領主、覚悟を決める。領地、和食に染まる。
領主は、静かに腕を組んで考えていた。
卓の上には――
昆布出汁の煮物、焼き魚、味噌のスープ、糠漬け、白い八十八、そして……問題の納豆。
(……改めて考えるとじゃな……)
これらはすべて――
この領地に“もともと存在していた物”から作り出されたものばかりだ。
海には魚と昆布。
畑には豆と野菜。
沼地には水と土。
藁もある。菌もある。
(私は……)
「この領地には何の特産もない」
そう、勝手に思い込んでいただけではなかったのか――。
視線の先には、納豆ご飯を幸せそうにかき込む娘の姿。
「……メイヤ……」
私の娘は、“無い”のではなく、“見ていなかった”だけの価値を掘り起こしたのだ。
工夫し、組み合わせ、考え抜き、そして――ここまでの“食の体系”を作り上げた。
(我が娘ながら……)
「……とんでもない事をやっておる……」
だが、次の瞬間――領主の表情は、領主としてのものへと切り替わった。
■ 領主、即断即決
「ナルト!!」
調理師ナルトが、びしっと背筋を伸ばす。
「は、はい!」
「今ここにある――昆布出汁、味噌、醤油、糠漬け、どぶろく、納豆、八十八料理……すべての製法を、来ている機構の連中へ詳細に渡せ!!」
「……へ?」
「商品登録を行え! そして――」
領主は拳を握りしめた。
「新しいレシピが完成次第、すべて追加登録せよ!!」
その場が、しん……と静まり返る。
「さらには――」
領主は、はっきりと言い切った。
「領民にも公開だ!!秘匿など不要! 作れる者が増えれば、食も豊かになり、商いにもなる!」
ナルトは、目を見開いた。
「い、いいんですか!? ここまで一気に……!」
「構わん!!」
領主は、力強くうなずいた。
「これは――我が領の“食の武器”になる!!」
横でメイヤが、ぽかんとしている。
「……え、そんな大ごとに……?」
「大ごとじゃ!!!」
領主は即答した。
「これが“特産”でなくて何が特産だ!!」
■ 機構、大慌て。
その日のうちに、世界商品登録機構の出張員たちの机は――
書類、書類、書類、書類!!!
「昆布……? 出汁……?」
「味噌と醤油、製法が別……?」
「納豆……? これは…………?」
「どぶろく……? 米の酒……?」
軽くパニックである。
「ちょ、ちょっと待ってください……この領地、何種類登録する気ですか!?」
ナルトが淡々と言う。
「まだ増えます」
「まだ増えるんですか!?」
■ 領民へ、全面公開!
翌日――
村の広場に、“新料理・新製法 解放のお知らせ”という前代未聞の張り紙が並んだ。
「昆布を水に入れるだけで旨くなる!?」
「豆が……糸引いてる……?」
「この白い穀物……うまっ……!」
「味噌汁……毎日飲みたい……」
「ごはんに納豆……最初は臭いが……慣れたら止まらん……」
瞬く間に――領地が、和食に支配された。
朝は味噌汁。
昼は焼き魚。
夜は煮物と八十八。
気づけば、どの家からも――
「出汁の匂い」が漂い始めた。
■ メイヤだけが、ぽつり。
その光景を少し離れた丘の上から眺めながら、
メイヤはぽつりとつぶやいた。
「……え……?」
「私、ただ白ごはんが食べたかっただけなんだけど……」
背後から、父の声。
「それが文明になる娘じゃ」
「え、そんなつもりないです」
「もう遅い」
領地は今――完全に“和食文化圏”へと突入した。
次に王都へ流れ込むのは――間違いなく、この“異世界・和食ブーム”である。




