ゴアゴア紙、誕生! 領主、再び驚愕する
数日後。
領主館の工房には、粗削りな木枠、すり潰された繊維の入った桶、そして乾燥中の茶色い紙のシートが何枚も並んでいた。
「で、できましたぁ……!」
ミュネが汗だくになりながら、乾きたての一枚をそっと両手で掲げる。
厚みはまちまち、表面はざらつき、“ゴアゴア紙”という名がぴったりだ。しかしその正体は――まぎれもなく“紙”だった。
「……本当に、書けるのか?」
木工師の男が半信半疑に問いかける。
「もちろん! 鉛筆でなら、たぶん大丈夫!」
メイヤは胸を張って、試作鉛筆を紙の上に走らせた。
黒い線が、確かに、はっきりと残る。
「「…………!」」
ミュネと木工師は息を呑んだ。
幼い少女が次々と“この世界にないもの”を作り出す光景に、もはや慣れる暇さえない。
◆
「な、なんと……これは紙ではないか!」
領主――メイヤの父は完成品を目にした瞬間、目を見開いた。
手にとって、光に透かし、指でこすり……。
「茶色い……いや、粗い……だが、紙だ!! 我が領内で、こんなものが……」
その驚愕ぶりは、鉛筆の時と同じ。いや、それ以上かもしれない。
「これも、原料次第で質を上げられると思います。ただ……白くするのはもう少し後で」
メイヤが説明すると、父はこめかみを押さえた。
「また商人を呼ぶ必要があるな……よし、すぐに呼べ!」
◆
数時間後。
前回の“鉛筆騒動”を経験した商人ロウガ
が、またも呼び出された。
「り、領主様!? 今度は何が……って、これは……ま、まさか紙……? 本物ですか!?」
ロウガは膝が笑うほど衝撃を受け、紙を手に取って震える。
「粗い。確かに粗いが……紙というだけで価値がある。まさか領内産とは……!」
「原料は?」
「こちらです」
「製法は?」
「こちらも、ミュネと木工師が立ち会っています」
領主の指示で執事ガルドも呼ばれ、原価計算が始まった。
◆
「……ふむ。ざっくり算出すると、原料は安い。加工も難しくない。ただし品質を上げるなら追加工程が必要……」
ガルドが冷静にまとめていく。
「では、方向性は二つですね」
ロウガが指を二本立てて言う。
「ひとつ、高品質で高級紙を目指す道」
「ふたつ、このまま安い原料で大量生産し、低価格で領内外へばら撒く道」
場に重い空気が落ちる。
父は悩み、ロウガもガルドもミュネも木工師も、それぞれに考え込む。
紙は高価すぎて庶民は使えず、学術院ですら節約するほどの貴重品。
この選択は、領地の未来を左右しかねない。
そんな中――
「私は、たくさんの人が使える紙がいいと思います」
メイヤがはっきりと言い切った。
「白くなくてもいい。ゴアゴアしててもいい。誰でも手に入る紙のほうが、きっと広まるし……みんなが文字を覚える機会も増えるから!」
静まり返った室内に、幼い声が響く。
父は一瞬驚いた顔をしたが……すぐに柔らかく微笑み、頷いた。
「――薄利多売の、普及品路線だな」
「はいっ!」
「……決まりだ。メイヤ、またお前にやられたよ。領地の産業がどんどん増えていくな」
父は豪快に笑い、執事ガルドも珍しく口元を緩めた。
こうして、
鉛筆に続く第二の新産業――“ゴアゴア紙”生産計画が本格的に動き出すことになる。




