父との会談
父の執務室は、木工場の工事現場から戻ったメイヤの足音が近づくと、ゆっくり扉を開いた。
ガルドが軽く一礼して下がる。
「父様、領地の現状について、詳しく教えてほしいことがあって来ました」
父は書類の束から顔を上げ、苦笑を浮かべた。
「……また“質問攻め”をしにきたのか。お前は昔から疑問が尽きん子だな」
「はい! ではまず――」
父は言い終える前に、メイヤはすでにゴアゴア紙と鉛筆を取り出していた。
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■人口と構成
「まず、領地の総人口は?」
「……えーと、全部で 二百三十二名 だ」
メイヤはメモをとる。
「男女比は?」
「えーあー男が百二十、女が百十二。子どもは三十七名」
「大人に比べて子ども少なっ!」
「……まあ、流行病や移住の減少が原因だな」
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■地形と農地
「領地の半島地形は?」
「漁村がいくつかあるが、規模は小さい。」
「港はあるが、他地域との海運ルートは確立されていない。」
「海沿いなのに“もったいない領地”として扱われている。」
「農業は?」
「内陸部は農村、穀物と家畜が中心。天候に左右されやすく、豊かとはいえないが貧困ではない。」
「農地の広さは?」
「開拓済みが 百二十ヘクタール、未開拓が倍はある」
「倍!? もったいなっ!」
「人手が足りんのだ……」
■資源と特産品
「資源は?」
「森で木材は取れる。川と海からは魚。鉱物系は……貧しい」
「特産品は?」
父は首をかしげた。
「……特産品と呼べるものは、ないな。いや。今は鉛筆とゴアゴア紙だな」
「この領地、やっぱ産業なさすぎじゃない?」
「言うな……痛いところだ……」
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■農産物の総生産量
「農業の総生産量は?」
「去年は干ばつで減った。主作物は 麦が三十二トン、根菜合わせて十八トン、穀物が七トン だ」
「え、それじゃ人口分でギリギリじゃない?」
「だから毎年余裕がないのだ……」
メイヤは眉を寄せた。
■「人口が…少なすぎる」という現実
「ていうか父様、今回来た商隊の人の方が多いよね?一隊だけで三百人近くいたけど?」
「……うむ」
「うむ、じゃないよ!? ウチの人口より多いんだよ!?これ商隊に定住してもらった方が早いんじゃ?」
父は咳払いして言い直した。
「気持ちは分かるが、商人は“商売で旅をする”からこそ商人だ。定住する者はほぼいない」
「だよねぇ……」
■奴隷制度の疑問
「ところで――」
メイヤは眉を寄せる。
「まさか、この世界……“奴隷制度”なんてあるの?『足りないなら買え』みたいな最悪ルートじゃないよね?」
父は目を見開いた。
「な、何を言い出す! そんなことはない!
この国にあるのは 犯罪奴隷 のみだ。重罪を犯した者に限られる。人身売買などは国家が厳罰で禁じている」
「よかったぁあああ……!」
メイヤは胸を押さえて座り込む。
「怖かったんだから……」
■では、どう増やす?
「じゃあ、他の領地から人を引き抜くのは?」
「不可能ではないが……人口は資産だ。どの領地も簡単には手放さん」
「そりゃそうかぁ……」
少し考えてまた質問。
「でも引っ越してくることはあるんだよね?」
「ああ。
結婚、親の介護、家を継ぐ者がいない場合など例外はある。ただし――」
「ただし?」
「平民の移動には金がかかりすぎる。移住できるのは、ごく一部だ」
■出稼ぎと定着
「出稼ぎは?」
「それは多い。季節ごとに各地を渡り歩く労働者もいる。そのまま住み着く者も……稀にだがいるな」
「なるほどね……」
■教会の“福祉”
「ところで“孤児院”や“救貧院”みたいなのある?」
「あるぞ。ただし、教会によって方針も設備もまちまちだ。領主が支援していれば整が……うちは予算が厳しくてな。まあ孤児も保護人もうちの領地にはおらんが」
「ふむ……」
メイヤのメモはびっしり埋まり、ページをめくる手はもはや止まらない。
■そして、根本的な問題にぶつかる
メイヤは一度鉛筆を置き、父をじっと見つめた。
「――つまり父様」
「ん?」
「この領地、そもそも“人が足りなさすぎる”のが最大の問題なんじゃない?」
「…………言われてみれば、そうだな」
父も思わず頭を抱えた。
メイヤは立ち上がり、勢いよく言い放つ。
「じゃあ!ロウガさんに“人の移動”について相談してみる!何か方法あるかもしれないし!」
「ロウガ殿なら……確かに何か知っているかもな」
■そして、メイヤは動き出す
メイヤはメモ板を抱えて走り出した。
「父様、ありがとう!次は“税制度”と“戸籍の仕組み”について聞きに来るからね!」
「えっ、また来るのか!?できれば今日じゃなく……」
「今日行く!!」
扉がバタンと閉まる。
父は机に肘をつき、小さくため息をついた。
「……あれは、本当に領主の器かもしれんな」




