ロウガへの相談
メイヤは父との会談を終えると、迷うことなく領内の商店街へ向かった。
目指すは──あの豪快な商人、ロウガだ。
店の前には今日も荷車が並び、木箱が積み上がり、取引の声が飛び交っている。メイヤが店に入ると、店員が驚いた顔で会釈した。
「ロ、ロウガ様をお呼びします!」
「いるなら呼ばなくてもいいけど……」
そう呟いた瞬間──
「おう、嬢ちゃん。来ると思ってたぜ」
奥の帳場から、ロウガが豪快に笑いながら姿を現した。
「また何か企んでんだろ?」
「企むって……そ、そんなことないです!」
「はいはい。で、今度は何だ?」
ロウガはどっかり椅子に座り、メイヤに向かい合う席を指した。
メイヤはゴアゴア紙のメモ板を抱えたまま、真剣な顔で切り出した。
「ロウガさん、人って……呼べますか?」
「……人?」
「はい!領地の人口が、そもそも圧倒的に足りなくて……」
ロウガは眉をひそめた。
「何だ、その重大な話をさらっと言いやがる……。で、どういう意味だ?」
メイヤは、領地人口が二百名強であること、農地が開拓しきれないこと、産業を興すにも人手が足りないことなどを説明した。
ロウガは途中で「まじかよ」と何度も頭を抱えた。
「……嬢ちゃんの領地、思ってたより“軽い”な……」
「言わないで……心にくるから……」
ふたりでしばし沈黙したあと、メイヤは身を乗り出した。
「だから!ロウガさんに聞こうと思って。
日雇いの人って、この領地に呼べますか?」
ロウガは腕を組み、深く息を吐いた。
「……呼べるには呼べる。だが嬢ちゃん、この場所は“半島の端”。街道の本線からは外れてる。つまり──」
「高いんですね?」
「ああ。旅費と宿代で、人件費は王都の倍はかかるな」
「倍っ!?」
ロウガは苦笑しつつ続けた。
「ただし、長期契約なら話は別だ。三ヶ月、半年の“季節契約”ならコストを抑えられる。問題は……嬢ちゃんの領地が『仕事を継続して供給できるか』だ」
メイヤは迷わず頷いた。
「木工場建設、紙の工房、湿地開拓、筆記具の大量生産……仕事、めっちゃあります!」
「ははっ! 言うねぇ。だが……」
ロウガはじっとメイヤの顔を見る。
「嬢ちゃん、金はあるのか?」
「ないと思います!!」
「いやあるだろ!? 紙と鉛筆の出来でどれだけ売れたと思ってんだ!」
メイヤは本気で知らない顔をした。
ロウガは頭を抱えた。
「……あの旦那、嬢ちゃんに全然言ってねぇのか……」
彼は深いため息をつき、それから声を落とした。
「まあいい。次に、“教会の保護下の連中”を移住させる方法だが……」
メイヤは食い気味に身を乗り出す。
「そこ!気になってました!」
ロウガは数珠をいじりながら言った。
「方法はある。だが、前提として“領主同士の合意”が必要だ」
「合意……」
「教会はあくまで“預かってるだけ”だ。生活基盤──住む場所、仕事、食い扶持。これを揃えて提示すりゃ、教会は動く。ただし……」
「ただし?」
「信者が減るから、教会は嫌がる。寄進や、将来の産物の提供で手打ちにするだろうな」
「……めんどくさっ」
「世の中は金と信用で回ってるからな。若嬢」
メイヤは紙に勢いよくメモをとった。
■日雇い:高い。長期契約なら現実的
■教会保護者の移住:可能。領主同士の合意+寄進
■人手不足:根本的問題
ロウガは椅子を軋ませ、ニヤリと笑った。
「嬢ちゃんよ。ここまで真剣に“人をどう集めるか”考えた子ども、初めて見たぞ」
メイヤは少し頬を赤くした。
「だって……人がいなきゃ、何もできないから」
「その通りだ」
ロウガはゆっくりと立ち上がり、帳場の棚から一枚の地図を取り出した。
「実はな──この辺りには“季節労働者が集まる場所”が三つある。そこに俺の商会が定期的に行っている」
「えっ……!」
「金と、未来の仕事を提示すれば、人間、どこにだって行く。嬢ちゃんの思ってるより、ずっと単純だ」
ロウガはニッと笑った。
「奴隷なんざ必要ねえよ。働く価値がある領地なら、人は勝手に集まるもんだ」
メイヤの胸が大きく鳴った。
この世界でも──
「働きたい場所」があれば、人は集まる。
それは前世で知っていた、当たり前の真理だった。
ロウガは続ける。
「嬢ちゃん。本気で人を集める気なら、手伝ってやるよ。でもちゃんと領主様に確認しろよ」
「……いいんですか?」
「面白いからな」
即答だった。
メイヤは大きく頭を下げた。
「ロウガさん、お願いします!」
「任せときな。まずは条件作りだ。住まい、食事、賃金……嬢ちゃんの領地で全部用意できるように、これからが本番だぞ?」
「はいっ!」
店を出るメイヤの足取りは軽かった。
この領地が変わるための、
最初の“大きな一歩”が、今まさに動き出していた。




