挿し木革命と動き出す街づくり
挿し木の大成功から数日。
学術員さんたちは、まるで新しい玩具を手に入れた子どもみたいに、あっちこっちの苗木に群がっていた。
「次はこの木で試してみよう!」
「いや、あっちの方が発根しやすいはずだ!」
「どれでもいいが、根っこが出てから騒げぇ!」と、わけのわからない掛け声が飛び交う。
彼らは森からサンプルを採ってきては、切って、削って、挿して、時には土を混ぜ替えては「この配合は神の域に至った」とか言っている。
……とにかく楽しそうだ。
もちろん、楽しんでいるだけではない。
挿し木技術が確立すれば、木材という資源を守れる。
木は建材、道具、燃料、紙――どれも生活に欠かせない。
それらが“自然の森任せ”ではなく“人工的に再生産できる”ようになるのだから、革命と言ってもいい。
「種から育てると年単位でかかるし、森から若木を掘り出すと根を痛めるし……これは大きいよねぇ」
メイヤは成功した挿し木の列を眺めながら頷いた。
一方、村の中では――
■建築ラッシュ、加速
アパートタイプの建物が、ものすごい勢いで増えていた。
「はい次、梁いくぞー!」「おら、新人! 釘持ってこい!」
「ちょ、休憩……あ、いや完成が見えてきたからもう一息だ!」
活気と木槌の音が村中に響く。
既に数棟が完成していて、日雇い労働者たちが続々と入居を始めていた。
仕事終わりの大工たちは、完成したての建物に寝泊まりして体を休め、
翌朝には“完全回復したモンスター”のように元気になって建築速度をさらに上げていく。
「なんか……人間ってこんなに連続で働けたっけ……?」
メイヤは少し引き気味でつぶやいた。
しかし、このペースなら領主家が予定している“受け入れ計画”にもギリギリ間に合いそうだ。
彼女は胸をなで下ろした。
「アパート群が終われば、次は工場だね……紙、木工、金属……うわぁ、まだまだある……」
書類を見ながら肩を落とすメイヤの後ろで、父である領主が声を上げた。
■領主、口をぽかんと開ける
「おい……メイヤ……これ……なんだ……?」
いつになく真剣な顔。
手にしているのは、世界商品登録機構からの定期報告書――と、その付随書類。
それには太い文字で、こう記されていた。
『入金:〇〇〇〇〇〇金貨』
ゼロが、桁が、目に優しくない。
「……え、うち破産した?」
「逆だ! 破産どころか……これは……」
領主は震える指先で報告書をめくった。
「……メイヤの登録した“鉛筆”“ゴアゴア紙”“改良型農具”その他諸々の特許料が……一括で……」
世界商品登録機構は、特許管理だけでなく銀行業務も行っている。
つまり新商品が売れれば、各メーカーが支払った利用料がまとめて振り込まれる。
「でも、こんな額、どこから……?」
「世界中だ。王都の文官も商会も、さらには外国の商団までもがメイヤの発明品を使い始めている。鉛筆の登録数……四桁だぞ。馬鹿な。そんなに売れておるのか……!」
領主はその場で椅子に座り込んだ。
「メイヤ……これ、領地の税収数十年分に匹敵する……」
「いや、知らないうちにそんな大金もらっても困るんだけど……」
「困らん! むしろ歓迎だ! 工場を建て、街を広げ、道を整える資金が揃ったのだぞ!」
領主は半ば笑いながらメイヤの手を握った。
「お前は天才だ! いや……もはや領地の化け物だ!!」
「褒めてるのかそれ……?」
本人は複雑だったが、領主の喜びようは本物だった。
■噂が王都へ
その頃、離れた王都では、別の意味で騒ぎが起きていた。
「この領地……登録特許からの入金額が異常に多くないか……?」
「どこの侯爵家だ? こんな化け物みたいな金額……」
「少女一人が色々作ったらしいぞ。名前は……えぇと、メイヤとかいう……」
王宮の役人たちがざわつく。
そして女王陛下は微笑んだ。
「面白いわね。あの領地……また何か仕掛けてきそうね」
ふと風が運んできた報告書を手にしたババア――例の切れ者の婆は眉をひそめる。
「ほらね。不穏分子がざわつき始めた。金の流れが変われば、必ず動くやつらがいる……
アンタら、目ぇ離すんじゃないよ。メイヤちゃんの領地が狙われるよ」
世界が少しずつ動き始めていた。
その中心に――メイヤがいることを、本人だけがいまいち理解していなかった。




