紙づくり大作戦!幼女の自由研究、再び動き出す
鉛筆工房が仮稼働して三日。
フェルナード領では無理のない範囲で、少人数による生産が続けられていた。
「今日の出来はどうじゃ、メイア様」
木工師ロット老人が、削り終えた一本の鉛筆を掲げる。
「わあ……形が綺麗! 芯も折れてないし書き心地も良いです!」
ミュネも嬉しそうにメイアの隣で頷いた。
「最初の頃より、ずいぶん数が安定しましたね。怪我人も疲れすぎた人もいませんし、ペースはこれくらいで良いと思います」
ガルド執事は帳簿を閉じると、静かに言った。
「今は在庫を貯めることが最優先です。商品の品質を保ちつつ、無茶な増産は避けましょう」
「はい!」
メイアは元気よく返事をした。
鉛筆がある程度そろってきた今、次に必要なのは――
(紙……紙だわ!)
鉛筆があっても、書くものが無ければ意味がない。
領主館にある紙は、どれも白くなめらかで高級品。庶民どころか、領主家ですら滅多に使わない。
(真っ白じゃなくていい。茶色くてもいい。前に作った、あの手作り紙みたいなので十分!)
前世の夏休み。
孫と一緒に自由研究で紙を作ったことが、ふと蘇る。
水に浸した繊維クズを細かくして、すくって、干して……
あの程度なら、この世界でも絶対できる!
⸻
「ミュネ、ロットさん。次は“紙”を作りたいんです!」
昼食後、勢いよくメイアが宣言すると、二人の大人は固まった。
「か、紙……ですか?」
「また難しいことを……」
ミュネはうっすら青ざめ、ロット老人は頭を掻く。
しかし、メイアは引かなかった。
「難しくありません! ただの“自由研究”です!」
「じ、自由研……?」
「えっと、子供でもできる実験のことです!」
そう説明し、メイアは必要な材料を挙げていく。
「まずは繊維になる植物。木の皮でも、古い麻袋でもいいです」
「麻袋なら倉庫に朽ちかけたのがあるはずだ」とロット老人。
「それを水でふやかして、叩いて細かくします」
「叩く……なら、木槌を作りましょう。子供でも扱える軽いものを」
ロット老人が頷く。
「それから、紙をすくう木枠! これもロットさんにお願いします!」
「任せなされ。網は……ミュネ、どこかに使い古しはないか?」
「あります! 台所に破れかけの漉し網が……!」
ミュネはメイアを見て、そっと微笑んだ。
「メイア様。やりましょう。私も、お手伝いします」
⸻
そして翌日、屋敷裏にある物干し場の横で“紙づくり実験”が始まった。
大きな桶に、刻んだ麻袋の破片が浸されている。
ミュネが棒でかき混ぜ、メイアはその横で真剣に見つめていた。
「ロットさん、木槌どうですか?」
「ここにあるぞい。軽くて丈夫にしておいた!」
渡された木槌は、幼女でも扱えるよう短く、丸い形に加工されていた。
「すごい! ありがとうございます!」
そこからは、ひたすら叩く作業だ。
メイアが気合いを入れて木槌を振るう。
ぺちっ……!
「……か、硬いです」
「メイア様、無理はなさらずに!」
すかさずミュネが飛んでくる。
結局、繊維を細かくする作業はロット老人とミュネが中心となった。
「よし、だいぶドロドロになったな」
「これを“紙の素”として、木枠ですくいます!」
ロット老人が作った木枠には、細かな網が張られている。
メイアは慎重に枠を桶に沈め、ゆっくりと持ち上げた。
水が滴り、薄く広がった繊維だけが網に残った。
「……できた! これです!」
「これが紙に……?」
ミュネは目を丸くする。
「今は水だらけですが、乾かしたら固まります。ここに干しましょう!」
メイアは物干し場に枠ごと吊るした。
夕日が差し込む中、薄い紙の原型が風に揺れる。
⸻
翌日――
「できてる!!」
枠から剥がしたそれは、茶色くてゴワゴワしているが、れっきとした“紙”だった。
「……本当に紙じゃな……」
ロット老人は感心したように触り、
「わ、わたし……こんなの初めて見ました!」
ミュネは震えた声を漏らした。
メイアは胸を張る。
「まだ粗いですが、書くには十分です!」
鉛筆で線を引くと、しっかりと跡がつく。
「これで、領地の文書の紙代が節約できますし、量産できたら商品にも!」
「……メイア様。本当に、どこからそんな発想が……」
ミュネは呆れと尊敬の入り混じった目を向けてくる。
「これも領地のためです!」
メイアは笑った。
鉛筆につづき、紙も手に入る。
フェルナード領に“文字を残せる文化”が芽生え始めていた。




