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階段から転落して思い出しました!89歳まで生きた私、今度の人生は異世界で半島領の次女です  作者:


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対等な立場

中庭では、セリアとリディア警備隊長が向かい合っていた。

配置図を広げ、指でなぞりながら、静かな声で打ち合わせをしている。


「見張塔から港までの連携だけど――」


「はい。警備隊の巡回時間を少しずらせば、死角は減ります」


そんなやり取りの最中だった。


足音が二つ、はっきりと近づいてくる。

顔を上げると、そこには機構隊長とパナーが並んで立っていた。


セリアは一瞬だけ目を細め、すぐに軽い調子で言う。


「あら? いよいよかしら?」


機構隊長は肩をすくめた。


「そうだな。お互い、腹を割って話した方が早いと思ってな」


「そうね」


セリアは頷く。


「確かに、その方が無駄が無いわ」


横で聞いていたリディアは、状況が掴めず眉を寄せる。


「……何の話でしょうか?」


だが、機構隊長はリディアには答えず、セリアだけを見る。


「ただなぁ……」


言葉を選ぶように、少し間を置く。


「話すにしても、せめて“対等”じゃないとな。情報を渡した途端、敵に捕まって全部ゲロられても困るんでな」


中庭の空気が、わずかに張り詰めた。


セリアは一瞬も動じない。


「成る程」


ゆっくりと、納得したように頷く。


「確かに、隊長の言う通りね。その考えには、私も賛成よ」


リディアが驚いた顔で母を見る。


「大丈夫よ」


短く答え、視線を機構隊長へ戻す。


「で?どうするの?」


機構隊長は、にやりと笑った。


「話は早い」


腰に手を当てる。


「訓練用の武器を取れ」


一瞬、静寂。


リディアが息を呑み、パナーが一歩引く。


セリアは――楽しそうに、口角を上げた。


「あら、優しいのね」


そう言って、軽く肩を回す。


「じゃあ……」


一歩前に出て、機構隊長を見据える。


「貴方も、どうぞ?」


それは挑発ではなく、確認だった。


言葉よりも、書類よりも――“今の実力”で語れ、と。


中庭に吹く風が、二人の間を通り抜ける。


こうして話し合いは、剣と距離で始まることになった。


中庭の端で、リディアが訓練用の武器を取りに走った。

戻ってきた時には、既に空気が変わっていた。


木剣が二本。


一本は、機構隊長の手に。もう一本は、セリアの手に渡される。


「……一応言っとくが」


隊長は軽く剣を振り、感触を確かめる。


「手加減はしないぞ」


「ええ」


セリアは静かに構えた。


「その方が、正確に分かるもの」


合図は無い。次の瞬間、隊長が踏み込んだ。


――速い。


体格を活かした直線的な突進。実戦慣れした、迷いの無い初動。


だが。


セリアは半歩、横にずれただけだった。木剣が空を切る。


「っ!」


隊長はすぐに切り返す。横薙ぎ、逆袈裟、突き。連続する攻撃。

だが、その全てが――当たらない。

セリアは、避けているのではない。


“そこに居ない”。


踏み込みの角度、重心の移動、視線。

攻撃が来る前に、次の位置へ移っている。


「……っち!」


隊長は歯を食いしばる。ブランクがある?冗談じゃない……間合いを詰め直し、今度はフェイントを混ぜる。


下段――と見せかけて、上段。


しかし。コン、と軽い音。

セリアの木剣が、隊長の手首を正確に打った。


「っ!?」


一瞬、力が抜ける。その隙を、セリアは逃さない。


一歩、懐へ。柄で肘を押さえ、体を入れ替え――


「なっ……!」


視界が反転する。次の瞬間、背中から地面に叩きつけられていた。


鈍い音。肺から空気が抜ける。


「ぐっ……!」


隊長の喉元に、木剣が止まる。寸分の狂いも無い距離。セリアは、息一つ乱していなかった。


「……ここまで」


静かな声。中庭は、完全に静まり返っていた。


リディアは言葉を失い、パナーは目を見開いたまま動けない。


数秒後。


隊長は、ゆっくりと手を挙げた。


「……参った」


苦笑混じりに、息を整える。


「完敗だ」


立ち上がり、土を払う。


「いや……」


セリアを見上げる。


「正直に言う。想像以上だ」


セリアは木剣を下ろし、表情を緩めた。


「確認出来た?」


「ああ」


隊長は、深く頷いた。


「これなら……“影”を任せる資格は、十分過ぎるほどだ」


一瞬、視線を伏せ。そして、はっきりと言った。


「こちらの影も――情報を共有しよう」


セリアは微笑む。それは勝者の笑みではない。同じ立場に立った者への、合図だった。


こうして。影と影は、初めて“対等”として、繋がった。

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