揺れる王都、動き出す闇。そして芽吹く“未来”
その日、王都では朝からざわめきが途切れなかった。
王室が正式に発布したのだ。
『度量衡の統一』
王都から世界中へ、全国民へと向けて。
商人だけではない。農民、工房、兵士、役人……誰もがこの知らせに息を呑んだ。
「ついに……!」
「王室が、統一を……!」
「これで量をごまかされない!」
「俺たちが損をしなくて済む!」
意味を理解した民たちは、歓喜を隠せなかった。
これまで樽の大きさ、升の深さ、秤の重り——
領地ごと、店ごとにバラバラで、誤魔化そうと思えばいくらでも誤魔化せた。
それが一気に固定される。
国が、正式に管理する。
当然――
導入した商人や店には客が集まった。
「ここは王室式の升を使ってるから安心だ」
「この店、ちゃんと統一秤に変えたってよ」
導入しない商人や店舗は、
見る見るうちに客足が遠のいていく。
その姿を、路地裏から睨みつける影もあった。
「……チッ」
「余計なことを……」
「王室も、あのババアも……!」
快く思わない連中は、まだ抵抗していた。
裏で繋がる大商人、貴族、そして……
特に黒い噂のあるガリオン領主の取り巻きたち。
だが——
王都の奥深く。
世界商品登録機構・総責任者室。
バサッ、と書類を投げ置きながら、
アグライア=ホルンベルグは豪快に笑った。
「さーて……これで不穏分子が動き出すわよ」
窓に映る王都の街並みを鋭く見つめる。
「どこの誰が文句を言うか、全部炙り出される。私の可愛い子たちが、せっせと証拠を持って来てくれるでしょうよ」
“可愛い子たち”というのは、
もちろん各商社に潜り込ませている情報員のことだ。
「抜け駆けもしようとするでしょうし、邪魔もしようとするでしょうし……」
唇の端が吊り上がる。
「ぜ〜んぶ、阻止してやるわ」
ババアは完全に“戦闘態勢”だった。
⸻
その頃――メイヤの領地。
学術の観察小屋が、朝から騒がしかった。
「おい! おいおい!!」
「これを見てくれ!!」
「な、なんだ!?まだ朝一だぞ!?」
若手学術員が、紐で縛ったゴアゴア紙の束を抱えて走り込んできた。
「見て!! 根が!!」
「……は?」
紙を解く。
油を染み込ませたゴアゴア紙がはらりと落ち、
その中に巻かれた“乾燥ゴケ”が露わになった。
学術員全員が息を呑む。
「……こ、これは……!」
皮を剥いた部分から――
白い根が、数本。しっかりと伸びていた。
「出てる……!!」
「ほんとに根が……!?」
「“挿し木”……成功だ!!」
観察小屋は一気に歓声で満ちた。
報告を受けたメイヤは、駆けつけるなり目を輝かせた。
「成功したのね!」
「は、はい!!観察開始から三週間目に……!」
「こんなに早いなんて……!」
「根の状態もとても健康です!湿度保持、雑菌防止……理論通りに進んでます!」
興奮した学術員たちは、次々に説明を始めた。
「これ……量産できますよ!」
「本数が数倍、数十倍になる可能性が!」
「クリクリも、もももも、ミミカ――
一気に“産業”になるかもしれませんよ!!」
メイヤは頷きつつ、静かに息を整える。
この成功が何を意味するか、
彼女は誰よりも理解していた。
……これで、うちの領地の“未来”が変わる
クリクリの実は加工次第で保存食にも菓子にもなる。
ももも、ミミカは果実酒、乾燥果、薬効研究の余地もある。
そして何より——
「特産を、確立できる」
メイヤの言葉に、学術員たちはさらに色めき立つ。
「すぐ次の挿し木も準備します!」
「成功率を統計化したいです!」
「どの種類が向いているか……!」
全員が一斉に動き出した。
まさに“学術が大騒ぎ”だった。
⸻
王都と地方。
静かに、しかし確実に動く大きな波。
王都ではルール統一の反発が渦巻き、
不穏分子がちらつき始めている。
その一方でメイヤの領地では、
クリクリともももの増産体制が始まり、
新たな特産産業の幕が上がろうとしていた。
そして――
王都のババアは、
その動きを既に把握していた。
「ふふ……あの嬢ちゃん、また面白い事をしてるわね」
彼女は書類を閉じた。
「本格的に動くわよ……世界が変わり始めた。
なら、私たちも変えるだけ」
アグライアの瞳が静かに光る。
「動くなら今よ。
守るべきものは守る。
潰すべき奴は――全部潰す」
王都と地方。
闇と光。
知恵と力。
それらが混ざり合い、
新しい時代がゆっくりと形を作り始めていた。




