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階段から転落して思い出しました!89歳まで生きた私、今度の人生は異世界で半島領の次女です  作者:


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夜営地の模擬戦――“飾り”と“実戦”

夜営地の中央では、大鍋のスープが心地よい香りを放ち、

焚き火の赤い光が、集まった人々の顔を柔らかく照らしていた。


メイヤたちはクラスメイトと一緒に、木製の皿を囲んで夕食を楽しんでいた。

ほのぼのした空気に、旅の疲れが少しずつほどけていく。


そんな中、背後から控えめな声がかかった。


「……失礼いたします、リディア様」


振り向くと、王室近衛隊の隊長が立っていた。

端正な顔立ちに、礼儀正しい姿勢。騎士の鑑そのものだ。


「リディア様は剣技を嗜まれると聞きました。

もしよろしければ、模擬戦などいかがでしょうか?」


リディアの目が一瞬だけ丸くなる。


「えっ……私でよければ」


「もちろん、模擬刀で。危険はありませんのでご安心を」


メイヤは心の中でガッツポーズをした。


(近衛隊長と真剣勝負!? これは見ものだ……!)


——————————


やがて、夜営地の一角にどんどん人が集まり始め、

自然と円形の“観客席”が出来上がった。


近衛隊長とリディアは、向かい合って構える。


「では……参ります」


先に仕掛けたのはリディアだった。

踏み込みが速い。剣も鋭い。


――だが。


キンッ!


模擬刀のぶつかる音は軽いが、

近衛隊長の余裕は揺るがない。


(あ、これ……手を抜いてるな)


メイヤにはなんとなく分かった。

近衛は要人護衛のエキスパートだ。

“守るための戦い方”は、攻めと違う。


しかし――


(……でも、リディア姉さんもすごい!)


リディアは確実に“学園の中だけでは学べない経験”を身につけていた。

剣の軌道、足の運び、身体のひねり。

全部が洗練されている。


観客がざわざわとどよめき始める。


「姉ちゃん強い……」


「近衛隊長とこんなに渡り合えるなんて……」


「リディアさんってあんな剣使いだったの?」


リディアは息を弾ませながらも、鋭い目を崩さない。


そして、区切りがついたところで、近衛が一度刀を下げた。


「お見事です、リディア様。とても学生の域ではありません」


その瞬間――


「へっ、そろそろいいか?」


低い声が割って入った。


「お嬢ちゃん、今度は俺と勝負しねえか?」


観客がざわめく。


「え、あれ……世界商品登録機構の軍隊長じゃない?」


「実戦専門部隊だよね……」


「盗賊討伐ばっかりやってる人らしいよ……!」


そう、その男は“実戦屋”の軍隊長。

近衛とは目的の違う、戦闘特化の部隊を率いる男だ。


隊長はにやりと笑い、リディアを挑発する。


「近衛はお飾りみたいなもんだ。要人護衛とパレードが主任務だろ?実戦なら、俺の方が教えてやれることが多いぜ」


近衛隊長の眉がぴくりと動いた。


リディアは深呼吸し、静かにうなずいた。


「……お願いします」


——————————


その瞬間、空気が変わった。


世界商品登録機構の隊長は、

開始の合図もなくリディアの死角へ滑り込む。


「っ……!?」


リディアは反応はしたものの、間に合わない。

模擬刀の“柄”が肩に軽く当たった。


「一本!」


観客が息を飲む。


その後も、隊長はまるで風のように移動する。

足元の石を蹴り上げ、リディアの視界を奪い、

ちょっとした段差に誘導してバランスを崩させる。


「これも戦いのうちだ」

「周囲を見ろ」

「タイミングをずらせ」

「息が乱れてるぞ、呼吸を整えろ!」


もはや模擬戦ではない。

実戦で生き残るための“叩き込み”だ。


リディアは息を切らしていた。


はぁ……はぁ……。


「なっ……なんて動き……っ」


隊長は軽く顎をしゃくる。


「盗賊はルール守らねぇんだよ。綺麗な剣の振りなんて、実戦じゃ通用しねぇ」


——————————


だが、ここで終わらない。


静かに立ち上がったのは、さっき“お飾り”呼ばわりされた近衛隊長だった。


「……では、次は私の番ですね」


隊長は笑う。


「お、怒ったか?」


「怒ってはいません。ただ……示しただけです。“飾りではない”ということを」


二人の戦闘は――まるで別物だった。


一撃も当たらない。

刃筋の音すら聞こえない。


近衛の動きは洗練されすぎて、逆に“消えている”。


隊長は実戦技術で対抗し、

近衛は防御と隙を見極める力で揺さぶる。


互いに違う戦い方。

だが、練度だけを見れば、ほぼ互角。


観客全員が呆然として見守っていた。


——————————


やがて、刀が下ろされた。


「……続きはまた明日だな」


「えぇ。お互い、まだ伸びしろはある」


ふたりは固い握手を交わした。


その背後で、学術系研究員たちが一斉にメモを取っている。


「反応速度のデータが……!」


「剣筋の軌跡を記録したぞ!」


「実戦と護衛の動きの違いが鮮明だ、これは貴重だ……!」


メイヤはそれを見て、目を細めた。


(……流石、学術の人達だ。戦いすら研究材料に変えるんだね)


リディアは疲れ切って座り込みながらも、

悔しさと嬉しさの混じった笑みを浮かべた。


「……まだまだだね、私」


「ううん、すごかったよ姉さん!」


「明日から特訓だね!」


「ミュネ、とりあえず水!水!」


そんな賑やかな声に包まれながら、

夜営地の火はますます赤く輝いた。

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