領民募集大作戦?
メイヤは机いっぱいに広げたメモの山を、ひとつずつ指でトントンと揃えながら長い溜め息をついた。
「……やっぱり、根本は人手よね」
昨日、父から聞き出した領地の詳細――人口、地形、農地、資源――すべてをメモにまとめた結果、ひとつの事実が浮かび上がっていた。
領地の規模に対して人口が圧倒的に少なすぎる。
新しく来た商隊の人数の方が多いという衝撃事実に、メイヤは鉛筆をくるくる回しながら天井を仰ぐ。
「いやいやいや、さすがにそれは……いや事実なんだけど!どうなってるのうちの領地!」
人口が少なければ、生産量も伸びようがない。どれだけ画期的な発明をしても、作る人間がいないのでは話にならない。
そしてさらに、メイヤの脳裏をよぎるのは昨日ロウガから聞いた“奴隷制度”の話だ。
「この世界、やっぱりあるのか……と思ったけれど」
メイヤはメモをめくる。
そこにはロウガの説明が丁寧に書かれていた。
この国に“人を売買する奴隷”はいない。
罪を犯した者の“刑罰奴隷”のみ。
買い取り制度などは存在しない。
「まあ、それなら良かったけど……」
胸を撫で下ろしつつも、同時に「じゃあ人手はどう集めれば?」という課題が残る。
他領地からの引き抜き?
それは現実的ではない。人口は資産、それを手放す領主などいない。
教会保護者の移住?
それは領主同士の合意が必要で、寄進(寄付)も求められる。
つまり、“うちに余裕があるのが前提”。
「……今のうちの状況じゃ、無理よねぇ……」
またひとつ溜め息が増えた。
けれども、人は欲しい。
人がいなければインフラ整備も、産業拡大も進まない。
メイヤは机に突っ伏した。
「うーん……どうすれば人が来てくれるの……」
その時。
ふと、現代日本での就職活動や求人広告の記憶がよみがえる。
求人情報誌。
転職サイト。
「新天地で働こう!」みたいな地方求人。まあここだと本当に新天地。。。
――働きたい場所があれば、人は集まる。
「……そうか。こっちから“欲しい欲しい”って言うだけじゃダメ。“来たいと思ってもらえる場所”を作れば良いんだ!」
メイヤはぱっと顔を上げ、鉛筆を走らせる。
白紙のメモに書かれたのは、太く大きな文字。
『只今領民募集中!!』
「よし、ここからだ!」
勢いに乗ったメイヤは、走る手を止めずに次々と条件を書き込んでいく。
――働く気のある貴方!!
――家族ごと移住歓迎!
――年齢不問!
――技術保持者優遇!
――移住費は領地負担!(物品支給の可能性あり)
――領収書をお忘れなく!
(……領収書ってこっちで通じるのか、まあいいか! ロウガさんがどうにかしてくれる!)
大まかな形ができると、今度は現地の雇用条件に目を向ける。
日雇いは高い。
短期雇用は不安定。
しかし――長期契約なら現実的。
「ロウガさん、長期契約の話してたわよね。
じゃあ、うちは一年契約でどう?その後、仕事ぶりによって一年更新も可能……うん、これだ」
彼女は新しい紙にタイトルを書いた。
『労働契約案(仮)』
労働期間:一年(更新あり)
賃金:日給より安く、かつ生活が安定する額
住居:未整備のため優先提供
福利厚生:怪我や病気の際、教会との協力体制を検討
「……いい感じじゃない?」
村のインフラが整っていないのは問題だが、それは最初に日雇いを雇って形だけでも整えれば良い。
その後に“移住募集”を出す。
王都で広告を張り出し、商人たちにも情報を広めてもらう。
「完全に求人広告ね……。でも、これって絶対効果あるでしょ!」
メイヤは書き上げた紙束を抱きしめ、椅子の背もたれにもたれかかった。
次にやることは決まっている。
「よし、この案をロウガさんに見せて意見を聞いて……。その後はお父様に提出しよう!」
胸がわくわくと熱を帯びる。
ようやく、領地の未来を動かす“第一歩”が見えた気がした。
「よーし、頑張るわよメイヤ領地改革計画〜!!」
彼女の声が部屋に響いた。




