乾燥昆布、降臨!
乾燥した風が屋敷の裏庭を吹き抜ける中——。
「お嬢様ぁ〜!これ、漁村から届きました!」
荷馬車の上には、黒々とした板状の物体が山のように積み上げられていた。
そう、乾燥昆布である。
「きたぁあああ!!乾燥昆布ぅうう!!」
メイヤのテンションは一瞬で天井知らずに跳ね上がった。
干しただけなのにこの存在感。
厚みも文句なし。
前世の記憶がフルスロットルで蘇る。
「これで出汁が取れる!文明レベルが一段階アップよ!!」
屋敷の使用人たちは意味が分からず、とりあえず拍手だけしていた。
■ 調理場へダッシュ!
「ミュネー!調理師さーん!集まってー!」
メイヤは乾燥昆布を抱えたまま、ほぼ突撃する勢いで調理場へ突入した。
昆布を見たミュネと調理師の第一声は、見事に一致した。
「……お嬢様。それは……なんの“板”ですか?」
「燃料……では、ありませんよね?」
いやいやいや!!
「違う違う違う!!これ食べ物!!いや、正確には“飲み物の元”!!」
二人の頭の上には、くっきりと「?」が浮かんでいた。
メイヤは腕をまくる。
「いいから見てて!今から料理するから!」
と言っても、戻して煮るだけなんだけどね……
■ 昆布出汁の衝撃
桶に水を張り、乾燥昆布を投入。
ぷかぁ〜、と黒い板が浮かぶ。
調理師「……本当に……食べ物、ですか……?」
ミュネ「……お嬢様、謎が増えている気がします……」
しばらくすると、昆布はゆっくりと水を吸ってふくらみ始めた。
「ほら、戻ってきたでしょ?」
鍋に移され、弱火でコトコト。
やがて湯の色が、ほんのり黄金色へと変わっていく。
「できた!飲んでみて!」
二人は恐る恐る口をつけ——
「……!? んっ……!?」
「な、なんだこれは……!?」
驚きに目を見開く二人。
「塩も入れてないのに……深い……旨い……!」
「でしょう?」
メイヤは得意げに胸を張った。
「これが“昆布出汁”よ!」
「こ、こんな上品な旨味が……ただ干しただけで……!?」
「しかも出汁を取った後の昆布も、刻んで煮付けたら普通に美味しいのよ」
二人の料理脳が、目に見えて高速回転を始めた。
「汁物、煮物……万能ではありませんか!」
「この出汁があれば……新しい料理がいくつも……!」
「必要なら漁村に追加で注文していいわよ。干すだけだから手間も少ないしね!」
二人は力強くうなずいた。
■ 味噌と醤油、ついに導入!
「はい、これ」
メイヤは紙を差し出した。
「味噌と醤油の作り方メモ!」
調理師「み、味……噌……?」
ミュネ「……しょーゆ……?」
「この二つはね……料理の神よ!!」
調理師はメモを見つめ、額にうっすら汗をにじませる。
「……発酵……熟成……これは……相当な大仕事ですぞ……?」
「やって。ここで再現して」
「……よろしい。やってみせましょう!」
調理師の目に職人の炎が宿った。
「あとは任せたー!」
メイヤは満足そうに調理場を後にした。
■ そして……ロウガの所へ!
昆布は完成、味噌、醤油が出来る予定だから。
「ロウガさん!!いるー!?」
ドン!と勢いよく扉を開ける。
「おう。どうした?妙に元気だな」
メイヤは拳を握りしめた。
「……また新しい食材か?」
「もし新しい食材が完成したら、売れるかどうか見てほしいの!」
「おう!解った!」
ロウガは気軽に請け負ったが、メイヤの胸の高鳴りは止まらない。
絶対に……この領地で、おいしい白米食べてやるんだからぁああ!!
実はメイヤが王都に行っている間も、
領内ではすでに変化が始まっていた。
かつての湿地、誰からも見向きもされなかった沼地の一部が、静かに、しかし着実に開墾されていたのだ。
水を引き、泥をならし、そしてそこには——
八十八(米)が植えられていた。
「みんな……ちゃんと世話してくれてたのね……」
穂が実るその日を思い浮かべて、メイヤは思わずにやけた。
ごはん。
白くて、湯気の立つ、あの一杯。
それがこの世界で食べられる日も、もう遠くない。




