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階段から転落して思い出しました!89歳まで生きた私、今度の人生は異世界で半島領の次女です  作者:


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ハム

パナーは、機構本部の正面入口に立っていた。


……表から入るのは、久し振りだな。。


裏口や連絡通路ではなく、あえて正面。

今日は、それでいい。


受付に進み、軽く頭を下げる。


「最高責任者に会いたい」


受付嬢は、慣れた笑顔を浮かべた。


「恐れ入ります。最高責任者との面会は、事前にアポイントが必要ですが――」


「無い」


即答だった。


受付嬢は一瞬だけ言葉を止め、すぐに業務用の声に戻る。


「申し訳ございません。日程調整を行っていただかないと――」


その対応は正しい。正しすぎるほどだ。


パナーは、内心で小さく舌打ちした。

……仕事だ。悪くない。


無言で懐に手を入れ、小さなメモ紙を取り出す。


その場で、カキカキと短く書き、受付嬢の視界に差し出した。


メモに書かれていた文字は、たった一つ。


――「ハム」


次の瞬間。


受付嬢の顔色が、みるみる青ざめた。

笑顔は消え、背筋が伸びる。


「……少々、お待ちください」


声の調子が、完全に変わっていた。


受付嬢は慌てて奥へ下がり、小声で何かを伝える。数十秒も経たないうちに、戻ってきた。


「失礼いたしました。こちらへどうぞ」


先ほどまでの対応とは別人のようだった。


案内されたのは、来客用ではない奥の部屋。

扉は厚く、外の音は一切遮断される。


「只今、最高責任者をお呼び出ししております」


「……了解」


パナーは椅子に腰掛け、静かに息を整えた。


“ハム”――

それは緊急連絡用の合言葉であり、事前連絡を無視してでも通すべき案件を意味する符丁。


つまり。


これは「相談」でも「確認」でもない。

既に始まっている前提の話だ。


奥の部屋で、扉の向こうの気配を感じながら、パナーは静かに待った。


フェルナード領から持ち込まれた話が、いま、機構の中枢へと渡されようとしていた。

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