見える評価
メイヤの今現在のルーティンは、ぶらぶら。
――いや、正確には、朝食後の領内視察だった。
各工事の進捗、警備の配置、商いの動き。
一見気まぐれに歩いているようで、視線は常に情報を拾っている。
その後に、領主館へ戻って重要要件の確認。
それが、ここ最近の決まった流れだった。
その道中。
ふと、メイヤの足が止まる。
「……ん?」
領民なら誰でも目にすることが出来る、木製の掲示板。
張り替えられたばかりらしい紙が、風に揺れていた。
――――
領民の皆さんへ
領地に貢献した方に対し
領主より賞状ならびに
金一封を差し上げます。
発表日程:――――
「へぇ……」
思わず、声が漏れる。
「お父様のアイディアかしら?」
制度としては単純だ。
だが、“見える評価”は強い。
働いた者が、きちんと報われる。
しかもそれを、隠さず皆の前で示す。
「……うん」
小さく頷く。
「これなら、皆んな頑張るわよね」
誰かに命じられたわけでもない。
罰で縛るわけでもない。
それでも、人は動く。
メイヤは掲示板から視線を外し、再び歩き出した。
領地は、静かに――
しかし確実に、“回る仕組み”へと変わり始めていた。
発表当日。
初めての試みということもあり、領都の広場は朝からざわついていた。
屋台が出たわけでも、楽師がいるわけでもない。それでも人が集まり、自然と輪が出来る。
「何が始まるんだ?」
「領主様の発表らしいぞ」
そんな声があちこちから聞こえ、気付けば――ちょっとしたお祭り騒ぎになっていた。
選ばれた者は、十名。
男性五名、女性五名。
名前が一人ずつ読み上げられ、前へ進み出る。
そして――女性五名
その五名の中には、例の三名が居た。そう。あの三名だった。
領主は、一人ひとりに目を向け、理由と功績を語る。
地味だが欠かせない仕事。
誰も見ていない所での工夫。
積み重ねてきた日々。
決して英雄譚ではない。
だが、確かに領地を支えてきた“仕事”だった。
賞状が渡され、続いて金一封。
その瞬間――広場に、自然と拍手が湧き起こる。
最初は遠慮がちだった音が、次第に大きくなり、やがて揃った拍手になる。
それを見ていたのは、領民だけではなかった。
「……何だ?」
「平民が、呼ばれてる?」
たまたま通りかかった商人。
別の領地から来ていた職人。
外部の人間も足を止め、様子を眺めている。
そして、浮かぶのは同じ疑問。
――領主が、わざわざ平民に?
不思議そうな眼差し。時には、戸惑いすら混じる視線。だが、拍手は止まらない。
その光景を、少し離れた場所からメイヤは見ていた。
「……うん」
小さく、しかし確かに。
この領地の空気が、また一段、変わったのを感じながら。




