり上げた。
「度量衡統一に最後まで反対してた連中……」
机の上には、商人たちの名前が並んでいる。
「案の定、売上ガタ落ち」
「で、次は反王室派に接触、か」
ババアは鼻で笑った。
「ばっかねぇ……」
「素直に従ってりゃ、生き残れたものを」
「王室に楯突いて、反王室派とくっつく?それで何とかなると思ったのかしら」
報告に来ていた部下が言う。
「どうやら、完全に合流する動きが見え始めています」
「……あら、いいじゃない」
ババアは椅子に深く腰掛けた。
「それなら、やりやすいわ」
「中途半端が一番面倒なのよ」
■ 嘘の餌を撒くババア
「問題は……」
ババアは指を組んだ。
「うちの中にも、ネズミがいること」
「反王室派と繋がってる連中が、内部に何匹か紛れ込んでる」
部下が息を呑む。
「既に……目星は?」
「ええ、だいたいね」
ババアは楽しそうに笑った。
「だから、こっちから“嘘の情報”を流すわ」
「魅力的で、逃せなくて、でも致命的なやつを」
「……それに食いついたら?」
「一網打尽よ」
冷たい声で、楽しげに。
「ゴキブリとネズミ、まとめて駆除」
「まったく……」
「平和ってのは、掃除が大事なのよ」
■ 再び領都・隊長たち
その頃、領都では。
「……なぁ」
近衛隊長が言った。
「このまま何もしないのも、逆に疲れんな」
「同感だ」
「早く遊技場、出来ねぇかな……」
「まったくだ」
二人は同時に空を見上げた。
「……あのちっこいの、今頃何してると思う?」
「どうせ、仕事だろ」
二人は顔を見合わせ、同時に苦笑した。
「やれやれ……」
平和な領都と、きな臭い王都。
休みを持て余す隊長たちと、動き出す陰謀。
――嵐の前触れは、
いつもこんな、のんびりした一日から始まるのだった。




