呆然の後で命令が落ちる
「はいはい!みんな、呆気に取られてないで!」
パン、と手を叩きながらセリアが声を上げた。
「訓練、訓練!!」
その声の軽さに、逆に全員が戸惑う。
「それとね――」
にこにこと手投げ弾を手に取る。
「私も、投げてみたいわ〜」
「は、はい!奥様!」
学術員が慌てて駆け寄り、手順を簡潔に説明する。
「この紐を引き抜いて……」
カン。乾いた音。セリアは、軽く構えた。
「ふんっ」
放たれたそれは――一直線に飛んだ。
一番遠くに置かれていた的をあっさりと通り越し、その先へ。誰も、目で追えなかった。
数瞬後。
ボブッ!!
かなり遠くから、遅れて響く破裂音。
沈黙。
次の瞬間、三人の女性が同時に叫んだ。
「「「そんな遠くに飛ばせるか!!!」」」
警備隊も言葉を失っている。
「まあ〜」
セリアは、あっけらかんと首を傾げた。
「思ったより飛ぶのね?」
誰も答えられない。
その空気の中で――セリアは、ふっと表情を変えた。
「リディア、警備隊長」
声の調子が、明確に変わる。
「はい!」
背筋が伸びる。
「今後、この場所を訓練地とします」
即断だった。
「新型武器の練度をここで上げて頂戴」
間髪入れず、続ける。
「訓練には必ず隊長が立ち会うこと」
「全員に訓練が行き届くまで――」
視線が、学術員へ向く。
「学術員を、必ず同席させなさい」
逃げ道の無い、命令。
「……了解しました」
リディアは、はっきりと答えた。
この場は、もう実験場ではない。
訓練地だ。
セリアは、最後に一言だけ付け加えた。
「使えるようにならなきゃ、意味がないもの」
その言葉に、誰も異を唱えなかった。
爆音の余韻が残る中、この地は――正式に“戦う準備の場”となった。
爆発音の余韻が、まだ耳に残る。
各員が後片付けや距離の再確認に動き出す中、セリアは、さりげなくタルトの隣に歩み寄った。
「タルトさん」
低めの声。周囲には聞こえない距離。
「例の“物”形にはなりそう?」
タルトは、顎を撫でながら遠くの的を一瞥する。
「そうですなぁ……」
少し考え、含みのある笑みを浮かべた。
「後少し、って感じですかな」
「……なるほど」
セリアは、それ以上深くは聞かない。
「分かったわ」
軽く頷き、視線を戻す。
「完成したら、私にも教えてね」
「承知しました」
短いやり取り。だが、その内容を正確に理解できた者は、この場にほとんどいない。
リディアは背後からその様子を見て、“まだ出ていない札がある”ことだけを察した。
新兵器は、これで終わりではない。
セリアは、静かに思う。
——次は、見せる相手を選ばなきゃね。
訓練地には、再び規則正しい動きと、これから起こる“何か”の気配だけが残っていた。




