人が来る、波が来る
「おーい!! 領主ーっ!!」
朝の執務室に、勢いだけで突入してくる男が一人。
言わずと知れた商人ロウガである。
「……なんだ、その扉はノックという文化を忘れたのか?」
「そんなもん今はどうでもいい!! 吉報だ!!」
「吉報?」
ロウガは、胸を張って言い放った。
「第二陣の労働者が到着したぞ!!」
「……なに?」
「それだけじゃねぇ!第・三・陣!!料理経験者の労働者を二十名、追加募集かけといた!!」
領主の手から、書類がぽろりと落ちた。
「……料理、経験者……?」
「おう。どう考えても必要になるだろ?」
「……それは……」
「それとだな――」
ロウガは、懐から一枚の紙を取り出し、机に叩きつけた。
「支払いはこれだけだ!!もう全部まとめて話つけてきた!!」
「なっ!!!!」
領主の声が裏返る。
「こ、これは……!」
「遠慮すんな。今やらなきゃ意味がないんだよ」
「新商品を量産しろ!売って、回して、金にしろ!!」
ロウガは、にやりと笑った。
「今は“仕込みの時間”だ」
■ 外では、すでに「人の波」
その頃、屋敷の外では――
「うお……人、多っ……」
メイヤは思わず声を漏らしていた。
続々と入ってくる労働者たち。
肩幅が広く、腕が太く、いかにも“現場”の人間ばかり。
「……第二陣って言ってたけど……」
数だけでも、明らかに一気に増えた。
すでに建設中だった宿舎も、完成に近づいている。
「……宿舎、ほとんど建ってきてるわね」
ミュネが感心した声を出す。
「人手が増えると、進み方が全然違うんですね……」
「ほんとよ……」
メイヤは頷いた。
「これで、近衛も機構の人も寝床は確保できたわ」
実際、これまでは――
近衛も、機構軍も、かなり無理をして仮設寝泊まりしていた。
「……あとは、学術隊の人たちの分か」
メイヤは少し考える。
「でも、ここが終わったら――」
視線の先には、これから予定されている土地。
「各種の食品製造工場ね」
味噌工場。
醤油工場。
乾燥加工場。
発酵室。
米の精米・加工施設。
(……書き出してみると、頭おかしい数ね)
「……また人手不足になりそうだけど……」
ミュネが不安げに言う。
メイヤは、少し考えてから微笑んだ。
「大丈夫よ」
「もう“他人事の領地”じゃなくなってるもの」
「みんなで作って、みんなで回す領地になってきてる」
■ 領主、胃が痛い
執務室に戻ると、領主はまだロウガの請求書を見つめていた。
「……額が……額が……」
「おいおい、そんな顔するな」
ロウガは肩をすくめる。
「人が来たって事は、回るって事だ」
「作る、売る、増える。簡単な話だろ?」
「……それが簡単にできぬから……」
「できるんだよ。今はな」
ロウガは、窓の外――活気づき始めた現場を指差した。
「嬢ちゃんが作った“種”が、もう芽を出してる」
「今、畑を耕さずにどうする?」
領主は、しばらく黙り――
ゆっくりと、頷いた。
「……わかった」
「賭けよう」
「この領地の未来に」
ロウガは、満足そうに笑った。
■ その夜、メイヤは思う
夜。
宿舎の明かりが増え、
食堂の灯りも、いつもより多い。
人の声。
笑い声。
食器の音。
「……本当に、人が増えたなぁ……」
メイヤは、少しだけ不思議な気分で夜空を見上げた。
(和食を作りたかっただけだったのに……)
(いつの間にか……)
「……領地ごと、動かし始めちゃってるわね」
だが、不思議と――怖くはなかった。
「……ま、やるしかないか!」
宿舎も建った。
人も増えた。
設備も揃い始めた。
あとは――
作って、回して、売るだけ。
だが、メイヤはまだ知らない。
この“人の波”が、
やがてもっと大きな波を呼ぶことを――。




