表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
階段から転落して思い出しました!89歳まで生きた私、今度の人生は異世界で半島領の次女です  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/15

鉛筆工房、仮稼働開始!そして商人ロウガの提案

鉛筆の試作が成功した翌日。

領主館の一角に急ごしらえで作られた作業小屋では、ミュネ、調理師、そして木工師のロット老人の三人が、緊張した面持ちで陣取っていた。


「よし、始めましょうか!」


メイアが胸を張ると、周りの大人たちは思わず微笑む。


「本当に……メイア様は何を考えておられるのか……」


ロット老人が苦笑しながら、木の型を手に取った。


まずは炭を砕き、粘土と水を混ぜて練り合わせる。昨日の試作よりも、ミュネと調理師が分量と粘度を研究してさらに精度が増した。


「調理の感覚でやると、意外と楽しいですね」

調理師が感心したように混ぜながら呟く。


続いて、ロット老人が型に詰めて細い棒状に成形し、炭の芯を慎重に取り出す。

昨日よりも明らかに形が整っている。


「よし、焼きに行くぞ。ミュネ、メイア様を頼む」


「はい、ロットさん!」


調理場で、芯を弱い火でじっくりと焼き上げる。焼時間を一定にするために調理師が火加減を細かく調整し、ミュネが仕上がった芯を丁寧に冷ます。

そして最後に、木工師が薄い板に溝を彫り、焼き上がった芯を挟んで削り出すと――


「……できた!」


メイアが歓声を上げた。


昨日より数段滑らかな黒い線を描く『鉛筆』が誕生した瞬間だった。


ミュネと調理師は、息を呑んで手元の完成品を見つめた。


「こ、これは……本当に道具になるのですね」


「絵を描くだけじゃない。文字も、数字も……何度でも書ける!」


興奮した二人の声に押されるように、メイアは鉛筆を持って父母のもとへ駆け込んだ。


──そして領主夫妻も驚愕することになる。


「……メイア。本当に、こんなものを作ったのか?」


父フェルナード領主が鉛筆の先端を見つめ、震える声で言う。


母は書き心地を確かめ、目を丸くした。


「これほど軽く……そして濃く。紙が要らずとも、木の板に簡単に文字が書けます!」


そこでメイアは、満を持して言い放った。


「お父様。これを――領地の産業にしたいのです!」


父と母は一瞬黙り込み、その後同時に頷いた。


「……執事を呼べ。詳しく状況を確認する」


すぐさま呼ばれたのは、切れ者と名高い執事ガルド・ハウル。

そしてミュネ、調理師、木工師ロット老人を交えて急遽会議が開かれた。


「材料は炭、粘土、水、木材……全て領内で即調達可能」


ガルドは報告書をまとめながら目を細める。


「木は広大な森からいくらでも切り出せます。炭も製炭所がすぐ近くに」


「粘土は屋敷の庭のものでも十分でした」


「作業手順も難しくはありません。数人いれば一日に……」


ロット老人が計算し、ガルドが筆を走らせる。


「一人で十数本。五人なら一日七十本以上。初期段階では十分すぎます」


父はその数字に目を見張った。


「価値は大きい……これは、売れる。確実に売れるぞ」


「ではお父様、商人を呼びましょう!」


メイアが提案すると、父は満足げに頷き、館の外へ声をかけた。


「ロウガ・ベルンを呼べ!」


やって来たのは犬族ハーフの若き商人、ロウガ。

気性は穏やかだが、商才は確かで、領主からも信頼が厚い。


「失礼します、領主様。お呼びと伺いまして」


ロウガは深々と頭を下げ、鉛筆を見ると目を丸くした。


「こ、これは……木に文字が滑らかに……! まるで魔道具のような……!」


「魔道具ではない。ただの道具だ。しかし領地を変える力がある」


父が静かに言うと、ロウガはゴクリと唾を飲んだ。


「これを、どこへ売りさばくべきか……まずは地形から説明を受けてくれ」


ロウガが提示したのは、領地周辺の地図だった。


◆ 北:ガリオン領

・王都への最短ルート。

・だが通行税が非常に高く、領主の性格もがめつい。


◆ 東:エドラン領

・距離はあるが安全で領主も良識的。

・山間部で時間はかかるが確実に届けられる。


◆ 南:ロウル領

・湿地と森ばかりでルートなし。商売対象外。


ロウガは少し考えた後、慎重に口を開いた。


「……やはり、王都へ流すならガリオン領の関所を通るべきでしょうな。近いですし……」


その瞬間、メイアはきっぱりと首を振った。


「だめです! 通るだけでお金を取られるなんて納得できません!」


「そ、そんな理由ですか!?」


ロウガが目をむく。

メイアはさらに言葉を続けた。


「遠くても、誠実な相手に届けたい。エドラン領にお願いします!」


ロウガはしばらく考え、やがて口元に笑みを浮かべた。


「……わかりました。メイア様の判断、商人として乗らせていただきます。エドラン領を拠点に、必ず販路を開拓してみせましょう」


父はそのやり取りを満足げに見守りながら、深く頷いた。


「よし。フェルナード領初の新産業――鉛筆工房を、本格稼働させる!」


こうして、メイアの小さな発明が、領地に新たな風を吹き込み始めるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ