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階段から転落して思い出しました!89歳まで生きた私、今度の人生は異世界で半島領の次女です  作者:


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領主館・執務室

「よしっ……これで一通り、領内の自給自足体制は整ったはず!」


机に広げた地図の上には、畑、牧草地、窯場、工房群、さらに新しく建設された家畜舎予定地のマーカーが並ぶ。

私は椅子にもたれ、両腕を大きく伸ばした。


ふぅ……長かった。本当に長かった。

転生(?)したからって、まさか前世より働くとは思わなかった。


「でも、これで少しはのんびり出来るかも……?」


そう呟いた瞬間、自分の胸の中に小さなモヤモヤが生まれた。


――この後、私は何をすればいいんだろう。


ここ数ヶ月は、息つく間もなく領地改革をしてきた。

製紙、鉛筆、農地開拓、窯、牧場、木工、土木……。思いつけば即実践して、気づけば部署が増え、村が増え、仕事も増えた。


「これ以上、新しい大規模事業をする余力は……さすがにないわよね」


私はぼんやりと、机に転がった一本の鉛筆をつまむ。


クルクル……クルクル……


ふと、指が止まった。


ん……?


鉛筆……?


「……そうだわ。」


私は勢いよく身を起こした。


「色鉛筆ってどうかしら?」


鉛筆工場はすでに回っている。作業員も慣れて、品質も安定してきた。


なら、後は――色の芯さえ作れればいい。


「地図の版画みたいな鮮やかな色……あれどうやって作ってるのかしら?」


ロットさんなら分かるかもしれない。いや、版画の顔料は彼が扱っているし、詳しいだろう。

けれど――。


「……いや待てよ。私が口を出したら、また仕事が増える気しかしないわね?」


せっかく一段落したのに、これ以上自分が首を突っ込んだら、休暇が永久に消滅しそう。


「そうだ。錬金術師さんの出番じゃない?」


錬金術師なら、顔料の抽出や精製は専門分野……のはず?

この世界の錬金術がどこまで化学寄りかは知らないけど、“色の粉”くらいならいけるだろう。


「ま、任せてしまえばいいのよ! 私はアイディアを渡すだけ!」


私は足取り軽く執務室を出た。



錬金工房は、第二陣として来てくれた人々が整えたばかりで、まだ新しい木の匂いがする。

工房の奥では、青髪の小柄な女性が薬瓶のラベルを整理していた。


ブルー――元・王都錬金術ギルド所属。

第二陣の職人・専門家の中でもひときわ異彩を放つ人物だ。


「ブルーさーん、ちょっといい?」


「! メ、メイヤ様!? 来訪は心臓に悪いです……」


ブルーがびくっと震える。相変わらず反応が可愛い。


「紹介したい人がいるの。入ってきてー!」


私の声に反応して、ドアの向こうから重い足音が聞こえた。


「ほれ、入ればええんじゃろ。失礼するぞい」


入ってきたのは、木工師のロット。

無造作に伸びた髭と巨大な腕、けれど目は穏やかで仕事に真面目。

そのギャップが人気のベテラン職人だ。


「こちらがロットさん。木工と版画を担当してくれてる職人さんよ。そしてこっちが錬金術師のブルーさん」


「よ、よろしくお願いします……!」


ブルーが緊張で固くなる。

対するロットは「フォフォ」と笑い、肩を軽く叩いた。


「錬金術師か。噂は聞いとる」


「は、はい…………!」


うん、いい雰囲気だ。


さて、と私は二人の間に入り、声を整えて言った。


「今日は二人に共同でお願いしたいことがあるの。色鉛筆の開発よ!」


ロットとブルーが同時に瞬きをした。


「色……鉛筆、ですか?」


ブルーが恐る恐る問う。


「そう。鉛筆を作る技術はあるのだから、後は“色の芯”さえ作れればいいのよね。版画に使ってる鮮やかな色を参考にね」


ロットが腕を組んだ。


「版画の色は植物性顔料と鉱石顔料を混ぜとる。安定はしとるが、鉛筆に向くかどうかは分からんの」


「そこで、錬金術師の出番ってわけ!」


ブルーが少しだけ胸を張る。


「なるほど……顔料の精製と粒子調整ですね。場合によっては結合剤の研究も……うん、出来るかもしれません」


「流石ね!」


私はさらに具体的な条件を付け加えた。


「ただし、いくつか条件があるの。まず――黒鉛筆一本を作るコストの、2倍から3倍以内で一本の色鉛筆を作ること。“なるべく”って条件付きだけどね」


ロットが「うむ、妥当じゃな」と頷き、ブルーは真剣な表情でメモを取っている。


「それと、ブルーさんには黒鉛筆の作り方を全部見せてあげて。材料の調合も、工場の流れも」


「分かったわい。案内する」


「は……はい! 勉強します!」


二人の目がキラリと輝いた。


――やる気満々。

これは期待できる。


「じゃ、あとは任せたわ! 私は少し休むから!」


私が満足げに工房を後にしながら思ったこと。


(……結局、仕事を増やしてる気がするんだけど? 気のせいよね?)


いや、気のせいじゃないと思う。

でもまあ、色鉛筆が出来たら可愛いし、便利だし、売れるし、綺麗だし。


それでいいのよ。うん。


「ま、いっか。頑張れー!」


私は軽やかに手を振り、工房を後にした。


――色鉛筆開発計画、ここに始動。


領地の進化は、まだまだ止まらない。

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