クロスボウ訓練と、うっかりスカウト事件
「はーい!深呼吸してー!ゆっくりだ!落ち着けば大丈夫!」
機構軍隊長のやたら通る声が、草原に響く。
「ここだって思ったら撃て!!」
――ばしゅーっ!!
「おっ!当たった!!」
木製の的に、矢がしっかりと突き刺さる。
「その要領だ!今度は真ん中に当たるようにな!!」
訓練場の一角。
そこでは――
なぜか学生たちがクロスボウ訓練を受けていた。
■ そこへ現れた、近衛隊長
「……機構隊長さんや?」
腕を組んだ近衛隊長ラウフェンが、呆れ顔で声をかける。
「何をしとるんじゃ?」
「見りゃ分かるでしょ?」
機構隊長は、軽く手を振った。
「学生さんにクロスボウ教えてんの」
「リディアちゃんに頼まれたのよ」
「リディア?」
「そ。俺らが訓練してるところに、ひょこっと現れてさ」
――回想。
『どうせなら、わたしたちも一緒にやってみたいです!』
目をキラキラさせて言われ、断れる男など、この世に存在しない。
「で、気がついたらこうなってた」
「……なるほど、完全に押し切られたわけじゃな」
■ 近衛隊長、真顔の疑問
ラウフェンは、学生たちを見渡す。
的に向かって、真剣な顔で構える少年少女。
「……いやしかしだな」
「?」
「武器を、こんな子供たちに扱わせてよいのか?」
「え? いいでしょ?」
即答だった。
「姿勢と集中力の訓練にもなる」
「……そこか?」
■ その時、才能が現れる
「おっ!君、上手いね!!」
機構隊長が声を上げた。
的の真ん中に――
ほぼど真ん中に矢を突き立てたのは、小柄な少女。
「名前は?」
「……ミリアです」
「へぇ〜!大人になったら世界商品登録機構を受けてみな!各領地を回って仕事できるぞー!」
■ 近衛隊長、ブチ切れ寸前
「お前ぇぇぇぇぇぇ!!!!」
ラウフェンの怒号が訓練場に轟いた。
「人材確保を今から始めるなぁぁぁ!!」
「いやいや!ちげーよ!!」
「何が違う!!」
「俺、別に“勧誘”とかしてねーし!!」
「今のがスカウトでなくて何じゃ!!」
■ 子供たちの反応が、さらに地獄
すると、別の少年が無邪気に言った。
「ねぇねぇ、機構って各領地に遊びに行けるの?」
「まぁ……仕事だけどな」
「近衛より楽しい?」
「……王様の相手や貴族を相手なんて疲れるぜ?」
「え、じゃあ将来そっち行こーかな!」
「おま!!」
ラウフェンが機構隊長の胸ぐらを掴みかける。
「近衛の志願者を今この場で減らす気か貴様ぁぁ!!」
「いやだから、ちげーって!!」
■ 機構隊長、ついに本音を漏らす
「だいたいさぁ……」
機構隊長はため息をついた。
「嬢ちゃんの作った飯を食って、この領地の様子を見て、この子らの目の輝きを見たらよ……」
「……?」
「将来、ここ発信で世界が変わるって、嫌でも分かっちまうだろ」
ラウフェンは、少しだけ黙った。
「それは……否定できんが……」
■ 結論:訓練は続行
「とりあえず」
機構隊長はパンパンと手を叩いた。
「今日は“遊び”の延長でいいだろ?」
「……まったく……」
「はいはい!次の人ー!!」
学生たちは嬉しそうに列を作る。
「的の真ん中なー!外したら罰ゲームで腕立てなー!」
「えええぇぇぇ!?」
笑い声と叫び声が、草原に響き渡った。
■ 遠くから見ていた人物
少し離れた場所から、その光景を見ていたメイヤがぽつり。
「……なんで学生がクロスボウ撃ってるの……?」
横にいたミュネが、目を逸らす。
「さぁ……最近、この領地では“よくある光景”ですので……」
メイヤは頭を抱えた。
「私の知らないところで、いろいろ進みすぎじゃない……?」
だがその顔は――
なぜか少し、嬉しそうだった。




