選ばれた理由
三人は、それぞれ別の部屋にいた。
窓はない。広くもない。だが、汚くはない。
木製の椅子。
背もたれに、きっちりと固定された腕。
足も同様に縛られているが、食い込むほどではなかった。
――逃がす気はないが、痛めつける気もない。
それが、部屋の作りから伝わってくる。
一人目。
飲食店の店員、ミレイナ。
(……夢じゃないわよね)
二人目。
農家のバツイチ、エルザ。
(縛り方が、妙に慣れてる……)
三人目。
食品加工場勤務の、マリナ。
(やっぱり、そういう人達か)
三人とも、「なぜ自分がここにいるのか」
その答えを、まだ持っていなかった。
扉が、静かに開く。
一人ずつ、同じ人物が入ってくる。
変装したセリアだった。
落ち着いた服装。柔らかい微笑み。
だが、視線は――明らかに、相手を測っている。
「驚かせてしまったわね」
最初に、そう言った。
「でも、叫ばなかった。暴れなかった。そこは評価してるわ」
エリザが震える声で言う。
「……私達、何をしたんですか?」
ミレイナ
「金なら……そんなに持ってない」
マリナは黙って、相手を見る。
セリアは、首を横に振った。
「違うわ。あなた達は“何もしていない”」
一拍、置く。
「だからこそ、ここにいる」
三人の表情が、揃って固まる。
「これから説明する話を聞いて」
セリアは椅子の前に立ち、淡々と語り始めた。
「このフェルナード領は、今、急速に発展している」
港。街道。工場。人の流入。
「外から見れば、“美味しい土地”よ」
エリナが息を呑む。
「発展は、守られて初めて意味を持つ」
「でも――」
セリアの声が、少しだけ低くなる。
「今まで、この領地は“守られ過ぎていなかった”」
ミレイナが眉を寄せた。
「……戦争?」
「いいえ」
即答。
「表立った戦じゃないわ」
「金、噂、人の流れ。それから――裏の動き」
マリナの目が、僅かに細くなる。
「あなた達は、特別な訓練を受けた兵士じゃない」
「でもね」
セリアは、三人それぞれを見た。
「“普通の場所”に居て、“普通に情報に触れる立場”にいる」
沈黙。
「だから聞くわ」
穏やかな声。
「新しい、極秘の仕事をしない?」
三人とも、言葉を失う。
「何を……させられるんですか?」
エリナが、恐る恐る尋ねた。
セリアは、すぐには答えなかった。
代わりに、こう言う。
「それを決める前に、あなた達自身に考えてほしい」
「この領地が、今のまま無防備だったら――何が起こると思う?」
三つの部屋で、それぞれ違う沈黙が落ちた。
だが共通していたのは、全員が“否定できなかった”こと。
セリアは、最後に告げる。
「これは、強制じゃない」
静かに、扉へ向かう。
「答えは、少ししたら聞くわ」
扉が閉まる。
三人は、椅子に縛られたまま、同じ疑問を抱いていた。
――自分達は、もう“関係者”になってしまったのではないか、と。




