木工師爺さん国を震撼させる?
領主館での大人会議が終わり、隊長クラスがそれぞれ散っていった頃。
機構隊長は、ふと溜息をつきながら呟いた。
「……さて、うちの文官共と話をつけねぇとな」
だが、その声音はあからさまにやる気がない。
「……まあ、適当に近くにいる奴ら捕まえて話せばいいだろ。正直、あいつらと関わるのはめんどくせぇ」
ぶっきらぼうというより“関わりたくない”が丸見えだった。
だが、その横から――あの木工師の老人が、フォフォと笑いながら近づいてきた。
「ほう。関わりたくないとは、随分だのお主。
だがの……お主も無関係では済まぬぞ?」
機構隊長は露骨に嫌そうな顔をした。
(……何だ?このジジイ?)
仕方なく文官を数名呼び出すことにする。
応接室の廊下脇、立ったままの簡易な会合が始まった。
◇◆◇
「で?話ってなんだ?」
機構文官の一人が、少し困惑した顔で懐から数枚の紙を取り出した。
「……その……木工師殿から“見せられた”ものがありまして」
老人は得意げに顎をしゃくる。
「ほれ、見せてやれい」
文官が広げたのは――例の、ゴアゴア紙に書かれた図面。
それを見た瞬間。
機構隊長と文官たちは、完全に固まった。
「……これ……まさか……」
「統一度量衡……の……設計……?」
「そんなはずは……まだ機構内でもごく一部しか知らぬはず……!」
彼らの顔が、一斉に蒼白になった。
“木工師ジジイ”を、同時に見た。
(なんでこの爺さんが……!?)
(いや……まさか……あのチビ……すでにここで!?)
老人はフォフォと喉を鳴らす。
「その顔……どうやら変更はなさそうじゃな?」
「……へ、変更?」
「わしはこれを見てな――鉛筆も、その補助具も、測定用の器具も、全部合わせて作っておる。ここで既に“使用”されておるぞ?」
文官の一人が腰を抜かしそうになった。
機構隊長が叫ぶ。
「し、使用……!? どこで、誰が!?」
「誰って……決まっとろうが。――メイヤ嬢じゃよ」
その言葉は、爆弾のように落ちた。
機構隊長も文官も同時に目を見開く。
(……あのちびっこ、本当にこの領で……!?)
(先に“実用化”してる……だと……!?)
老人は、まるで獲物を見つけた鷹のような鋭い目をした。
年寄りの目ではない。
「つまり――お主らがここに派遣された理由。
王都でゴタついとる原因。全部、“読めた”ぞ」
機構隊長は無意識に後退った。
「お、おいジジイ……お前、一体……」
その問いに、老人は容赦なく言い放つ。
「――いいか。任務は必ず全うせい。そしてあのババアに伝えろ。『国を動かせ』とな」
その一言に、文官全員が背筋を凍らせた。
◇◆◇
少し離れた場所で、学術長がそーっと様子を見ていた。
「あれ……木工師殿……あんな顔できたんだ……」
「ていうか、今の“国を動かせ”って……」
老人は振り向きざま、彼らにも視線を向ける。
鋭く、まるで刺すような目で。
「そっちのクソババアにもだ。――伝えい」
学術陣は文字通り跳ね上がった。
「ひぃっ!? リディア学園長のことか!?」
「く、クソは余計では……!?」
だが老人はすでに背を向けていた。
「フォフォ……忙しくなるぞぉ。あの娘が、またとんでもないものを作りおったからなぁ……」
そう呟いて、木工師の老人は本当にただの老人の顔で去っていった。
――残された機構隊長と文官と学術陣は、しばらく立ち尽くすしかなかった。




