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階段から転落して思い出しました!89歳まで生きた私、今度の人生は異世界で半島領の次女です  作者:


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動き出す影と、学園の静かな覚悟

翌日――

王宮で正式に“メイヤ保護策”が決まったことなど知る由もなく、王都の裏側では静かに、しかし確実に水面下の動きが始まっていた。


◆ 商会側:暗躍の兆し


王都の南東、商人組合が軒を連ねる一角。

昼間でも薄暗い細い路地を抜けた先にある、古い石造りの建物の一室。


そこには数名の大商会主が机を囲み、声を潜めて議論を交わしていた。


「本気で動くつもりか? あの子どもを」


「子どもだろうと関係ない。“簡易手押しポンプ”“天然酵母”“九九表”“そろばん”“度量衡統一案”どれも市場を根本からひっくり返すぞ。今動かなきゃ、王国はあの子の利益を独占する」


別の商会主が険しい顔のまま、机を指で叩く。


「問題は、例の“世界商品登録機構”が動いているということだ。アグライア=ホルンベルグまで出てきたとなれば……我々が勝手に技術を横取りすれば、ペナルティどころじゃ済まん」


「ならば方法を変えるだけさ」


その中で、ひときわ口元を歪めた男がいた。


「直接盗めないなら――“こちらへ来てもらえばいい”。本人か、もしくは周囲の誰かを通じてな」


ざらりと空気が重たくなる。


「まさか、誘拐でも?」


「誘拐なんて馬鹿げた真似はせんよ。

だが“うまい話”を提示するだけなら違法じゃない」


男は書類を机に広げた。


『コールレイク領地周辺での未登録地買収』

『領民への不自然な金銭提供』

『不明商隊の増加』


「昨日から動いている我々の“協力者”たちだ。メイヤ嬢に直接接触はできずとも、

領地の隙をつけば、いずれ“話の場”くらいは作れる」


「王国が保護に動くという情報もあるが?」


男は鼻で笑った。


「保護を始める“前に”動くから意味があるのさ。子どもは子ども。ちょっとした誘導で簡単に――」


そのとき、扉がノックもなく開いた。


黒衣の男が一人、静かに入ってくる。


商会主たちは驚愕し、椅子が軋む。


「……誰だ?」


男はフードを取らず、低い声で答えた。


「ただの使者だ。お前たちの“企み”は把握している。――この件には手を出すな。身を滅ぼすぞ」


「脅しか?」


「忠告だ」


男はそれだけ言うと、影のようにその場を去った。


残された商会主たちは青ざめ、しばし沈黙した。


「……何だ、今のは? 王国の人間か?」


「わからん。だが――

“我々の動きはすでに監視されている”と考えた方がいい」


「どうする? 引くのか?」


男は短く答える。


「――引かんよ。方法を変えるだけだ」


不穏は、まだ消えていなかった。


◆ 学園側:静かな覚悟


同じ頃。

セレスティア学園の第三研究棟にある学園長室。

セレスティアは大量の書類を机に広げ、深いため息をついていた。


「はぁ……あの子、また何か提出してくるわね。九九表にそろばん、酵母の手順書……。

本来なら学園の研究者が出すべき内容よ」


そんな愚痴をこぼしつつも、口元はどこか誇らしげだった。


そこへ、研究科主任のダリヤンが入室する。


「学園長、例の件でご報告が」


「例の件って?」


「メイヤ嬢に対する“非公式な接触の試み”です。昨日から数名の不審者が校門周辺をうろついておりまして……」


セレスティアは軽く眉を寄せる。


「……来たわね。まあ予想はしてたけど」


「どういたしますか?」


「どうもこうもないわよ。“子どもに手を伸ばそうとする大人”なんて、私の一番嫌いな種類の人間だもの」


学園長はスッと立ち上がり、棚から厚い冊子を取り出す。


『セレスティア学園・臨時防衛手冊』


「……臨時防衛? まさか発動するんですか?」


「必要ならね。まだそこまでは行かないけど――

学園の警備を今日から二倍。

メイヤたちの通学路の巡回も増やす」


ダリヤンは目を丸くした。


「王国と連携を取りますか?」


「ふん。王宮も今ごろ大騒ぎしてるでしょうけど……先に守るのは“私たち”。

あの子は学園に籍を置く以上、私の“生徒”なんだから」


セレスティアは窓の外――校庭で走り回る子どもたちを見つめた。


「リディアも、メイヤも、ミュネも……

あの子たちに悪意を向ける者がいたら、私は――容赦しない」


その声音には、穏やかな学園長とは思えぬ鋭さがあった。


◆ そして、少女たちは――


その頃当の本人たちは、学園の裏庭で

三人揃って弁当を広げていた。


「ねぇメイヤ、このクイナってさ、どうやって使うの?」


「こうだよ、こう。形が変わると用途も変わるんだよー」


「へぇ~便利!」


王宮が動こうと、商会が暗躍しようと、

学園が警備を強化しようと――


少女たちには関係のない、いつもの穏やかな昼休み。


メイヤは欠伸をしながら木に背中を預けた。


「へへー……今日眠い……」


ミュネとリディアは顔を見合わせて笑う。


「メイヤは本当にマイペースだね」


「そこがいいとこ」


三人の笑い声が、平和な空気に溶けていく。


だがその背後では、

“メイヤの価値”を巡る思惑は、確実に加速していた。


王国、学園、商人、そして正体不明の勢力まで――

それぞれが動き出し、世界は静かに揺れ始めている。


少女はまだ知らない。

この数日が、のちに“国を大きく動かした転換点”と呼ばれることを。

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