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階段から転落して思い出しました!89歳まで生きた私、今度の人生は異世界で半島領の次女です  作者:


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理屈の合う違和感

荷馬車は、ゆっくりと進んでいた。


積まれているのは、食料、野営用の資材、そして――学術員とタルト。


……そこまでは、まだギリ分かる。


リディアは、前方を警戒しながら横目で様子を確認する。


学術員は、道の途中で立ち止まり、地面に杭を打ち込んでいた。

紐を結び、距離を測り、角度を確認する。


測量……か?


未開地に近い場所。地図は曖昧。新たな測量と、それに伴う警護。


それなら、話は通る。


実際、こうした行軍訓練と兼ねた地図作成は、過去にも例がある。


問題は――


タルトさん……?


荷馬車に揺られながら、鍛治士は黙って周囲を見ている。


護衛対象でもない。測量でもない。


鍛治士が、わざわざこの場所に来る理由。

それが、どうしても思い浮かばない。


そして、さらに。


……あの三人。エルザ、ミレイナ、マリナ。


三人とも、やたらと重そうな荷を背負っている。肩紐は深く食い込み、息も荒い。


……十キロ以上はあるわね。


体力作りの訓練。

そう言われれば、納得できなくもない。


でも……わざわざ未開地で?

学術員と鍛治士を伴って?


やっぱり、変。視線を前に戻す。


そして――一番、違和感がない存在。


……お母様。


セリアは、軽やかに歩いていた。

背負っている荷は、三人と同じ。

それでも息一つ乱さず、むしろ楽しそうですらある。


……本当に同じ重さなのよね、あれ。


リディアは、以前に確認している。

確かに、同じだった。


なのに、この差……

化け物じみた体力。そして、この布陣。

測量、鍛治士、学術員、訓練中の三人……


点は、揃っている。だが、線が繋がらない。


何かを“作る”……?それとも、“試す”……?


答えは出ない。

セリアは、ふと振り返り、楽しげに言った。


「いい天気ね。行軍日和だわ」


……そういう問題じゃない!


リディアは、心の中でそう突っ込みながら、

剣の位置を確かめた。


理屈は合う。だが、何かが決定的に隠されている。


この行軍は――ただの訓練ではない。

その確信だけが、一歩一歩、強まっていった。


学術員は、最後の杭を打ち終えると、紐を巻き取りながらセリアの元へ戻ってきた。


「奥様。そろそろ大丈夫な距離です」


地図代わりの紙束を確認し、続ける。


「移動距離は、半日と少し。これ以上進めば、戻るのも手間になります」


セリアは頷いた。


「ええ。十分ね」


周囲を見渡し、即座に判断する。


「じゃあ――ここで一日、野営にしましょう」


その一言で、空気が切り替わった。


「野営準備!配置はいつも通り!」


リディアが声を張り上げる。


警備隊が散開し、周囲の安全確認。

簡易柵の設置、火の準備、荷の降ろし。


……動きは、完全に“実地”ね。


リディアは内心でそう評価する。


その間、セリアはタルト、学術員と共に少し離れた場所へ移動していた。

三人は地面に紙を広げ、石で押さえながら低い声で話し合っている。


距離はある。

内容までは聞こえない。


だが――完全に“別件”ね。


訓練や測量の打ち合わせではない。

それだけは、リディアにも分かった。


一方。


「……はぁ……」


エルザが、膝に手をついて息を吐く。


「もう……無理……」


ミレイナは、その場に座り込みそうになり、マリナに支えられていた。

三人とも、顔色ははっきりと疲労を示している。汗は乾き、脚は震えている。


……これ、ただの体力作りじゃないわね。


リディアは、三人の様子を見て確信する。

“選ばれた”とは、こういうことか。


背負わせている荷も、進ませている距離も、

止める場所も。すべてが、計算されている。

ふと、セリアがこちらを振り返る。

視線が一瞬、リディアと交わった。


――何も言わない。ただ、微笑むだけ。


……やっぱり。


リディアは、剣の柄に手を置いた。この野営は、休息の為じゃない。


ここから先で――“何か”が始まる。


その予感と気配と共に、静かに膨らんでいった。

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