ババアが本気を出した日
その日、領主の執務室に――
馬の悲鳴と一緒に衝撃が走った。
「りょ、領主様ぁぁあああ!!世・界・商・品・登・録・機・構・よ・り!!総責任者アグライア=ホルンベルグ様名義の――早馬ですぅぅぅ!!」
「……嫌な予感しかしないな」
震える部下から、厳重な封蝋付きの封筒を受け取る領主。
開封した瞬間。
「……」
三秒、沈黙。
五秒、思考停止。
そして――
「……ずこぉぉぉぉぉぉぉッ!!!!!」
領主、机に額面ダイブ。
■ ババアからの“領民増殖”宣言
手紙の内容は、こうだった。
『領民募集の件、こっちで全部手配しといたわ
!身元? 保証するわよ、私がエドラン領経由で総勢およそ300名ほど送るわね
内訳は
・各種技術持ち
・農民
・職人
・ついでに雑用もできる子たち込み込み☆
あ、住居だけど
家族持ち用50棟くらい?単身用は30棟くらい?まだ増えそうだから足りなかったら、また建てといて? よろぴこ☆』
「……よろぴこじゃねぇぇぇぇ!!」
思わず領主、魂の叫び。
「300名!?50棟!?30棟!?合計80棟!?今空いてる家なんぞないぞ!」
「足りるわけあるかぁぁぁ!!」
紙を振り回しながら立ち上がる領主。
「建てろって言うのは簡単だ!!木材! 人手! 土地! 金!!全部有限なんだぞぉぉぉ!!」
しかし、手紙の最後の一文が、追撃。
『あ、費用の話だけど登録済み商品の今月分のロイヤリティから差し引いとくから☆』
「……」
領主、静かに椅子に座り直す。
「……」
「……金は……あるのか……?」
部下が小さく頷く。
「……あります……」
「……そうか……」
そして、天井を見上げる。
「完全に遊んでやがる……」
■ 同時刻、草原にて
一方その頃。
「――――ぶぁっくしゅん!!」
草原で昼寝していた機構軍隊長が、盛大なくしゃみをした。
「……誰か、今、俺の悪口言ったな」
そこへ、部下が走ってくる。
「た、隊長!!総責任者アグライア様からの早馬です!!」
「……あー……嫌な予感しかしねぇ……」
封を切る。
読み始める。
「……」
三秒後。
「……」
五秒後。
「……はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
深すぎる溜息。
■ ババアからの“戦場宣言”
『エドラン経由で約300名ほど、そっちに向かわせるわよ身元は全員、私が洗っといたから変なのはいないわ。たぶん
それとね?こっちは今、“ゴキブリ共(大手商人)”が嗅ぎ回ってるのでもまだ尻尾は掴めてない様子!ざまぁ!!とはいえ近いうちにバレると思うからその辺の準備、よろしくね☆
あ、死なない程度に頑張りなさい♡』
隊長、手紙を地面に叩きつけた。
「……たぶんって何だよ……たぶんって……」
部下が青ざめた顔で聞く。
「……ど、どうしますか……?」
隊長は、遠くの空を見ながら言った。
「……どうするも何も」
「戦力が300増えるって話だ」
「ただし――」
視線が鋭くなる。
「同時に、敵も嗅ぎつけるって事だ」
「……あのババア……完全にこの状況、楽しんでやがる……」
■ そして領地では
その頃、当の本人――
「えっ……300人?」
メイヤは、ミュネから聞いた数字を、普通に三回聞き返した。
「……300……?」
「……はい……300……」
「……村じゃなくて、小都市じゃないそれ……」
遠くで、建設中の宿舎群。
「……確実に……家が先に足りなくなるわね」
メイヤは、なぜかワクワクしていた。
「……よし」
「作るか。全部」
遠く離れた場所で、
領主は頭を抱え、
隊長は胃を押さえ、
アグライアは紅茶を飲みながら楽しんでいる。
こうして――
この領地は、ついに
“ただの辺境”から、“戦略拠点”へと進化し始めた。
誰のせいか?
――もちろん、全部メイヤである。




