初めて見た“答え”
セリアは、やけに明るい声で言った。
「さあさあ! ピクニックじゃないんだから、しゃんとしなさい!」
三人の女性は、思わず顔を見合わせる。
……ピクニック……?
どこをどう見ても、そんな雰囲気ではない。
その間に、まるで事前に段取りが決まっていたかのように、タルトと学術員が荷馬車の奥から物を運び出し始めた。
――鎧。
それも、新品ではない。前の戦で鹵獲した、旧ガリオン領兵が実際に装備していたものだ。
胸当て、兜、肩当て。
それらが距離を変えて、地面に次々と並べられていく。
「……」
リディアは、それを見た瞬間に察した。
これは……“何かやる”ただの訓練ではない。
わざわざここまで来て、実戦装備を並べる理由は一つしかない。
セリアは、全体を一度見渡すと、学術員に向き直った。
「準備は?」
「はい。問題ありません」
セリアは軽く頷き、宣言する。
「――では。今から、新兵器の試験を行います」
三人の女性が、一斉に息を呑んだ。
「まずは、手投げ弾です」
学術員は、片手に小さな筒状の物を持ち上げる。
「これは以前の戦いで、発火装置として使われた物を元にしています。その際に判明した欠点は――」
「細かい説明はいらないわ」
セリアが、ばっさり切った。
「使い方だけ」
「……はい」
学術員は一瞬姿勢を正し、淡々と説明を始める。
「まず、この紐を引きます」
紐が引かれ、軽い音と共に――
頭部のカバーが弾け飛んだ。
「次に、この突起部分を、鉄製の兜や硬い物に叩きつけます」
カン、と乾いた音。
「そこから――約五秒後に……」
学術員は、鎧が据えられた的に向かって、それを投げた。
――次の瞬間。
どっかん!!
地面が震え、空気が破裂する。
爆音。
砂埃。
衝撃波。
「――――!!」
誰も、声を出せなかった。
鎧に目を向けると、胸部、脇腹、関節部――致命部位に複数の破壊痕。
貫通ではない。
“内部から壊された”ような、凄惨な傷だった。
三人の女性は、完全に固まっていた。
……これが……
……守るための……
リディアも、無意識に喉を鳴らす。
セリアは、静かに頷いた。
「……実験は成功ね」
その声は、驚くほど落ち着いていた。
「じゃあ、次」
軽く手を叩く。
「新型火縄。予定通り、試験に入りましょう」
タルトが、ずしりとした物を持ち上げる。
それは、三人は見たことのない――
リディアは明らかに火縄だった。
誰もが理解する。
今日ここで見せられているのは、武器ではない。
この領地が、何を選んだかという“答え”だ。
そして三人は、もう後戻り出来ない場所に立っていることを――
はっきりと自覚し始めていた。
タルトは、肩に担いだそれを軽く叩いた。
「難しい話は省くぞ」
いつもの職人らしい、ぶっきらぼうな口調だ。
「これは新型の火縄じゃ」
火縄、と言いながら――その形は、明らかにこれまでの物と違っていた。
「クロスボウからもヒントを貰っとる。肩当て出来る様にな」
言いながら、肩に当てて構える。
「黒火薬を入れて……玉を入れる」
ごく簡単な動作。
「ほれ」
ボンッ!
乾いた、しかし重い破裂音。
数メートル先に置かれていた鎧に――
丸く、綺麗な穴が空いた。
貫通ではない。
撃ち抜いた、と表現するしかない穴だった。
「……!?」
思わず声を上げたのは、リディアだった。
「ちょっと待って……!」
視線が、銃口とタルトの手元を往復する。
「……何で?火縄が、無い……?」
そう。火は見えなかった。火縄に点火する仕草も無い。
タルトは、鼻で笑った。
「気づいたか」
そう言って、銃身の横を指で叩く。
「火縄は要らん」
「!?」
「代わりに、火打石を組み込んどる」
学術員が、補足するように続けた。
「引き金と同時に、火打石が火花を散らします。火縄の代わりです」
「……そんな事が……」
リディアは、呆然と呟く。
タルトは肩をすくめた。
「無敵じゃあないぞ」
現実的な声。
「雨の日はまた厳しいと思う。土砂降りや火打石が濡れすぎりゃ不発もある」
「じゃがな」
穴の空いた鎧を、ちらりと見る。
「普通の天気なら、火縄を気にする必要は無い」
その言葉が、ずしりと響いた。
三人の女性は、言葉を失っていた。
……これが……
……“準備”……
セリアは、満足そうに頷く。
「十分ね」
その一言で、全てが決まったかのようだった。
「これなら、守れる」
誰に向けた言葉でもない。
だがその場にいる全員が、この武器が意味するものを理解していた。
――もう、この領地は「何も出来ない側」ではない。
静かな空の下、新しい“力”が、確かに形になった瞬間だった。




