クリクリとモモモにミミカと増える希望
メイヤは机いっぱいに広げた領内地図を、じーっと睨みつけていた。
「……ふむふむ……」
指先でなぞるのは、領地北東部の森沿い。
「うちの領内に、クリクリの木、モモモ、ミミカの木があるのね……」
感心したように、ほう、と息を吐く。
「流石、学術の方々。こんな細かいところまで、ちゃんと調べてるじゃない」
地図の片隅には、きっちりと種類と本数まで記されている。
「……名前からして、もう“あれ”よね」
クリクリ。
モモモ。
ミミカ。
どう考えても、前世の栗とみかん、桃の仲間だ。
「うーん……でも本数が少ないわね……」
クリクリ、ももも、ミミカも数十本は欲しいわね。
「これじゃあ量産はまだまだ先……もう少し、木の本数が欲しいところよね……」
メイヤは、ふと顔を上げる。
「……よし」
ミュネの方を見る。
「ミュネ。学術の方々と一緒に、実物を見に行きましょう」
「は、はい!」
⸻
森に入ると、学術員たちは目の色が変わった。
「おお……!これは確かに、記録通りだ……!」
一人が、いかにも研究者らしい仕草で葉を観察する。
「こちらが“クリクリ”……実の形状、殻の硬さ……これは完全に……」
「ええ、“あれ”よね」
メイヤが即答した。
続いて、少し離れた場所。
「そして……こっちが“ももも”に“ミミカ“か!」
枝ぶり、葉の形、まだ小さいが膨らみ始めた蕾。
「うん。やっぱりこれも“あれ”だわ」
学術員たちはざわついた。
「“あれ”……とは?どの“あれ”でしょうか……」
「そのうち分かるわ」
メイヤは、にこやかに誤魔化した。
しかし、次の瞬間。
「……問題はここからよね」
メイヤは腕を組む。
「実がなるまで待って、種から増やすと……
最低でも数年かかる」
「……ですね」
学術員も重く頷く。
「でも――」
メイヤは、ぱっと顔を上げた。
「挿し木で増やせば、種子よりずっと早いわ」
「えっ?」
「枝を使って、直接“増やす”の」
学術員たちが息を呑む。
「うまくいけば……数週間で“根”を出させられる」
「な、何ですと……!」
「そんな手法が……!」
ミュネも目を丸くしていた。
「そ、そんなことが出来るんですか!?」
「出来るわ」
メイヤは自信満々だった。
「問題は……環境なのよね」
彼女は空を見上げた。
(本当は“ビニール”が欲しいところだけど……
そんな便利なもの、この世界には無いし)
そこで――
「代用品なら、あるじゃない」
メイヤは、にやりと笑った。
「ゴアゴア紙よ」
「!!」
「油をたっぷり染み込ませれば、防水・保湿が出来る」
学術員たちの目が輝き始める。
「なるほど……!」
「紙を……!?」
そして、即席実演が始まった。
まず、健康そうな枝を一本選ぶ。
「ここ……皮を、少しだけ剥くわ」
ナイフで、くるりと一周。
「ここから、根を生やさせるの」
「ほう……」
次に、用意されたのは――
「熱湯で殺菌した乾燥ゴケよ」
「殺菌……!」
「雑菌が多いと、全部腐るからね」
ゴケにたっぷり水を含ませ、皮を剥いた部分に巻き付ける。
「ここを――」
さらにその上から。
「ゴアゴア紙を巻いて」
じゅわっと、油が滲む。
「上下を、紐でぎゅっと縛る!」
きゅっ、きゅっと結ぶ。
「これで完成」
学術員たちは、しばし沈黙。
そして――
「お、おおおお……!」
「理屈が、すべて通っている……!」
「湿度・防腐・遮光……完璧です!」
メイヤは胸を張った。
「そうすれば――」
指先で包まれた枝を示す。
「数週間後には、ここから“根”が出るはず」
「……!」
「出たら切り離して、別の場所へ植える。
そうやって増やしていくのよ」
学術員の一人が、興奮気味に言った。
「こ、これは……樹木の“量産化”ではありませんか……!」
「そういうこと」
メイヤは、静かに微笑んだ。
「クリクリも、モモモ、ミミカも……
“特産品”に化けるわよ」
ミュネはごくりと唾を飲み込んだ。
「……また、とんでもない事を……」
「まだ“計画段階”よ」
メイヤは肩をすくめる。
「まずは――ここは学術員さんたちに、観察してもらうわ」
「お任せください!!」
「昼夜交代で記録します!!」
「そこまでは笑!2、3日に1回でいいわ!異変があれば即報告を!!」
やる気に満ちた声が森に響いた。
メイヤは、そっと包んだ枝を見つめる。
「……ここからまた、増えるのよ」
クリクリも。
モモモ。
ミミカ。
そして――この領地の“未来”も、ね
風が、若い枝葉を静かに揺らした。




