空を見上げるロットと静かに拡大する“何か”
ロットは今日も工房の外に出て、空を見上げていた。
「……まったく、とんでもない領地になったもんじゃ」
青空はどこまでも澄んでいて、雲はのんびりと流れている。だが、ロットの頭の中はまったくの逆だった。
シフト制。
学校兼・託児所。
そして――
ゴルフ、ボウリング、ピンボール、将棋、ブランコ等
「……休むために、ここまで考える領主など聞いたことがないわい」
普通、領主と言えば「働け」「増やせ」「稼げ」だ。それがどうだ。
「休め」「遊べ」「子供を預けろ」だと?
ロットは苦笑しながらも、ふっと鼻を鳴らした。
「これも……あのババアに報告せにゃならん案件じゃな」
世界商品登録機構。
あの口うるさくも鋭い総責任者――
アグライアの顔が脳裏に浮かぶ。
「聞いたら、また頭抱えるじゃろうな。フォフォフォ」
◆ 申請の山
ロットは手元の書類に視線を落とした。
そこにはずらりと並ぶ、新商品の一覧。
・各種娯楽用具一式
・教育用教材(版画)
・大人も含め子供向け遊具群
「……これほどの種類を一気に申請するのは初めてじゃ」
既存に似た物があるかもしれん。
だが、“念のため”が通用しない世界 だということも、ロットは知っている。
「全部まとめて登録じゃ。後で揉めるより、先に潰す」
そう言って、申請書をどさりとまとめた。
「フォフォ……また仕事が増えるのぉ」
笑ってはいるが、目は真剣だった。
◆ メイヤの次の悩み
その頃、メイヤは執務室で腕を組んで唸っていた。
「……これでいいのかしら?」
休みは確保した。
子供の居場所も作った。
お父さんの“居場所問題”には娯楽で対処中。
でも――
「お母さんとか、若い人は?」
食堂はある。
でも、食堂はあくまで「食べる場所」だ。
「おしゃべりして、のんびりして……」
メイヤは指をパチンと鳴らした。
「……喫茶店?」
一瞬考えて、首を振る。
「違うわね。もっとこう……カフェってやつ!」
言葉にした瞬間、しっくりきた。
「飲み物があって、甘い物があって、ゆっくりできる場所」
仕事の合間。
休みの日。
子供を預けた後。
「……これ、絶対需要あるわ」
メイヤは即決した。
「よし、アイディアとしてお父様に提案しましょう!」
――もちろん、“小規模から”“無理のない範囲で”と、念を押すつもりではあった。
(※結果どうなるかは、また別の話)
◆ 最後の領民、そして異変
そんな中――
ついに最後の領民団が領地へ到着した。
領主が前に立ち、いつものように説明を始める。
「これより、住居と職場の案内を行う――」
だが、その中に――
見慣れぬ服装の一団がいた。
統一された外套。
無駄のない動き。
明らかに“普通の領民”ではない。
「……?」
ざわつく場。
領主は一拍置いて、はっきりと言った。
「今回、新たに――世界商品開発機構より、出向人員が派遣される」
ざわっ!!
「人数は数十名規模。当領地に、支店機能を設ける」
「な……!?」
その言葉に、一番固まったのはメイヤだった。
「……え?」
支店?
ここに?うちに?
「……え、そんなに重要視されてるの!?……いや、違うわね」
メイヤは悟った。
「……私か」
領地ではなく。
土地でもなく。
“メイヤ”という存在そのもの が。
遠くでロットが空を見上げながら呟く。
「……こりゃあ、本当に目が離せんわい」
領地は、静かに。しかし確実に――
ただの地方領から、世界の注目点へと変わり始めていた。
(本人は、まだカフェのことを考えているが)




