揺れる海と迫る影
ふっふ〜ん、ふっふ〜ん、ふん〜。
今日は港へ。
強襲揚陸艦の進捗状況を確認しに行く日。
「楽しみだなぁ〜。やっぱり船は良いわよね」
桟橋へ向かう足取りは軽い。
巨大な船体、組み上がる装甲、忙しく行き交う職人たち。
はぁ〜、と小さく息を吐く。
「本当なら、貨客船も造りたいところだけど……」
視線は海の向こう。
「雲行きが、ね」
平時なら夢物語で済んだ話。
だが今は――備えが優先だった。
一方その頃。
「はぁ……はぁ……」
「ちょ、ちょっと……まだ続くの……?」
三人の女性は、完全にバテていた。
背負わされた荷物は、約十キロ。
それを担いだまま、館の敷地内を延々と走らされている。
「……これ、訓練って言うより拷問じゃ……」
エルザがぼやいた、その瞬間。
ぴょん。
ぴょんぴょん。
目の前を、同じ装備を背負った領主の奥様――セリアが、軽やかに跳ね回っていた。
「はいはい、止まらない止まらない♪」
「……」
三人は顔を見合わせる。
「……重さ、同じですよね?」
確認するように、ミレイナが聞く。
「ええ、同じよ?」
あっさり。実際に持ち比べてみても、確かに同じ重さだった。
「……何なの、この人」
「化け物……?」
誰かが、心の声を漏らした。セリアは振り返り、にこりと笑う。
「大丈夫。慣れるわ」
全く、安心できない一言だった。
そして――アステリア。
港の事務所の一室に、厳重に梱包された箱が運び込まれていた。
箱と共に、一通の文。短い、簡潔な文字。
――いざとなったら、遠慮なく使いなさい。
――追加で二十。追って送る。
嫌な予感が、胸をよぎる。
箱を開ける。
中には、真新しい軍用クロスボウが二十基。
整然と並べられた矢束。数も十分すぎるほど。
「……これは」
側にいた者が、思わず呟く。
「姉御……そこまで、迫ってるって事か?」
アステリアは、文を静かに折り畳んだ。
港では船が造られ、館では“影”が鍛えられ、
そして――武器が集まり始めている。
まだ、表には何も出ていない。
だが確実に。
平穏の下で、次の波は――近づいていた。




