ロウガ商人、領主様に“爆弾書類”を持ち込む
領主館の執務室。
午前の静かな空気をぶち破るように、ロウガ商人がノックもそこそこにドアを開けた。
「領主様。ちょいとお時間をいただきたく」
「ん? ロウガか。珍しいな、そんな真顔で……」
「真顔に見えますか? これは諦めの表情でしてな」
「怖いこと言わんでくれ」
ロウガは無言で、机の上に書類束を ドンッ と置いた。
その瞬間――
ズシィッ。
紙の重みが異常すぎて机がわずかに悲鳴をあげた。
「これは……メイヤの……?」
「えぇ、“希望の書類”だそうで」
領主はため息をつきつつ紙をめくった。
読み始めてわずか三秒――
領主「ぶぉふっっ!!??」
お茶を盛大に噴射した。
ロウガ「あーあー、拭きますぞ。鼻に入ってませんか?」
「入ってるわ!!なんだこれは!!?」
領主は紙を振り回す。
「“日雇い長期契約”!? 一年契約!? 更新可!? 相場不明だから相談!? 何だこの語尾のテンションは!!」
「お嬢様作ですからな。勢いが命でして」
「笑い事じゃない!日雇いはいいとして、これは……“領民募集”? 聞いたことないぞ!!」
「私も初めてですなあ~。斬新すぎて参考文献ゼロです」
「笑うなロウガぁ!」
ロウガは肩をすくめて、悪びれもなく次の紙を差し出す。
そこには――
『働く気のある貴方!!新天地で仕事しませんか?
年齢不問!!家族丸ごと移住歓迎!
移住費は領地負担!!(※現物支給の可能性あり)』
領主「こんなので来るわけが――」
「いや、案外王都なら“刺さる”かもしれませんな」
「……は?」
ロウガは指を鳴らし、語り始めた。
「例えば王都に“名家具職人の工房”があるとする。師匠の作品は飛ぶように売れる。しかし――」
ロウガは机をトントン叩く。
「その師匠が亡くなると、弟子が作っても文句が出る。“品質が落ちただの”“こんな値段出せるか”だの。作ってるのは同じ弟子なのに、ですよ?」
領主「うむ……」
「弟子たちは心が折れる。“もう好きにしろ”ってな。そして国に帰る。腕はあるのに、だ」
領主の表情が変わる。
ロウガは続ける。
「そういう“才能はあるが所属先を失った若い職人”――俺は何人も見てきた。今回の広告、案外そういう奴に刺さるんですよ」
「なるほど……!」
「ただし、いきなり領民は無理ですな。まずは日雇いから。ちょうど近々関連会合がありますので、そっちは私が動きます」
「恩に着る」
ロウガはニヤッと笑う。
「後は領主様の腹次第ですな」
「腹?金の話はあとで――」
「それですよ」
ロウガは鋭い視線で領主を見た。
「……金があるのを“黙ってる”のは何故です?」
領主「っ!?」
「更に稼ぐために隠してるのか。それとも……見たこともない金額にビビってるのか?」
ロウガはニヤニヤ笑って言い切る。
「どっちです?――この貧乏男爵?」
「だ、誰が貧乏男爵だ!!?」
「机、古いですよ? 椅子、軋んでますよ? 壁、剥がれてますよ?」
「やめなさい!!」
ロウガは爆笑しつつ、紙束を整えた。
「まぁ、金があるなら大丈夫でしょう。“投資”はお嬢様が勝手にやってくれますからな」
「勝手にやられて困るのだが!!」
「では、私は会合の準備に入ります。
――腹括っといてくださいよ、領主様」
ロウガはヒラリと手を振り、去っていった。
残された領主は天を仰ぐ。
「……あの娘、本気で領地を変える気なんだな……」
そしてぼそっと呟いた。
「……ロウガ……絶対わしをからかって楽しんどるだろ……」




