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階段から転落して思い出しました!89歳まで生きた私、今度の人生は異世界で半島領の次女です  作者:


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72/201

クロスボウという“答え”

鍛冶場でも工房でもない、

木工場の奥――。


木の匂いと油の匂いが混ざったその場所に、

木工師と近衛隊長は並んで立っていた。


作業台の上には、ずらりと並べられた――

完成品のクロスボウ。


「……どうじゃ?」


先に口を開いたのは木工師だった。


「中々良いな、このクロスボウ」


近衛隊長は一本を手に取り、

構え、引き、狙いの姿勢に入る。


「確かに……これは直接取りに行けと言われるのも納得だ」


カチリ、と機構が噛み合う音。


「これまでの弓とは、完全に別物だな」


木工師は、喉を鳴らして笑った。


「フォフォ……じゃろう?」


■ 戦術が変わる“道具”


近衛隊長は静かに言った。


「これが普及すれば……戦場の形そのものが変わる可能性がある」


「弓は“腕”が要るが、これは“訓練”でどうにかなる」


木工師は、木屑のついた手を布で拭う。


「その通りじゃ。“才能”ではなく、“数”で殴れる武器じゃな」


二人の視線が、無言で交錯した。


「……で?」


近衛隊長が聞く。


「400丁。どれくらいで揃いそうなのだ?」


木工師は、少しだけ視線を逸らした。


「そうじゃの……」


一拍。


「当面は、無理じゃな」


「………………」


空気が一気に重くなる。


「しかし、安心せい」


木工師は、ゆっくりと指を立てた。


「ここに来ておる30名ほどの近衛分は、すでに完成しとる」


「……ほう?」


「全部じゃ。すぐに持ち帰って、訓練に使え」


近衛隊長の目が、わずかに細くなる。


「……残りは?」


「さぁて、どうじゃろうな」


木工師は、わざとらしく首をかしげた。


「落ち着くまで、かな?フォフォフォ……」


■ 腹の探り合い


「……そういう魂胆か」


近衛隊長は、ため息混じりに笑う。


「嬢ちゃんの領地が、どこまで“拠点化”するか見極めたいってわけだな?」


「フォフォ……分かっておるではないか」


「なら、仕方ない」


近衛隊長は、クロスボウを肩に担いだ。


「完成するまで、待つとしよう」


「うむ。それでよい」


木工師は満足そうに頷いた。


■ 小型モデルの意味


近衛隊長は、作業台の隅に置かれた

一回り小さなクロスボウへと視線を移す。


「……こっちの小さいのは例の“子供用”ってやつか?」


「最初は、そうじゃな」


木工師は、少し目を細めた。


「だがの……機構隊長が、こっちを希望してな」


「……なに?」


「騎乗状態、森の中、高低差……取り回しは、大型よりも小型の方が圧倒的に良い……そう言っておったわ」


近衛隊長は、小型を手に取り、

素早く構え、振り回し、引く。


「……確かに」


「これなら、大人の力でも足を掛けずに、そのまま引ける」


「連射も速いな……」


近衛隊長は、低く呟いた。


「……戦術の違い、というやつか」


「成る程……」


木工師は、満足そうに笑った。


「フォフォフォ……お主は、若干“頭が硬い”ようじゃのぅ〜」


「……軍人だからな。柔らかすぎるのも困るがな」


■ そして、火種は広がっていく


その頃――


訓練場では、新たに届いたクロスボウを手にした近衛たちがざわついていた。


「……これ、マジで凄くないか?」


「弓より楽じゃねぇか?」


「これ、誰でも使えるぞ……?」


誰も気づいていなかった。


**“一つの木工品”が、

戦場の常識を書き換え始めている”**という事に。


■ そして、元凶は今日も平常運転


「ん? なんか今日、騒がしくない?」


納豆を混ぜながら、メイヤは首をかしげた。


「気のせいかな?」


領地の片隅で、静かに、だが確実に“軍事革命”が始まっている事など――


この時の彼女は、

まだ、知る由もなかった。

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