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階段から転落して思い出しました!89歳まで生きた私、今度の人生は異世界で半島領の次女です  作者:


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隊長、脱げと言う

領主とロウガ――

二人の商談を、少し離れた柱の影から聞いていた男が一人。


機構軍隊長である。


(……ロウガって商人、言ってる事は至極真っ当だな)


腕を組みながら、低く息を吐く。


(だが……ここの領主様、貧乏が骨まで染みついとる……“金を稼ぐ”って発想になると、途端に鈍る)


視線の先では、まだロウガに説教され続けている領主が、しょんぼりと肩を落としていた。


(……ありゃ、完全に畑仕事の感覚だな)


■ ロウガが売っている“もの”


(ロウガが今ここから売ってるのは……鉛筆と、紙。売り先は今のところ、隣の――エドラン領のみ)


以前、探りを入れた時のやり取りを思い出す。


『なんでガリオン領には売らない?』


そう聞いた時、ロウガは苦笑しながら言っていた。


『嬢ちゃんに言われたんだよ。“通るだけで金取られるなら、遠回りしてでもエドランだけに卸せ”ってな』


(……生産量から見ても、完全に“正解”だ)


(あの嬢ちゃん……感覚で動いてるようで……

 “物流”まで計算してやがる……?)


隊長は小さく笑った。


(本当に何者だよ……あの子は……)


■ そして“飯”は、もっと危険だった


(だが……)


視線を、会場に並ぶ料理へ移す。


味噌汁。焼き魚。煮物。糠漬け。納豆。白米。どぶろく。


(……この“食い物”は、もっとヤバい。物珍しさに貴族共は確実に飛びつく。しかも――すでに王都では、嬢ちゃんの製品が“OEM”で馬鹿売れらしい)


(あのババア……一枚噛んでるどころか――

何十枚も噛んでやがるな)


隊長の口元が少し歪む。


(問題は――ガリオン領だ。あそこの領主は……黒い噂が絶えない男。俺らも、あそこを通らずに来た。この和食だの、味噌だの、醤油だのが――“この領地発”だと気づかれれば……間違いなく、“何か”仕掛けてくる)


■ 近衛隊長へ


その夜。隊長は、近衛隊長の部屋を訪れていた。


「よぉ、飲んでるか」


「……何だ、今日は妙に真面目な顔だな」


「ああ。ちょっとな」


隊長は、低い声で切り出した。


「――この領地、近いうちに“目を付けられる”」


「……ガリオンか」


「話が早いな」


近衛隊長は苦い顔をした。


「和食だの、味噌だの……あれだけの“新規商品”が一気に出りゃ、嗅ぎつけるに決まってる」


「ああ」


そして、隊長は――とんでもない一言を放った。


「……俺ら、この制服を脱ぐ」


「…………は?」


「お前らも脱げ」


「………………はぁ?」


■ 脱げと言われた理由


隊長は、淡々と説明した。


「嬢ちゃんの飯、食っただろ」


「……ああ」


「近いうちに、“ここ発の製品”ってバレる」


「……だろうな」


「そうなった時――近衛や機構の制服を着た連中がウロついてたら、どう見える?」


「……完全に“特別な領地”に見えるな」


「そうだ」


隊長は、真っ直ぐに言った。


「相手は“商売敵”だ。だが同時に“敵”にもなり得る。警戒されれば、裏で何を仕掛けてくるか分からん」


「だから――」


「一度、“普通の領地”を演じる」


「……」


「俺らはこの制服を脱ぐ」


「ここの領民らしい服に着替える」


「……潜るって事か」


「そうだ」


隊長は静かに頷いた。


「相手の出方を見るためだ」


「警戒されないように、な」


■ そして翌日――


その翌朝。


近衛と機構軍の兵士たちは――

次々と制服を脱ぎ捨て、作業着に着替えていた。


「……俺、人生で初めて“兵士に見えない仕事”してる……」


「鍬、重っ……」


「なにこれ、平和すぎて怖い……」


だがその様子を見ていたメイヤは、


「……なにこの“急に農村RPG始まりました感”……」


と、首をかしげていた。


その背後で、機構軍隊長が静かに呟く。


「……これからが、本番だぞ――」


和食の湯気の向こうで、静かに、しかし確実に、

商業と政治の歯車が噛み合い始めていた。

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