選ばれる側は、まだ知らない
セリアは、領都の人混みから少し距離を取った場所に立っていた。
視線は柔らかく、だが確実に――三人の女性を追っている。
表情には出さないが、これは“面談”ではない。“観察”だ。
まず一人目。
飲食店の店員。名前は――ミレイナ。
昼の忙しい時間帯。客の流れ、厨房との連携、金の管理。全てをそつなくこなしながら、周囲をよく見ている。
(……視野が広い)
酔客にも慣れている。理不尽な要求にも感情を表に出さない。だが、引くところと引かないところの線ははっきりしている。
(二重帳簿とか、向いてそうね)
次。
農村部。二人目は、バツイチの農家。
名前は――エルザ。
土にまみれた手。無駄のない動き。
家畜と子ども、両方の世話を一人で回している。
(腹が据わってる)
視線が強い。何かを決める時、迷いが少ない。誰かに頼るより、自分で抱える癖がある。
(口が固いタイプ)
最後。
食品加工場勤務。三人目は――フローラ。
流れ作業の中で、微妙な不良品を見逃さない。上に報告するタイミングも的確。
(“気づく”人ね)
同僚との距離感も絶妙。深入りしない。
でも孤立もしない。
(情報を“流す”役には、かなり良い)
セリアは小さく息を吐いた。
「……中々、悪くないわね」
問題は――ここからだ。私が直接呼び出すのは……視線を細める。流石に不自然!
領主館への呼び出し。理由の説明。噂。
どれも、今は要らない。
セリアは、少しだけ口角を上げた。
「となると……」
仕事終わり。人目の少ない時間帯。
一人ずつ。
「――拉致るか」
声は、独り言に近い。
もちろん、本当に乱暴に扱う気はない。
ただ、選択肢を与える前に――
“安全な場所”へ連れて来るだけ。
逃げ道は、用意する。でも……
来たなら、戻れなくなる。
セリアは踵を返した。
三人の女性は、まだ知らない。
自分達が“選ばれた理由”も、この先で背負うものも。
ただ――
仕事を終えた帰り道が、少しだけ、いつもと違うだけだ。
フェルナード領の裏側は、今日も静かに、人を集め始めていた。




